安倍政権と金融ビジネス② 民営化株は「金鉱脈」に
群馬大学名誉教授 山田博文さん
安倍政権下で、郵政民営化が再稼働し、4日、郵政民営化株式の最初の売出が実施されます。財務省の皮算用では、以後何回か実施する株式売出によって、約10兆円の株式売却収入金をもくろんでいるようです。
郵政で10兆円
10兆円といえば、消費税5%分で国庫に納入された税収額に匹敵します。もし、増税というやり方で10兆円を調達すると、国民の反発は避けられませんが、国有資産の郵政事業を民営化し、その株式を売却して集めるなら、目先の国民負担を避け、反発を抑えられる、と判断しています。
各国で民営化株式の売出が盛んになったのは、財政赤字が深刻化し、新自由主義・市場原理主義の「小さな政府」が台頭してきた1980年代後半以降でした。社会保障や福祉を敵視した米国のレーガン、英国のサッチャー、日本の中曽根各政権のもとで、世界的に民営化が加速していきます。
民営化株式の売出が行われる背景は次のようなことです。
第一に、財政赤字に悩む政府が、国民の反発をともなう増税というやり方を避けながら、新しい財源を獲得することです。
わが国では、当時の日本電信電話公社を民営化(株式会社NTT)し、1987~88年にかけ3回実施され、約10兆円を調達したNTT株式の売出です。この10兆円のほとんどは、枯渇していた国債の償還財源に繰り入れられました。
郵政民営化株式の場合、売却収入金合計のうち、4兆円分は、東日本大震災の復興財源とする計画です。
株式売却収入金の多少は、日経平均株価の水準に左右されるため、多額の株式売却収入金を求める安倍政権と財務省は、日本銀行を巻き込んだ超金融緩和政策、年金積立金の株式投資の増額など、多様な株価つり上げ策を展開しています。

日本郵政本社=東京・霞が関
大口の手数料
第二に、郵政民営化株式の売出は、内外の証券会社に、国家相手の大口の株式ビジネスを提供します。株式は、アジア・アメリカ・ヨーロッパで販売され、売出人の財務省は、内外の11社を主幹事証券とし、なかでも野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、アメリカのゴールドマン・サックス、JPモルガンの4社を中心となるグローバルコーディネーター(証券取り扱い業務を担う主幹事証券会社の中の中核となる会社)に指名しました。証券会社全体に支払われる初回の引受手数料は、245億円に達するようです。
その後も、証券会社は株式の売出のたび、手数料を獲得します。NTT株式の場合は3000億円を越える手数料を獲得したようです。証券会社は、株式の売買市場でも、各種の手数料を獲得できます。大型の民営化株式の売出は、各国の証券会社にとって、株式ビジネズを活性化する「金鉱脈」になっています。
株式の売出は、証券会社と株式を購入する投資家の意向に沿うことで実現されます。投資家の目的は利益の追求にあります。株式市場に依存した財政資金の調達は、投資家の利益を反映する政策を要望され、また株価に連動する不安定な財政を余儀なくされます。
実体経済の低成長下で、株式バブルを発生させている安倍政権は、民営化株式の売却収入金をもくろむ政府・財務省と、株式の引受、売出、売買などの株式ビジネスから利益を得ようとする内外の証券会社と投資家の利益に貢献しています。
民営化された郵政事業では、市場原理主義が浸透し、リストラとコスト削減が断行され、高い株価と配当金が求められます。これは利用者の国民に、高い手数料負担、地方の小規模郵便局の閉鎖を招いています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年11月4日付掲載
郵政の株式売買。1回限りですが10兆円は政府にとっては美味しい話しでしょうね。
新たに市場に出回る株価の安定した郵政株。証券会社にとっては手数料を稼ぐ絶好のツールでしょうね。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
安倍政権下で、郵政民営化が再稼働し、4日、郵政民営化株式の最初の売出が実施されます。財務省の皮算用では、以後何回か実施する株式売出によって、約10兆円の株式売却収入金をもくろんでいるようです。
郵政で10兆円
10兆円といえば、消費税5%分で国庫に納入された税収額に匹敵します。もし、増税というやり方で10兆円を調達すると、国民の反発は避けられませんが、国有資産の郵政事業を民営化し、その株式を売却して集めるなら、目先の国民負担を避け、反発を抑えられる、と判断しています。
各国で民営化株式の売出が盛んになったのは、財政赤字が深刻化し、新自由主義・市場原理主義の「小さな政府」が台頭してきた1980年代後半以降でした。社会保障や福祉を敵視した米国のレーガン、英国のサッチャー、日本の中曽根各政権のもとで、世界的に民営化が加速していきます。
民営化株式の売出が行われる背景は次のようなことです。
第一に、財政赤字に悩む政府が、国民の反発をともなう増税というやり方を避けながら、新しい財源を獲得することです。
わが国では、当時の日本電信電話公社を民営化(株式会社NTT)し、1987~88年にかけ3回実施され、約10兆円を調達したNTT株式の売出です。この10兆円のほとんどは、枯渇していた国債の償還財源に繰り入れられました。
郵政民営化株式の場合、売却収入金合計のうち、4兆円分は、東日本大震災の復興財源とする計画です。
株式売却収入金の多少は、日経平均株価の水準に左右されるため、多額の株式売却収入金を求める安倍政権と財務省は、日本銀行を巻き込んだ超金融緩和政策、年金積立金の株式投資の増額など、多様な株価つり上げ策を展開しています。

日本郵政本社=東京・霞が関
大口の手数料
第二に、郵政民営化株式の売出は、内外の証券会社に、国家相手の大口の株式ビジネスを提供します。株式は、アジア・アメリカ・ヨーロッパで販売され、売出人の財務省は、内外の11社を主幹事証券とし、なかでも野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、アメリカのゴールドマン・サックス、JPモルガンの4社を中心となるグローバルコーディネーター(証券取り扱い業務を担う主幹事証券会社の中の中核となる会社)に指名しました。証券会社全体に支払われる初回の引受手数料は、245億円に達するようです。
その後も、証券会社は株式の売出のたび、手数料を獲得します。NTT株式の場合は3000億円を越える手数料を獲得したようです。証券会社は、株式の売買市場でも、各種の手数料を獲得できます。大型の民営化株式の売出は、各国の証券会社にとって、株式ビジネズを活性化する「金鉱脈」になっています。
株式の売出は、証券会社と株式を購入する投資家の意向に沿うことで実現されます。投資家の目的は利益の追求にあります。株式市場に依存した財政資金の調達は、投資家の利益を反映する政策を要望され、また株価に連動する不安定な財政を余儀なくされます。
実体経済の低成長下で、株式バブルを発生させている安倍政権は、民営化株式の売却収入金をもくろむ政府・財務省と、株式の引受、売出、売買などの株式ビジネスから利益を得ようとする内外の証券会社と投資家の利益に貢献しています。
民営化された郵政事業では、市場原理主義が浸透し、リストラとコスト削減が断行され、高い株価と配当金が求められます。これは利用者の国民に、高い手数料負担、地方の小規模郵便局の閉鎖を招いています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年11月4日付掲載
郵政の株式売買。1回限りですが10兆円は政府にとっては美味しい話しでしょうね。
新たに市場に出回る株価の安定した郵政株。証券会社にとっては手数料を稼ぐ絶好のツールでしょうね。