酷暑の祭典 東京五輪・パラリンピック④ 開催時期 “放映料ファースト”の構図
「この時期は晴れる日が多く、温暖で、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」
東京五輪・パラリンピック招致委員会が、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイル(2013年)にはこうあります。
しかし、これはあまりに実態とかけ離れています。
五輪開催となる7月24日から8月9日までの過去5年間の最高気温の平均は32・8度で、湿度の平均は70%。冷夏といわれる今年も、この期間に33度を超えた日が6日間を数え、男子マラソンが予定される9日は37度の猛暑日でした。
「理想的な気候」というのはあまりに無責任な記述です。実際には最も過酷でリスクを抱えた五輪になる可能性も否定できません。
体温・体液研究を専門とし、日本体育協会公認ドクターでもある早大の永島計(ながしま・けい)教授は、この時期の開催に強い危惧を抱いています。
「7月後半の開幕は最悪の時期といっていい。梅雨が明けて一気に気温が上がり、最も熱中症になりやすい。鍛えられた選手でも体が順化できない状況で、力が発揮できないばかりか、競技によっては熱中症のリスクが高まらざるを得ない」
現実にここ数年、都内の7、8月はそれぞれ1千人以上が熱中症で救急搬送されています。
東京の酷暑を避け、秋の開催は考えられないのか。
IOCは、2020年五輪開催時期について、立候補都市に対し、7月15日から8月31日までと定めました。
リオデジャネイロ五輪では世界中のメディアが国際放送センター(右)とメインプレスセンターに集まった(共同)
テレビの都合
なぜ、その時期に設定されているのか。
「それはIOCとテレビメディアの問題です」と首都大学東京の舛本直文特任教授は指摘します。
「IOCにとってテレビの放映権料は最大の収入源です。そのテレビメディアの最も都合のいい時期がこの時期なのです。夏場は人気のあるNFL(米ナショナル・フットポールリーグ)やアイスホッケー、欧州サッカーがありません。これらの年間の放送スケジュールはすでに決まっており、動かすことが難しいというわけです」
過去の五輪では、米国で注目の高い陸上や競泳の決勝を、米国のテレビ放映に都合のいい時間に変更する問題も起きています。
「IOCはテレビメディアの論理に乗っかっている構図。収入源ファーストになってしまっている」と舛本教授は言います。
テレビ局の都合を最優先する五輪。その弊害はあまりに大きい。
パラも影響大
酷暑は五輪選手だけではなく、パラリンピックにも大きな影響があります。パラの選手の中には、みずから体温の調整が難しい脊髄損傷の選手が多いこともその一つです。さらに、国内外からの観客やボランティアをはじめとした大会運営にかかわる人たちの暑さ対策も心配です。
永島教授は話します。
「せめて8月中旬の開幕であれば、順化はできます。でも、本当にアスリートや観客のことを考えるのなら、9月以降に時期をずらすべきではないか」
東京五輪が掲げるアスリートファースト。その根本姿勢が強く問われている事態でもあります。
(おわり)(この連載は和泉民郎、勝又秀人が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月22日付掲載
夏季五輪だからって8月開催にこだわる必要はない。テレビ放映の枠が空いている時期だからってとこなんて…
「この時期は晴れる日が多く、温暖で、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」
東京五輪・パラリンピック招致委員会が、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイル(2013年)にはこうあります。
しかし、これはあまりに実態とかけ離れています。
五輪開催となる7月24日から8月9日までの過去5年間の最高気温の平均は32・8度で、湿度の平均は70%。冷夏といわれる今年も、この期間に33度を超えた日が6日間を数え、男子マラソンが予定される9日は37度の猛暑日でした。
「理想的な気候」というのはあまりに無責任な記述です。実際には最も過酷でリスクを抱えた五輪になる可能性も否定できません。
体温・体液研究を専門とし、日本体育協会公認ドクターでもある早大の永島計(ながしま・けい)教授は、この時期の開催に強い危惧を抱いています。
「7月後半の開幕は最悪の時期といっていい。梅雨が明けて一気に気温が上がり、最も熱中症になりやすい。鍛えられた選手でも体が順化できない状況で、力が発揮できないばかりか、競技によっては熱中症のリスクが高まらざるを得ない」
現実にここ数年、都内の7、8月はそれぞれ1千人以上が熱中症で救急搬送されています。
東京の酷暑を避け、秋の開催は考えられないのか。
IOCは、2020年五輪開催時期について、立候補都市に対し、7月15日から8月31日までと定めました。
リオデジャネイロ五輪では世界中のメディアが国際放送センター(右)とメインプレスセンターに集まった(共同)
テレビの都合
なぜ、その時期に設定されているのか。
「それはIOCとテレビメディアの問題です」と首都大学東京の舛本直文特任教授は指摘します。
「IOCにとってテレビの放映権料は最大の収入源です。そのテレビメディアの最も都合のいい時期がこの時期なのです。夏場は人気のあるNFL(米ナショナル・フットポールリーグ)やアイスホッケー、欧州サッカーがありません。これらの年間の放送スケジュールはすでに決まっており、動かすことが難しいというわけです」
過去の五輪では、米国で注目の高い陸上や競泳の決勝を、米国のテレビ放映に都合のいい時間に変更する問題も起きています。
「IOCはテレビメディアの論理に乗っかっている構図。収入源ファーストになってしまっている」と舛本教授は言います。
テレビ局の都合を最優先する五輪。その弊害はあまりに大きい。
パラも影響大
酷暑は五輪選手だけではなく、パラリンピックにも大きな影響があります。パラの選手の中には、みずから体温の調整が難しい脊髄損傷の選手が多いこともその一つです。さらに、国内外からの観客やボランティアをはじめとした大会運営にかかわる人たちの暑さ対策も心配です。
永島教授は話します。
「せめて8月中旬の開幕であれば、順化はできます。でも、本当にアスリートや観客のことを考えるのなら、9月以降に時期をずらすべきではないか」
東京五輪が掲げるアスリートファースト。その根本姿勢が強く問われている事態でもあります。
(おわり)(この連載は和泉民郎、勝又秀人が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月22日付掲載
夏季五輪だからって8月開催にこだわる必要はない。テレビ放映の枠が空いている時期だからってとこなんて…