アベノミクス 崩れたシナリオ① 異次元緩和 効果なく長期化
「これだけ大規模な金融緩和を行っても2%の『物価安定の目標』は実現できていません」
日銀の黒田東彦総裁が5日行った講演は、「量的・質的金融緩和」(異次元の金融緩和)のシナリオが大幅に狂っていることを認めることから始まりました。
アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の「第1の矢」として2013年4月に始まったこの政策は、①長期国債の保有残高が年間50兆円増えるペースで買い入れる②不動産投資信託(Jリート)、株価連動型の上場投資信託(ETF)も買い入れる③これによって日銀が民間金融機関に供給するお金の量(マネタリーベース)を2年間で2倍に増やし年2%の物価上昇率を実現する―というものでした。
「異次元の金融緩和」でなぜ景気がよくなるのか。日銀は「三つの経路」を説明していました。
①市場に大量のお金を流せば、金利が下がり、銀行の貸し出しが増える。
②日銀がいろいろな金融資産を買うので、金利が低下し、金融資産のリスクも下がり、投資家や銀行は株や外債に投資するようになる。
③企業や消費者が物価上昇を予想するようになると、上昇前に買っておこうとして投資や消費が増える。
講演する日銀の黒田東彦総裁=9月5日午前、東京都千代田区
物価はマイナス
それから3年半。相次ぐ追加緩和によって、日銀が買い入れる長期国債は年間80兆円に拡大され、マイナス金利も導入されました。しかし、物価上昇率は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数でマイナス0・5%(7月)。個人消費は2年連続で前年割れし、国内総生産(GDP)は4~6月期実質で前期比0・0%増と横ばい。企業の設備投資もマイナスで、銀行の貸し出しは年2%程度しか増えていません。株価はつり上げ政策によって上昇しましたが、国民の暮らしや企業の生産活動など実体経済に関しては、まったく効果がありません。日銀が異次元緩和で銀行に供給したお金は銀行が日銀に持っている当座預金口座に積み上がる一方です。
黒田総裁の講演も、なぜ「2年で2%の物価上昇」を実現できなかったという言い訳に終始しましたが、「外的な要因」によるもので、異次元緩和に限界はないと開き直りました。総裁が挙げたのは、▽原油価格の下落▽14年4月の消費税増税後の個人消費の弱さ▽国際金融市場の不安定な動き―の三つです。
物価統計は総務省が所管していますが、日銀はエネルギー価格を除く物価統計㈲を独自に作成し、エネルギー価格を除けば物価は上がっていると主張しています。しかし、その統計でも目標とする2%に達しません。
異常な国債保有
物価が上昇しないことは、暮らしや中小企業の営業にとってプラスです。問題は、日銀が2%の物価上昇に固執して異次元緩和を長期化させ、追加措置を「ちゅうちょすべきではない」(黒田総裁)としていることです。9月の20~21日に開かれる金融政策決定会合で異次元緩和をさらに拡大する恐れもあります。
異次元緩和の結果、日銀はいまや最大の国債保有者になり、保有する国債は340兆円。名目GDPの7割近くです。異次元緩和が長期化すれば、日銀の抱える政府の借金がGDPを超える可能性があります。日本の財政、金融を危うくしかねない異常事態です。効果がない政策にしがみつくのはやめて、金融政策を転換すべき時に来ています。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年9月8日付掲載
そもそも、GDPが横ばいなのに物価だけが上がるはずはない。目的と手段のボタンの掛け違い。
異次元の規制緩和はすぐにでもやめるべき。
「これだけ大規模な金融緩和を行っても2%の『物価安定の目標』は実現できていません」
日銀の黒田東彦総裁が5日行った講演は、「量的・質的金融緩和」(異次元の金融緩和)のシナリオが大幅に狂っていることを認めることから始まりました。
アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の「第1の矢」として2013年4月に始まったこの政策は、①長期国債の保有残高が年間50兆円増えるペースで買い入れる②不動産投資信託(Jリート)、株価連動型の上場投資信託(ETF)も買い入れる③これによって日銀が民間金融機関に供給するお金の量(マネタリーベース)を2年間で2倍に増やし年2%の物価上昇率を実現する―というものでした。
「異次元の金融緩和」でなぜ景気がよくなるのか。日銀は「三つの経路」を説明していました。
①市場に大量のお金を流せば、金利が下がり、銀行の貸し出しが増える。
②日銀がいろいろな金融資産を買うので、金利が低下し、金融資産のリスクも下がり、投資家や銀行は株や外債に投資するようになる。
③企業や消費者が物価上昇を予想するようになると、上昇前に買っておこうとして投資や消費が増える。
講演する日銀の黒田東彦総裁=9月5日午前、東京都千代田区
物価はマイナス
それから3年半。相次ぐ追加緩和によって、日銀が買い入れる長期国債は年間80兆円に拡大され、マイナス金利も導入されました。しかし、物価上昇率は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数でマイナス0・5%(7月)。個人消費は2年連続で前年割れし、国内総生産(GDP)は4~6月期実質で前期比0・0%増と横ばい。企業の設備投資もマイナスで、銀行の貸し出しは年2%程度しか増えていません。株価はつり上げ政策によって上昇しましたが、国民の暮らしや企業の生産活動など実体経済に関しては、まったく効果がありません。日銀が異次元緩和で銀行に供給したお金は銀行が日銀に持っている当座預金口座に積み上がる一方です。
黒田総裁の講演も、なぜ「2年で2%の物価上昇」を実現できなかったという言い訳に終始しましたが、「外的な要因」によるもので、異次元緩和に限界はないと開き直りました。総裁が挙げたのは、▽原油価格の下落▽14年4月の消費税増税後の個人消費の弱さ▽国際金融市場の不安定な動き―の三つです。
物価統計は総務省が所管していますが、日銀はエネルギー価格を除く物価統計㈲を独自に作成し、エネルギー価格を除けば物価は上がっていると主張しています。しかし、その統計でも目標とする2%に達しません。
異常な国債保有
物価が上昇しないことは、暮らしや中小企業の営業にとってプラスです。問題は、日銀が2%の物価上昇に固執して異次元緩和を長期化させ、追加措置を「ちゅうちょすべきではない」(黒田総裁)としていることです。9月の20~21日に開かれる金融政策決定会合で異次元緩和をさらに拡大する恐れもあります。
異次元緩和の結果、日銀はいまや最大の国債保有者になり、保有する国債は340兆円。名目GDPの7割近くです。異次元緩和が長期化すれば、日銀の抱える政府の借金がGDPを超える可能性があります。日本の財政、金融を危うくしかねない異常事態です。効果がない政策にしがみつくのはやめて、金融政策を転換すべき時に来ています。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年9月8日付掲載
そもそも、GDPが横ばいなのに物価だけが上がるはずはない。目的と手段のボタンの掛け違い。
異次元の規制緩和はすぐにでもやめるべき。