安倍政権と金融ビジネス③ 年金使い株価つり上げ
群馬大学名誉教授 山田博文さん
経済成長と不況脱出に失敗した安倍政権は、株高を求める大企業・海外投資家・富裕層の期待をつなぎとめるため、さまざまな株価つり上げ策を繰り出しています。
第一に、安倍政権の異次元金融緩和政策は、国債市場だけでなく、株式市場にも日銀マネーを大量に供給しています。日銀は、株式市場にマネーを供給する株価指数連動型上場投資信託(ETF)を年間約3兆円も買い入れ、株価つり上げ策を実施しています。これは、中央銀行による株価操作の疑いがもたれています。
しかし、日銀の株価つり上げ策には限界があります。株価に連動するハイリスク商品のETFが日銀のバランスシート(貸借対照表)に累積(約6兆円)すると、中央銀行と日本円に対する信認を殿損(きそん)します。国債の場合は、期限が来れば、政府が100%償還しますが、ETFの場合は、日銀が市場で売却しなくてはバランスシートからリスク資産を消すことができません。日銀が大量のETFを売りに出せば、株価は暴落してしまいます。
市場に17兆円
そこで、第二に、株価頼みの安倍政権が目をつけたのは、国民の年金積立金です。年金積立金は、インフレとも無縁の長期貯蓄性資金です。資金規模も巨額であり、大口の株式需要を発生させ、長期間にわたって、株価をつり上げることができるからです。
2014年10月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員会は、137兆4769億円の積立金運用の基本ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を見直し、リスク資産の株式への運用割合を、国内外ともに従来の12%から25%へ大幅にアップしました。
この見直しによって、国内株式市場へ投入される年金マネーは17兆8720億円ほど増額されるので、株式へ大口の需要が発生し、株価がつり上げられました。
事実、15年3月末現在で、国内株式への年金積立金の運用割合は、すでに22%まで上昇し、金額にして31兆6704億円の株式投資が行われています。まさに「クジラ」と言われる年金積立金などの株式投資マネーであり、株価のつり上げに大きく貢献しています。

安心できる年金を求めてデモ行進する年金者一揆の参加者=10月16日、東京都千代田区
下落のリスク
しかし、株価が暴落すると国民の老後の資金も枯渇します。
実は、年金積立金を利用した株価つり上げ策は今に始まったことではありません。年金積立金は、1990年の株式バブル崩壊で、不良債権を抱えこんだ銀行を救済するために利用されました。
日経平均株価が1万8000円を下回ると、年金積立金が、日経平均株価を構成する225の銘柄を指値(さしね団株式の売買を委託する際に顧客が指定した希望の価格)で購入し、株価が上昇すると、すかさず銀行が保有株を売却し、株式の含み益を実現し、株式売却益を獲得しました。この売却益が不良債権の償却に使用されました。大手銀行21行の株式売却益は、93年度、約3兆円でしたが、不良債権の償却額も同額の3兆円でした。
株価つり上げ策に利用され、価格変動リスクのある株式を抱え込んだ年金は、株価が下落すると巨額の累積赤字(2002年度2兆5877億円、08年度9兆3481億円)を抱えこんでしまいました。
その結果、将来の老後の暮らしすら脅かされることになりました。保険料率が引き上げられ、年金支給年齢は65歳に先延ばしされつつあります。
(つづく)
{しんぶん赤旗}日刊紙 2015年11月5日付掲載
企業年金基金もリターンの高い株式運用につぎ込む企業が続出。破たんした基金もあるといいます。
国民年金や厚生年金は国が支払いを保証しているとはいえ、積立額が減れば年金支給額も減らされることになりかにません。
リスクのある運用はやめるべきです。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
経済成長と不況脱出に失敗した安倍政権は、株高を求める大企業・海外投資家・富裕層の期待をつなぎとめるため、さまざまな株価つり上げ策を繰り出しています。
第一に、安倍政権の異次元金融緩和政策は、国債市場だけでなく、株式市場にも日銀マネーを大量に供給しています。日銀は、株式市場にマネーを供給する株価指数連動型上場投資信託(ETF)を年間約3兆円も買い入れ、株価つり上げ策を実施しています。これは、中央銀行による株価操作の疑いがもたれています。
しかし、日銀の株価つり上げ策には限界があります。株価に連動するハイリスク商品のETFが日銀のバランスシート(貸借対照表)に累積(約6兆円)すると、中央銀行と日本円に対する信認を殿損(きそん)します。国債の場合は、期限が来れば、政府が100%償還しますが、ETFの場合は、日銀が市場で売却しなくてはバランスシートからリスク資産を消すことができません。日銀が大量のETFを売りに出せば、株価は暴落してしまいます。
市場に17兆円
そこで、第二に、株価頼みの安倍政権が目をつけたのは、国民の年金積立金です。年金積立金は、インフレとも無縁の長期貯蓄性資金です。資金規模も巨額であり、大口の株式需要を発生させ、長期間にわたって、株価をつり上げることができるからです。
2014年10月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員会は、137兆4769億円の積立金運用の基本ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を見直し、リスク資産の株式への運用割合を、国内外ともに従来の12%から25%へ大幅にアップしました。
この見直しによって、国内株式市場へ投入される年金マネーは17兆8720億円ほど増額されるので、株式へ大口の需要が発生し、株価がつり上げられました。
事実、15年3月末現在で、国内株式への年金積立金の運用割合は、すでに22%まで上昇し、金額にして31兆6704億円の株式投資が行われています。まさに「クジラ」と言われる年金積立金などの株式投資マネーであり、株価のつり上げに大きく貢献しています。

安心できる年金を求めてデモ行進する年金者一揆の参加者=10月16日、東京都千代田区
下落のリスク
しかし、株価が暴落すると国民の老後の資金も枯渇します。
実は、年金積立金を利用した株価つり上げ策は今に始まったことではありません。年金積立金は、1990年の株式バブル崩壊で、不良債権を抱えこんだ銀行を救済するために利用されました。
日経平均株価が1万8000円を下回ると、年金積立金が、日経平均株価を構成する225の銘柄を指値(さしね団株式の売買を委託する際に顧客が指定した希望の価格)で購入し、株価が上昇すると、すかさず銀行が保有株を売却し、株式の含み益を実現し、株式売却益を獲得しました。この売却益が不良債権の償却に使用されました。大手銀行21行の株式売却益は、93年度、約3兆円でしたが、不良債権の償却額も同額の3兆円でした。
株価つり上げ策に利用され、価格変動リスクのある株式を抱え込んだ年金は、株価が下落すると巨額の累積赤字(2002年度2兆5877億円、08年度9兆3481億円)を抱えこんでしまいました。
その結果、将来の老後の暮らしすら脅かされることになりました。保険料率が引き上げられ、年金支給年齢は65歳に先延ばしされつつあります。
(つづく)
{しんぶん赤旗}日刊紙 2015年11月5日付掲載
企業年金基金もリターンの高い株式運用につぎ込む企業が続出。破たんした基金もあるといいます。
国民年金や厚生年金は国が支払いを保証しているとはいえ、積立額が減れば年金支給額も減らされることになりかにません。
リスクのある運用はやめるべきです。