沖縄新基地問題 地方自治から見る② なりふりかまわぬ二枚舌
専修大学 白藤博行教授に聞く
―翁長雄志沖縄県知事が海底調査の停止を「指示」しました。「調査」名目で何十トンもある巨大コンクリートブロックを多数沈めでサンゴを壊しているという実態が、反対派のダイビングチームの調査などで判明したからです。これに対し、国(沖縄防衛局)は不服を申し立てました。どんな問題があるのでしょうか。
白藤 行政不服審査法の目的は、国民の権利利益を救済し、行政の適正を確保することです。
県の漁業調整規則との関係で身近な例を挙げれば、漁師さんが規則に基づく許可をとって漁業を営んでいるとき、その許可が違法・不当に取り消された場合、不服申し立てを行い、救済を求めることです。
想定はされず
ですから、そもそも行政権(公権力)の行使主体である国が、同じく行政権(公権力)の行使主体である地方公共団体の行為に対し不服申し立てすることは想定されていません。
そこで無理を通す理屈として、国は「一般私人と同様の立場に立って処分の名あて人となった」と主張し、農水相もこれを認めていますが、奇妙な論理です。海底調査が辺野古の海の埋め立てを目的としたものであることは明々白々です。そしてその埋め立てについては、公有水面埋め立て法に基づいて、国は沖縄県の「承認」を得ています。一般私人であれば埋め立て「免許」が必要なところ、行政権の主体としての「国」は、「承認」で済む特権を享受しています。ところが、この公有水面埋め立てを目的とする海底調査の許可については、突如「私人」を強調するのです。たしかに、公有水面埋め立て法と水産資源保護法・沖縄県漁業調整規則の法目的は異なるという理屈もあるでしょうが、埋め立て目的を達成するための一連の過程で、一方では行政権の主体で、他方で私人であるというのは、いかにもわかりにくい使い分けです。なりふりかまわずの二枚舌の対応というしかありません。
調整システム
こんな無理をする狙いは、行政不服審査手続きにもちこみ、その審査中は海底調査停止の知事の指示の効力を停止し、工事を続行することにあります。
本来、国と地方公共団体の関係については、地方自治法に別に調整のシステムがあります。海底調査の許可は、水産資源保護法に基づく沖縄県漁業調整規則に基づき県がこれを行うことになっています。この事務は、都道府県が処理する「法定受託事務」の一種です。国が県の事務処理を違法・不当であると考えれば、地方自治法に基づき、是正を指示したり、なおも県が従わないとき、訴訟を提起することもできる仕組みになっています。
しかし、この国の関与の仕組みを利用することになると、水産資源保護法の適切な解釈・運用の観点から、県の事務処理が適切だったかどうかが問題となるので、防衛局が不服審査の申し立てで述べたような「日米関係への悪影響など外交・防衛上の損害が生じる」という事情をあげ、是正の指示を行うことは難しいとでも考えたのでしょうか。
それにしても、いかにも無理筋の理論を振り回し、不服審査手続きに持ち込んだのも勝手ですが、国が主導した「地方分権改革」の「成果」までをないがしろにする暴論です。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年4月6日付掲載
国は、公権力と「私人」の使い分けをやって、どうしてもボーリング調査の継続、さらには新基地建設開始をやりたいのでしょうが…。
どうしても無理があります。
専修大学 白藤博行教授に聞く
―翁長雄志沖縄県知事が海底調査の停止を「指示」しました。「調査」名目で何十トンもある巨大コンクリートブロックを多数沈めでサンゴを壊しているという実態が、反対派のダイビングチームの調査などで判明したからです。これに対し、国(沖縄防衛局)は不服を申し立てました。どんな問題があるのでしょうか。
白藤 行政不服審査法の目的は、国民の権利利益を救済し、行政の適正を確保することです。
県の漁業調整規則との関係で身近な例を挙げれば、漁師さんが規則に基づく許可をとって漁業を営んでいるとき、その許可が違法・不当に取り消された場合、不服申し立てを行い、救済を求めることです。
想定はされず
ですから、そもそも行政権(公権力)の行使主体である国が、同じく行政権(公権力)の行使主体である地方公共団体の行為に対し不服申し立てすることは想定されていません。
そこで無理を通す理屈として、国は「一般私人と同様の立場に立って処分の名あて人となった」と主張し、農水相もこれを認めていますが、奇妙な論理です。海底調査が辺野古の海の埋め立てを目的としたものであることは明々白々です。そしてその埋め立てについては、公有水面埋め立て法に基づいて、国は沖縄県の「承認」を得ています。一般私人であれば埋め立て「免許」が必要なところ、行政権の主体としての「国」は、「承認」で済む特権を享受しています。ところが、この公有水面埋め立てを目的とする海底調査の許可については、突如「私人」を強調するのです。たしかに、公有水面埋め立て法と水産資源保護法・沖縄県漁業調整規則の法目的は異なるという理屈もあるでしょうが、埋め立て目的を達成するための一連の過程で、一方では行政権の主体で、他方で私人であるというのは、いかにもわかりにくい使い分けです。なりふりかまわずの二枚舌の対応というしかありません。
調整システム
こんな無理をする狙いは、行政不服審査手続きにもちこみ、その審査中は海底調査停止の知事の指示の効力を停止し、工事を続行することにあります。
本来、国と地方公共団体の関係については、地方自治法に別に調整のシステムがあります。海底調査の許可は、水産資源保護法に基づく沖縄県漁業調整規則に基づき県がこれを行うことになっています。この事務は、都道府県が処理する「法定受託事務」の一種です。国が県の事務処理を違法・不当であると考えれば、地方自治法に基づき、是正を指示したり、なおも県が従わないとき、訴訟を提起することもできる仕組みになっています。
しかし、この国の関与の仕組みを利用することになると、水産資源保護法の適切な解釈・運用の観点から、県の事務処理が適切だったかどうかが問題となるので、防衛局が不服審査の申し立てで述べたような「日米関係への悪影響など外交・防衛上の損害が生じる」という事情をあげ、是正の指示を行うことは難しいとでも考えたのでしょうか。
それにしても、いかにも無理筋の理論を振り回し、不服審査手続きに持ち込んだのも勝手ですが、国が主導した「地方分権改革」の「成果」までをないがしろにする暴論です。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年4月6日付掲載
国は、公権力と「私人」の使い分けをやって、どうしてもボーリング調査の継続、さらには新基地建設開始をやりたいのでしょうが…。
どうしても無理があります。