日本経済の実相② 経済財政白書(下) 賃上げなき「好循環」
個人消費の低迷が続いているにもかかわらず、2017年度の「経済財政白書」は日本経済の現状について「緩やかな回復が続く」として、以下のように述べます。
「アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の『大胆な金融政策』、『機動的な財政政策』、『民間投資を喚起する成長戦略』により、企業の稼ぐ力が高まり、企業収益が過去最高水準となる中で、雇用・所得環境が改善し、所得の増加が消費や投資の拡大につながるという『経済の好循環』が着実に回り始めている」
しかしこの現状認識は大企業の視点からアベノミクスを美化するものにすぎません。
人手不足を強調
白書は「企業の稼ぐ力が高まった」要因を海外経済の好調さに求めています。
「中国経済が持ち直すとともに、アメリカ新政権の経済政策への期待感からドル高円安方向で推移し、わが国を含め各国で株価が上昇」「わが国の輸出や生産は2016年央以降持ち直しており、企業収益も過去最高水準となるなど、企業部門は好循環の原動力として再加速している」
白書は企業部門の好調さなどを背景に「労働市場は、改善が続いている」と強調し、「わが国の労働市場は、バブル期並みの人手不足といえる」としました。その上で、幅広い産業で求人数が伸びているとしています。
「高齢化やインバウンド需要の高まりなどを背景に、医療・福祉や卸売・小売、飲食・宿泊などが増加していたが、2016年以降建設業も増加に転じ、2016年後半からは生産の持ち直しを背景に製造業も増加している」

最低賃金の大幅引き上げ、労働法制改悪反対を訴える行動の参加者=7月21日、厚生労働省前

実質20万円下落
企業業績が好調で人手不足も顕著であるにもかかわらず、賃金の伸び悩みを白書は否定できません。
「労働需給が引き締まりつつある中で、労働者が受け取る名目賃金の伸びは緩やかなものにとどまっている」
白書はアベノミクスを美化し、「経済の好循環」を印象づけるために「名目賃金」の伸びを取り上げています。しかし、国民にとっては得られた賃金でどれだけの生活物資を入手できるかが重大問題です。物価変動の影響を取り除いた実質賃金を見る必要があります。
実質賃金は、安倍政権発足直前の12年11月は395万円でした。直近の17年5月は377・7万円で、20万円近い下落です。「緩やかな伸び」どころか、減少しているのが現実です。
有効求人倍率の高さをはじめ雇用が「好調」に見える一方で、賃金が伸びないのは、雇用が劣化しているからです。求人数が増えている卸売・小売業や飲食・宿泊などは低賃金の非正規雇用労働者が多い分野です。
医療・福祉分野でも国の社会保障予算の削減によって賃金が抑制されています。しかもこれらの産業では過酷な労働条件のため、労働者が職場に定着せず、常にたくさんの求人があり、有効求人倍率が高止まりしています。こうした問題に白書は何も触れていません。(この項おわり)(清水渡が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月12日付掲載
確かに、新規求人人口は増える傾向ですが、労働者の実質賃金は低下の方向。本来働く、需要と供給の関係が働いていない。非正規・不安定雇用が増えている。
個人消費の低迷が続いているにもかかわらず、2017年度の「経済財政白書」は日本経済の現状について「緩やかな回復が続く」として、以下のように述べます。
「アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)の『大胆な金融政策』、『機動的な財政政策』、『民間投資を喚起する成長戦略』により、企業の稼ぐ力が高まり、企業収益が過去最高水準となる中で、雇用・所得環境が改善し、所得の増加が消費や投資の拡大につながるという『経済の好循環』が着実に回り始めている」
しかしこの現状認識は大企業の視点からアベノミクスを美化するものにすぎません。
人手不足を強調
白書は「企業の稼ぐ力が高まった」要因を海外経済の好調さに求めています。
「中国経済が持ち直すとともに、アメリカ新政権の経済政策への期待感からドル高円安方向で推移し、わが国を含め各国で株価が上昇」「わが国の輸出や生産は2016年央以降持ち直しており、企業収益も過去最高水準となるなど、企業部門は好循環の原動力として再加速している」
白書は企業部門の好調さなどを背景に「労働市場は、改善が続いている」と強調し、「わが国の労働市場は、バブル期並みの人手不足といえる」としました。その上で、幅広い産業で求人数が伸びているとしています。
「高齢化やインバウンド需要の高まりなどを背景に、医療・福祉や卸売・小売、飲食・宿泊などが増加していたが、2016年以降建設業も増加に転じ、2016年後半からは生産の持ち直しを背景に製造業も増加している」

最低賃金の大幅引き上げ、労働法制改悪反対を訴える行動の参加者=7月21日、厚生労働省前

実質20万円下落
企業業績が好調で人手不足も顕著であるにもかかわらず、賃金の伸び悩みを白書は否定できません。
「労働需給が引き締まりつつある中で、労働者が受け取る名目賃金の伸びは緩やかなものにとどまっている」
白書はアベノミクスを美化し、「経済の好循環」を印象づけるために「名目賃金」の伸びを取り上げています。しかし、国民にとっては得られた賃金でどれだけの生活物資を入手できるかが重大問題です。物価変動の影響を取り除いた実質賃金を見る必要があります。
実質賃金は、安倍政権発足直前の12年11月は395万円でした。直近の17年5月は377・7万円で、20万円近い下落です。「緩やかな伸び」どころか、減少しているのが現実です。
有効求人倍率の高さをはじめ雇用が「好調」に見える一方で、賃金が伸びないのは、雇用が劣化しているからです。求人数が増えている卸売・小売業や飲食・宿泊などは低賃金の非正規雇用労働者が多い分野です。
医療・福祉分野でも国の社会保障予算の削減によって賃金が抑制されています。しかもこれらの産業では過酷な労働条件のため、労働者が職場に定着せず、常にたくさんの求人があり、有効求人倍率が高止まりしています。こうした問題に白書は何も触れていません。(この項おわり)(清水渡が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月12日付掲載
確かに、新規求人人口は増える傾向ですが、労働者の実質賃金は低下の方向。本来働く、需要と供給の関係が働いていない。非正規・不安定雇用が増えている。