どうみる改悪派遣法 座談会③ 雇用守る共同大きく
全労連事務局長 井上 久さん
日本共産党副委員長(参院議員) 小池 晃さん
弁護士 鷲見(すみ) 賢一郎さん
でたらめ答弁突いた論戦
―派遣労働者の正社員化(直接雇用)の道を閉ざす問題点を明らかにした論戦はインパクトがありましたね。
鷲見 私は参考人として、業務単位の期間制限をなくしたことが重大な問題だと指摘しました。
少し説明しますと、派遣の期間制限はこれまで業務単位だったのです。“派遣法の生みの親”といわれる高梨昌氏が著書『詳解労働者派遣法』で書いていますが、期間制限は業務単位にするから意味がある。業務単位で制限すれば、期間が過ぎたらその職場ではもう一切派遣を使えない。そういう方法をとらないと、派遣先は派遣会社や派遣労働者を入れ替えて何年でも派遣を使うことができることになる。高梨氏は、業務単位の期間制限の方法以外では「派遣先の常用雇用の代替防止の実効を期すことが困難となる」と書いています。
また、業務単位の期間制限のもとでは、制限期間が過ぎてなおその業務を続けたければ、派遣労働者を直接雇用するしか他に方法がない。ですから業務単位の期間制限は直接雇用を促進する機能があるわけです。今回の改悪は、その機能も奪ってしまったわけです。
人を代えて継続
正社員への道閉ざす
井上 鷲見先生がそれを参考人のときに主張されて、民主党の雰囲気が変わりましたよね。
何が問題なのかよくわかったという雰囲気になりました。
鷲見 期間制限といっても業務単位と個人単位では意味がぜんぜん違うのです。個人単位の期間制限は、人を代えればいくらでも続けられる。派遣労働者の正社員への道はなくなるわけです。
小池 「希望すれば正社員になれる」と安倍首相はいったけれど、派遣先に雇ってくれるよう「お願い」するだけです。安倍首相も塩崎厚労相も「これは経営判断だ」と答えて、何の保障もないことが明らかになりました。
正社員になれるようにキャリアアップ措置をとるというのもおかしい話です。だいたい正社員よりもキャリア、スキルがある派遣労働者は少なくありません。キャリアがないから正社員になれないのではなくて、「雇用の調整弁」として使い捨てにしたいから派遣にしているのです。キャリアアップ措置で正社員への道を開くというが何の実効性もないじゃないかと迫ると、政府はまともに答えられない。
派遣労働者が実態語り運動広げた
―派遣労働者が反対の声をあげる動きが注目されました。
小池 派遣で働いている当事者が衆議院、参議院の参考人質疑、地方公聴会でリアルな実態を語ってくれ、傍聴にもつめかけてくれたのは大きかったですね。
井上 われわれや労働弁護団の記者会見、宣伝行動に参加し、労働組合に入る人も出ました。身分が不安定で、声を上げるのがきびしいという人が多かったと思いますが、これは重要な動きでした。
鷲見 派遣労働者は賃上げ・一時金なし、交通費なし、ロッカーの使用差別などひどい扱いを受けています。それなのに、また改悪かと怒っています。
「派遣労働者110番」でひどいと思ったのは、労災かくしです。仕事で指を傷めて病院で診察をうけたら、労働災害にあたると診断された。派遣先の上司に労災申請について相談したら、上司はいやな顔をし、「うち、これまでも何人か死んでるんだよ」といわれたというんです。こういう人たちと新たな運動をともに起こしていく必要があると思います。
小池 参考人質疑や公聴会で「人間扱いされていない」という当事者のリアルな話がすごく響きました。「派遣元に無期雇用されている派遣は安定している」と政府がいくらいっても、そんな実態はない、仕事がなくなったらすぐに切られる経験を繰り返しているわけだから、説明がいかにでたらめかわかる。現場の実態は、全体の議論に影響を与えましたね。
派遣法大改悪に反対する人たち=5月27日、衆院第2議員会館前
労働法制の改悪阻止へ
―改悪派遣法のもとで一雇用破壊を許さないたたかいの強化が重要になっていますね。
労働組合の役割が大きくなる
鷲見 私は労働組合の役割が大きくなると思います。改悪派遣法で、派遣先企業は3年たって派遣を継続するかどうか過半数労働組合等の意見聴取をしなければなりません。たとえば、労働組合から再度の異議があったら、派遣延長の中止、期間の短縮などを検討することが「派遣先指針」に盛り込まれました。
井上 これは重要だと僕も思っています。労働組合への意見聴取問題は、国会論戦でも意見を聞くだけで実効性がないという批判があり、ついに修正もして詳しく書かざるをえませんでした。
小池 国会は日本共産党が選挙で躍進して、厚生労働委員会は衆議院で高橋千鶴子さんと堀内照文さんの2人体制になりました。参議院の厚労委員は1人だけれども、私だけでなく、吉良よし子さん、辰巳孝太郎さんも質問に立って論戦をやりました。躍進した党議員団の力が論戦で発揮されたことをぜひとも強調しておきたい。
今後のたたかいでは、安倍首相がいい続けた「正社員の道が開かれる」というのと法律はまったく正反対。正社員は増えず、逆に派遣労働者が増えていく。ここは彼らの最大の弱点ですよ。「1億総活躍社会」といいながら、格差と貧困を広げる派遣法の改悪をやったのは支離滅裂なわけで、そこを太く突いてたたかう必要があると思います。
井上 政府の「1億総活躍」というのは労働力不足が深刻で、要は安上がりで使い捨て可能な労働者として若者や女性、高齢者、外国人労働者を活用しようということです。
大企業がもうかればやがて家計に回ってくるという「トリクルダウン」なんてないんだということは保守の人たちも含めてだんだん分かってきて、世論は変わりつつあります。賃金底上げ、雇用の安定、社会保障の充実、中小企業の支援で内需の拡大をはかる地域循環型の社会に転換することが何より重要です。
―最後に、労働法制改悪に反対するたたかいの展望についてお話しください。
小池 解雇の金銭解決問題が急浮上してきましたし、労働基準法を改悪する「残業代ゼロ」法案は継続審議となっています。政府と与党は来年の国会で「残業代ゼロ法案」の成立をねらっていますが、国会直後に参議院選挙もあるから、彼らも追いつめられていきます。たたかい時ですね。
鷲見 派遣法改悪反対のたたかいを通じて労働法制への関心は高まっています。「残業代ゼロ」制度に反対するたたかいにも生きると思います。厚労省は10月29日に解雇の金銭解決制度の検討会を開始しています。早急に取り組みを強化する必要があります。
「残業代ゼロ」法案許さないたたかいを
小池 「残業代ゼロ」法案の審議では、残業時間の上限規制、勤務間休憩のインターバル規制を中心に労働時間規制の対案を示してたたかう必要があると思います。
井上 安倍政権の雇用破壊は「企業が世界で一番活躍しやすい国」をつくるという路線から出ています。その結果、企業は、派遣や非正規の労働者を低賃金で使い捨てにし、300兆円もの内部留保をためこんで深刻な矛盾がおこっています。もっと雇用の安定、派遣労働者の待遇改善、地域の活性化などに使わせる運動を強めたいと考えています。
鷲見 派遣法について私は、抜本改正の展望を強く打ち出す必要があると思います。労働者派遣は臨時的・一時的業務に限定すること。それと均等待遇原則を強くいうべきだと思います。この二つが確立できれば、派遣の弊害は大幅に軽減できます。この間のたたかいは、派遣法の抜本改正にむけて大きな力になると思います。
小池 日本共産党はいま「国民連合政府」の提起をしていますが、これは戦争法廃止と立憲主義を取り戻すという一点で共同の政府をつくろうという提起です。それ以外の課題でも合意できれば、一致点が広がると考えています。その最たるものが労働法制の分野だと思うんです。先の国会でも、野党が一致して廃案という立場で臨んだのは派遣法改悪案でした。改悪を元に戻すという点で野党が力を合わせていきたいと思います。そのなかで労働者を保護する派遣法に抜本的に変える展望が開かれると思います。いよいよたたかいがいのある情勢だと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年11月27日付掲載
改悪派遣法で、派遣先企業は3年たって派遣を継続するかどうか過半数労働組合等の意見聴取をしなければならない。
ますます労働組合の役割が増します。
日本共産党が選挙で躍進して、厚生労働委員会は衆議院で高橋千鶴子さんと堀内照文さんの2人体制。頼りがいがあります。
全労連事務局長 井上 久さん
日本共産党副委員長(参院議員) 小池 晃さん
弁護士 鷲見(すみ) 賢一郎さん
でたらめ答弁突いた論戦
―派遣労働者の正社員化(直接雇用)の道を閉ざす問題点を明らかにした論戦はインパクトがありましたね。
鷲見 私は参考人として、業務単位の期間制限をなくしたことが重大な問題だと指摘しました。
少し説明しますと、派遣の期間制限はこれまで業務単位だったのです。“派遣法の生みの親”といわれる高梨昌氏が著書『詳解労働者派遣法』で書いていますが、期間制限は業務単位にするから意味がある。業務単位で制限すれば、期間が過ぎたらその職場ではもう一切派遣を使えない。そういう方法をとらないと、派遣先は派遣会社や派遣労働者を入れ替えて何年でも派遣を使うことができることになる。高梨氏は、業務単位の期間制限の方法以外では「派遣先の常用雇用の代替防止の実効を期すことが困難となる」と書いています。
また、業務単位の期間制限のもとでは、制限期間が過ぎてなおその業務を続けたければ、派遣労働者を直接雇用するしか他に方法がない。ですから業務単位の期間制限は直接雇用を促進する機能があるわけです。今回の改悪は、その機能も奪ってしまったわけです。
人を代えて継続
正社員への道閉ざす
井上 鷲見先生がそれを参考人のときに主張されて、民主党の雰囲気が変わりましたよね。
何が問題なのかよくわかったという雰囲気になりました。
鷲見 期間制限といっても業務単位と個人単位では意味がぜんぜん違うのです。個人単位の期間制限は、人を代えればいくらでも続けられる。派遣労働者の正社員への道はなくなるわけです。
小池 「希望すれば正社員になれる」と安倍首相はいったけれど、派遣先に雇ってくれるよう「お願い」するだけです。安倍首相も塩崎厚労相も「これは経営判断だ」と答えて、何の保障もないことが明らかになりました。
正社員になれるようにキャリアアップ措置をとるというのもおかしい話です。だいたい正社員よりもキャリア、スキルがある派遣労働者は少なくありません。キャリアがないから正社員になれないのではなくて、「雇用の調整弁」として使い捨てにしたいから派遣にしているのです。キャリアアップ措置で正社員への道を開くというが何の実効性もないじゃないかと迫ると、政府はまともに答えられない。
派遣労働者が実態語り運動広げた
―派遣労働者が反対の声をあげる動きが注目されました。
小池 派遣で働いている当事者が衆議院、参議院の参考人質疑、地方公聴会でリアルな実態を語ってくれ、傍聴にもつめかけてくれたのは大きかったですね。
井上 われわれや労働弁護団の記者会見、宣伝行動に参加し、労働組合に入る人も出ました。身分が不安定で、声を上げるのがきびしいという人が多かったと思いますが、これは重要な動きでした。
鷲見 派遣労働者は賃上げ・一時金なし、交通費なし、ロッカーの使用差別などひどい扱いを受けています。それなのに、また改悪かと怒っています。
「派遣労働者110番」でひどいと思ったのは、労災かくしです。仕事で指を傷めて病院で診察をうけたら、労働災害にあたると診断された。派遣先の上司に労災申請について相談したら、上司はいやな顔をし、「うち、これまでも何人か死んでるんだよ」といわれたというんです。こういう人たちと新たな運動をともに起こしていく必要があると思います。
小池 参考人質疑や公聴会で「人間扱いされていない」という当事者のリアルな話がすごく響きました。「派遣元に無期雇用されている派遣は安定している」と政府がいくらいっても、そんな実態はない、仕事がなくなったらすぐに切られる経験を繰り返しているわけだから、説明がいかにでたらめかわかる。現場の実態は、全体の議論に影響を与えましたね。
派遣法大改悪に反対する人たち=5月27日、衆院第2議員会館前
労働法制の改悪阻止へ
―改悪派遣法のもとで一雇用破壊を許さないたたかいの強化が重要になっていますね。
労働組合の役割が大きくなる
鷲見 私は労働組合の役割が大きくなると思います。改悪派遣法で、派遣先企業は3年たって派遣を継続するかどうか過半数労働組合等の意見聴取をしなければなりません。たとえば、労働組合から再度の異議があったら、派遣延長の中止、期間の短縮などを検討することが「派遣先指針」に盛り込まれました。
井上 これは重要だと僕も思っています。労働組合への意見聴取問題は、国会論戦でも意見を聞くだけで実効性がないという批判があり、ついに修正もして詳しく書かざるをえませんでした。
小池 国会は日本共産党が選挙で躍進して、厚生労働委員会は衆議院で高橋千鶴子さんと堀内照文さんの2人体制になりました。参議院の厚労委員は1人だけれども、私だけでなく、吉良よし子さん、辰巳孝太郎さんも質問に立って論戦をやりました。躍進した党議員団の力が論戦で発揮されたことをぜひとも強調しておきたい。
今後のたたかいでは、安倍首相がいい続けた「正社員の道が開かれる」というのと法律はまったく正反対。正社員は増えず、逆に派遣労働者が増えていく。ここは彼らの最大の弱点ですよ。「1億総活躍社会」といいながら、格差と貧困を広げる派遣法の改悪をやったのは支離滅裂なわけで、そこを太く突いてたたかう必要があると思います。
井上 政府の「1億総活躍」というのは労働力不足が深刻で、要は安上がりで使い捨て可能な労働者として若者や女性、高齢者、外国人労働者を活用しようということです。
大企業がもうかればやがて家計に回ってくるという「トリクルダウン」なんてないんだということは保守の人たちも含めてだんだん分かってきて、世論は変わりつつあります。賃金底上げ、雇用の安定、社会保障の充実、中小企業の支援で内需の拡大をはかる地域循環型の社会に転換することが何より重要です。
―最後に、労働法制改悪に反対するたたかいの展望についてお話しください。
小池 解雇の金銭解決問題が急浮上してきましたし、労働基準法を改悪する「残業代ゼロ」法案は継続審議となっています。政府と与党は来年の国会で「残業代ゼロ法案」の成立をねらっていますが、国会直後に参議院選挙もあるから、彼らも追いつめられていきます。たたかい時ですね。
鷲見 派遣法改悪反対のたたかいを通じて労働法制への関心は高まっています。「残業代ゼロ」制度に反対するたたかいにも生きると思います。厚労省は10月29日に解雇の金銭解決制度の検討会を開始しています。早急に取り組みを強化する必要があります。
「残業代ゼロ」法案許さないたたかいを
小池 「残業代ゼロ」法案の審議では、残業時間の上限規制、勤務間休憩のインターバル規制を中心に労働時間規制の対案を示してたたかう必要があると思います。
井上 安倍政権の雇用破壊は「企業が世界で一番活躍しやすい国」をつくるという路線から出ています。その結果、企業は、派遣や非正規の労働者を低賃金で使い捨てにし、300兆円もの内部留保をためこんで深刻な矛盾がおこっています。もっと雇用の安定、派遣労働者の待遇改善、地域の活性化などに使わせる運動を強めたいと考えています。
鷲見 派遣法について私は、抜本改正の展望を強く打ち出す必要があると思います。労働者派遣は臨時的・一時的業務に限定すること。それと均等待遇原則を強くいうべきだと思います。この二つが確立できれば、派遣の弊害は大幅に軽減できます。この間のたたかいは、派遣法の抜本改正にむけて大きな力になると思います。
小池 日本共産党はいま「国民連合政府」の提起をしていますが、これは戦争法廃止と立憲主義を取り戻すという一点で共同の政府をつくろうという提起です。それ以外の課題でも合意できれば、一致点が広がると考えています。その最たるものが労働法制の分野だと思うんです。先の国会でも、野党が一致して廃案という立場で臨んだのは派遣法改悪案でした。改悪を元に戻すという点で野党が力を合わせていきたいと思います。そのなかで労働者を保護する派遣法に抜本的に変える展望が開かれると思います。いよいよたたかいがいのある情勢だと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年11月27日付掲載
改悪派遣法で、派遣先企業は3年たって派遣を継続するかどうか過半数労働組合等の意見聴取をしなければならない。
ますます労働組合の役割が増します。
日本共産党が選挙で躍進して、厚生労働委員会は衆議院で高橋千鶴子さんと堀内照文さんの2人体制。頼りがいがあります。