NHKと政治を問う① 「自律」への見識と気概~放送法が求める資質
「NHK会長として不適格ではないか」と、辞任や罷免を求める声が広がっています。会長就任会見での籾井勝人(もみいかつと)氏の発言をどうみるのか。NHKと政治の関係はどうあるべきか。識者が読み解きます。
松田 浩(元立命館大学教授 メディア研究者)
今回の「籾井発言」の最大の問題点は、籾井勝人NHK新会長が放送法の求める公共放送の使命とその最高責任者たる会長の重責について、何も理解していないことである。そのような資質と見識を欠く人物を会長に選んだ経営委員会の責任もまた、きびしく間われている。
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就任会見する籾井勝人新会長=1月25日
歴史への反省
放送法の求める公共放送の使命とは何か。それは権力からも、また商業主義の論理からも「自立」して国民の「知る権利」に応え、文化・ジャーナリズムの大衆メディアとして、日本に「健全な民主主義」を育てることである。放送法は、国民が受信料を負担して支える非営利の公共放送と、広告収入を財源とする民放の二つのタイプの放送事業体の競争的共存を通じて、上記の放送の公共的機能をより多元的、かつ十全な形で実現させようと意図している。公共放送は、教育チャンネル(Eテレ)を含めてテレビ4波、ラジオ2波を擁する「基幹的全国放送機関」として別格の位置づけを与えられている。
では、その最高責任者であるNHK会長に求められる資質とは何か。それは「不偏不党」「政治的公正」「自律」の見識と気概だといっていい。「不偏不党」と「自律」の核心は、政府からの「独立」にほかならない。
現・放送法の理念の根底には、戦前のNHKが「国家の放送」として政府に支配され、国民を侵略戦争に動員した歴史への反省がある。国民主権のもと、NHKは「国民のための公共放送」として戦後、再出発した。
だから、公共放送が国民の「知る権利」に応え、自由な討論の広場(民主的世論形成の場)として「健全な民主主義に資する」(第-条「目的」)ためには、言論・報道機関として権力からの「自立」が不可欠だし、「政治的公正」が大前提となる。
とりわけ重要なのは、言論・報道機関の担い手としての公共的理念と自覚が、トップから報道・制作現場の末端に至るまで共有されることである。文化創造とジャーナリズムのメディアとして、自由闊達(かったつ)で民主的な職場環境は欠かせない。
信頼性を失墜
放送法第1条が「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」と“放送に携わる者の職責”を明示していることの意味が、ここでは肝要だ。会長には、公共放送の理念の体現者、リーダーとしての資質と高い見識が求められているのである。
その最重要な見識と資質を欠落させ、公共放送NHKへの信頼性を内外で著しく失墜させた籾井会長の責任は重大だ。多くの視聴者団体や市民から辞任勧告や経営委員会への罷免要求(放送法第55条)が突きつけられたのは、当然過ぎるほど当然だった。それはまた、権力の介入に大きく地を残した経営委員やNHK会長の現行選任システムの持つ欠陥を、抜本的に改革することの重要性を緊急の課題として提起している。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月8日付掲載
最高責任者であるNHK会長に求められる資質とは何か。それは「不偏不党」「政治的公正」「自律」の見識と気概だといっていい。「不偏不党」と「自律」の核心は、政府からの「独立」だということだ。
その会長が、「政府が右という事を左とは言えない」などという発言をすることは許されない。
NHKは財政的には受信料で支えらてているにも関わらず、経営委員会の構成に政府がかかわっているというシステム自体に問題があると思う。
「NHK会長として不適格ではないか」と、辞任や罷免を求める声が広がっています。会長就任会見での籾井勝人(もみいかつと)氏の発言をどうみるのか。NHKと政治の関係はどうあるべきか。識者が読み解きます。
松田 浩(元立命館大学教授 メディア研究者)
今回の「籾井発言」の最大の問題点は、籾井勝人NHK新会長が放送法の求める公共放送の使命とその最高責任者たる会長の重責について、何も理解していないことである。そのような資質と見識を欠く人物を会長に選んだ経営委員会の責任もまた、きびしく間われている。
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就任会見する籾井勝人新会長=1月25日
歴史への反省
放送法の求める公共放送の使命とは何か。それは権力からも、また商業主義の論理からも「自立」して国民の「知る権利」に応え、文化・ジャーナリズムの大衆メディアとして、日本に「健全な民主主義」を育てることである。放送法は、国民が受信料を負担して支える非営利の公共放送と、広告収入を財源とする民放の二つのタイプの放送事業体の競争的共存を通じて、上記の放送の公共的機能をより多元的、かつ十全な形で実現させようと意図している。公共放送は、教育チャンネル(Eテレ)を含めてテレビ4波、ラジオ2波を擁する「基幹的全国放送機関」として別格の位置づけを与えられている。
では、その最高責任者であるNHK会長に求められる資質とは何か。それは「不偏不党」「政治的公正」「自律」の見識と気概だといっていい。「不偏不党」と「自律」の核心は、政府からの「独立」にほかならない。
現・放送法の理念の根底には、戦前のNHKが「国家の放送」として政府に支配され、国民を侵略戦争に動員した歴史への反省がある。国民主権のもと、NHKは「国民のための公共放送」として戦後、再出発した。
だから、公共放送が国民の「知る権利」に応え、自由な討論の広場(民主的世論形成の場)として「健全な民主主義に資する」(第-条「目的」)ためには、言論・報道機関として権力からの「自立」が不可欠だし、「政治的公正」が大前提となる。
とりわけ重要なのは、言論・報道機関の担い手としての公共的理念と自覚が、トップから報道・制作現場の末端に至るまで共有されることである。文化創造とジャーナリズムのメディアとして、自由闊達(かったつ)で民主的な職場環境は欠かせない。
信頼性を失墜
放送法第1条が「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」と“放送に携わる者の職責”を明示していることの意味が、ここでは肝要だ。会長には、公共放送の理念の体現者、リーダーとしての資質と高い見識が求められているのである。
その最重要な見識と資質を欠落させ、公共放送NHKへの信頼性を内外で著しく失墜させた籾井会長の責任は重大だ。多くの視聴者団体や市民から辞任勧告や経営委員会への罷免要求(放送法第55条)が突きつけられたのは、当然過ぎるほど当然だった。それはまた、権力の介入に大きく地を残した経営委員やNHK会長の現行選任システムの持つ欠陥を、抜本的に改革することの重要性を緊急の課題として提起している。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月8日付掲載
最高責任者であるNHK会長に求められる資質とは何か。それは「不偏不党」「政治的公正」「自律」の見識と気概だといっていい。「不偏不党」と「自律」の核心は、政府からの「独立」だということだ。
その会長が、「政府が右という事を左とは言えない」などという発言をすることは許されない。
NHKは財政的には受信料で支えらてているにも関わらず、経営委員会の構成に政府がかかわっているというシステム自体に問題があると思う。