長時間・ただ働きの隠れみの 問われる「みなし労働時間制」 損保ジャパン日本興亜
営業職の裁量労働制撤回したが…
損保業界最大手の損保ジャパン日本興亜が、法令に反して「裁量労働制」を一般営業職にまで導入していたのを10月から撤回することになりました。労働者が「違法行為」と告発し、日本共産党の小池晃参院議員・書記局長が国会で追及していました。経過と問題点を改めてみてみます。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社の本社ビル=東京都新宿区
裁量労働制は、いくら働こうが労使であらかじめ決めた時間(みなし労働時間)しか労働時間と認めない制度。専門業務と企画業務に限って認められていますが、長時間・サービス労働の温床となっているのが実態です。
3人に1人導入
同社は、対象外であるはずの営業や保険金サービスの職員にも広く適用しており、嘱託などをのぞく約1万8千人の職員のうち約6千人以上、3人に1人に「企画業務型」を導入。実際の残業は、月20時間とする「みなし(残業)時間」の2倍になっていました。
安倍内閣の「残業代ゼロ法案」(労働基準法改定案)には、裁量労働を「企画提案型」の名で営業職に拡大する改悪が盛り込まれており、同社は、これを先取りするものでした。
撤回理由について同社は、「労働時間を把握し、削減していく必要性がある」と説明。「適法」としてきたのを撤回するのは事実上、違法性の指摘を無視できなくなったものです。
小池氏は3月に参院厚生労働委員会で「人事部資料をみると(営業職は)企画業務型裁量労働制の対象だとはっきり書かれている。これは明らかに対象外だ。支店や支社の一般の営業職にまで導入されている。直ちに調査すべきだ」と追及。塩崎恭久厚労相(当時)は「労働基準法違反が確認された場合は、厳しく指導していかなければならない」と答えていました。

事業場外労働制
裁量労働制から外れる営業や保険金サービスの職員は、新たに「事業場外労働制」に変更されます。
これは、外回りの仕事などで「労働時間を算定し難いとき」に、「みなし労働時間」を導入できる制度(労基法38条の2)です。
例えば、午前9時に出社、すぐに外出し、午後5時に帰社。その後、4時間デスクワークを行い、同9時に退社したとします。昼休みの1時間を除いた実労働時間は11時間ですが、同社の事業場外労働制では、労働時間は8時間とみなされます。
同社は「訪問先が多岐にわたり、直行・直帰も多いので労働時間の算定が困難」(広報部)と説明します。
しかし、労働者からは、こんな声があがっています。
「損保の営業や保険金サービスで労働時間の把握は困難ではない。営業は代理店や得意先の訪問が中心で、保険金サービスは被害者宅や事故現場、病院などが主だ。行き先ははっきりしており、連絡も簡単に取れる。原則、帰社しデスクワークをして終えるのが一般的だ。この仕事に事業場外労働制を適用するのは違法ではないか」
最高裁も違法と
訪問先が多岐にわたるなどというだけでは該当しないことは、最高裁判決でも明確です。
阪急トラベルサポートのツアー添乗員が残業代の支払いなどを求めた事件で、最高裁は2014年1月、「事業場外労働制」の対象にはならないと認め、残業代などの支払いを命じました。
携帯電話で会社から指示を受ける仕組みになっていることや、労働者が作成する日報によって行動が把握されていることなどをあげて、「労働時間を算定し難いとはいえない」と判断したものです。
損保ジャパン日本興亜だけでなく、損保各社とも一定額の「みなし労働時間手当」を支払うことによって、残業代の支払い義務を免れる仕組みになっています。労働者からは「『みなし労働時間制』は、長時間労働とサービス残業の隠れみのとなっている。裁量労働制を撤回しても、別の違法な制度に乗り換えるのでは社会的責任が問われる」との声があがっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月29日付掲載
外回りの間の労働時間を「みなし労働時間」で少なめに算定するなんで無茶苦茶。
外回りでは、交通機関の乗り継ぎや相手先との待ち時間などロスになるものもある。でも、それは仕事上必要な時間で、労働時間に算定しないといけない。
「外回りは喫茶店でさぼっている」ような誤解は間違いだ。
営業職の裁量労働制撤回したが…
損保業界最大手の損保ジャパン日本興亜が、法令に反して「裁量労働制」を一般営業職にまで導入していたのを10月から撤回することになりました。労働者が「違法行為」と告発し、日本共産党の小池晃参院議員・書記局長が国会で追及していました。経過と問題点を改めてみてみます。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社の本社ビル=東京都新宿区
裁量労働制は、いくら働こうが労使であらかじめ決めた時間(みなし労働時間)しか労働時間と認めない制度。専門業務と企画業務に限って認められていますが、長時間・サービス労働の温床となっているのが実態です。
3人に1人導入
同社は、対象外であるはずの営業や保険金サービスの職員にも広く適用しており、嘱託などをのぞく約1万8千人の職員のうち約6千人以上、3人に1人に「企画業務型」を導入。実際の残業は、月20時間とする「みなし(残業)時間」の2倍になっていました。
安倍内閣の「残業代ゼロ法案」(労働基準法改定案)には、裁量労働を「企画提案型」の名で営業職に拡大する改悪が盛り込まれており、同社は、これを先取りするものでした。
撤回理由について同社は、「労働時間を把握し、削減していく必要性がある」と説明。「適法」としてきたのを撤回するのは事実上、違法性の指摘を無視できなくなったものです。
小池氏は3月に参院厚生労働委員会で「人事部資料をみると(営業職は)企画業務型裁量労働制の対象だとはっきり書かれている。これは明らかに対象外だ。支店や支社の一般の営業職にまで導入されている。直ちに調査すべきだ」と追及。塩崎恭久厚労相(当時)は「労働基準法違反が確認された場合は、厳しく指導していかなければならない」と答えていました。

事業場外労働制
裁量労働制から外れる営業や保険金サービスの職員は、新たに「事業場外労働制」に変更されます。
これは、外回りの仕事などで「労働時間を算定し難いとき」に、「みなし労働時間」を導入できる制度(労基法38条の2)です。
例えば、午前9時に出社、すぐに外出し、午後5時に帰社。その後、4時間デスクワークを行い、同9時に退社したとします。昼休みの1時間を除いた実労働時間は11時間ですが、同社の事業場外労働制では、労働時間は8時間とみなされます。
同社は「訪問先が多岐にわたり、直行・直帰も多いので労働時間の算定が困難」(広報部)と説明します。
しかし、労働者からは、こんな声があがっています。
「損保の営業や保険金サービスで労働時間の把握は困難ではない。営業は代理店や得意先の訪問が中心で、保険金サービスは被害者宅や事故現場、病院などが主だ。行き先ははっきりしており、連絡も簡単に取れる。原則、帰社しデスクワークをして終えるのが一般的だ。この仕事に事業場外労働制を適用するのは違法ではないか」
最高裁も違法と
訪問先が多岐にわたるなどというだけでは該当しないことは、最高裁判決でも明確です。
阪急トラベルサポートのツアー添乗員が残業代の支払いなどを求めた事件で、最高裁は2014年1月、「事業場外労働制」の対象にはならないと認め、残業代などの支払いを命じました。
携帯電話で会社から指示を受ける仕組みになっていることや、労働者が作成する日報によって行動が把握されていることなどをあげて、「労働時間を算定し難いとはいえない」と判断したものです。
損保ジャパン日本興亜だけでなく、損保各社とも一定額の「みなし労働時間手当」を支払うことによって、残業代の支払い義務を免れる仕組みになっています。労働者からは「『みなし労働時間制』は、長時間労働とサービス残業の隠れみのとなっている。裁量労働制を撤回しても、別の違法な制度に乗り換えるのでは社会的責任が問われる」との声があがっています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年8月29日付掲載
外回りの間の労働時間を「みなし労働時間」で少なめに算定するなんで無茶苦茶。
外回りでは、交通機関の乗り継ぎや相手先との待ち時間などロスになるものもある。でも、それは仕事上必要な時間で、労働時間に算定しないといけない。
「外回りは喫茶店でさぼっている」ような誤解は間違いだ。