きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

読者の投稿 私の「寄り道」「回り道」

2021-02-18 08:00:47 | 赤旗記事特集
読者の投稿 私の「寄り道」「回り道」

ウキウキ花が呼ぶ
群馬県高崎市 福島博美 72歳
今日もまた、車のハンドルがJAの直売所へ向く。勤め帰りに毎日のように寄っていた。目的は花木コーナー。それも生産者の棚。普通の花売り場と違い、自分で花を育てている人が並べているので珍しいものが多い。
まだ珍しかったクリスマスローズ、山野草の代表で森の妖精と呼ばれるレンゲショウマ、東北旅行で目にして気に入って、やっと見つけたキレンゲショウマなど。
今、家にあるものの多くはここで買った。この寒い時期に満開のウインタークレマチスも、ここで白い花を咲かせていた。スノードロップもそう。白い花が私を呼んでいた。
職場からの帰り道にあるこの直売所は、私の癒やしスポットだった。足を踏み入れるだけで心が和み躍った。私の大好きな場所。
退職して10年余り。ストレスを感じることもあまりない。でも1カ月に何回かは訪れたい。家から15キロは遠いと思いつつ、今度はいつ行こうかなと思うだけでウキウキしてしまう。





レンゲショウマ、キレンゲシショウマ。僕も六甲高山植物園でおなじみの花。大好きです。

居場所だった神社
千葉県 森みどり 61歳
私の記憶の中には、いつも手をあわせる母の姿と神社があります。
夏休みのラジオ体操や宿題も、村中の子どもが神社に集まって行いました。
悲しいことがあって一人になりたい時、決まって神社に行きました。うっそうとした木々に囲まれて、静まりかえった神社は、私の居場所だったのです。
そのせいでしょうか、
引っ越しのたび、私は自分と相性のいいたたずまいの神社を、見つけておきます。
そして、どこかへ行く時は、機会をみては回り道して、神社で手をあわせて家族の平穏を祈ります。ささやかな私の心のお守りです。
(イラストも)




セミ捕りのひと時
大阪府茨木市 岡本欣治 55歳 団体職員
2人の娘がまだ保育園に通っていた頃の夏。保育園からの帰り道、ちょっと回り道をして公園に立ち寄り、セミ捕りをしていたことを思い出します。
私に抱っこや肩車された娘は、いとも簡単に素手で次々にセミを捕り、放し、また捕って放すことの繰り返し。たったそれだけのことですが、とてもうれしそうで楽しそうで、私が「もう帰ろう」と言うまで、飽きることなく繰り返していました。
夏は私が保育園に迎えに行くと、「セミ!」といつもせがまれたものでした。
忙しい毎日、正直早く帰りたい思いもありました。
しかし、今にして思えば、例えようのないくらいに心がほっこりする、忘れられない貴重な貴重な宝物のようなひとときでした。
今でも、思い出しては一人ニンマリと笑っています。
今、その娘2人は「セミを手づかみするなんて信じられへん!何が楽しかったんやろうな」
「わからんわ」なんて言っています。


いつものパン屋
長野県飯田市 土井祐子 66歳
朝8時から9時のアルバイトを終えて、さて、どこへ寄って帰ろうかなと考えながら運転しつつ、結局いつものパン屋さんに寄ってしまいます。
そこは、おいしいりんご入りパンや、ひれカツサンドがおすすめです。さらに、なんといってもうれしいのが、サービスのコーヒーです。夏にはアイスコーヒーも用意されています。
おいしいコーヒーと、ふわふわのパンを食べると、明日もがんばってみよう!!と不思議な元気が出ます。
コロナ禍で、お客さんが減って心配ですが、ずっと続けてほしいです。


会社帰り先輩と
大阪府四條畷市 須山朋子 83
思えば60数年もの昔、大阪中之島のOL時代、月曜日から金曜日まで連日、会社帰りにまっすぐ帰宅する日はなかった。
同僚先輩のM子さんと梅田のお初天神商店街に寄り道し、“甘党屋さん”では、ぜんざい、かき氷等を食べた。舶来物といわれる美しい布地屋さんは、ウインドー越しにながめた。
M子さんの影響で、次第に政治や世の中の動きに関心を持った。やがては合唱団に入り、居住地域の民主青年同盟の集まりに参加。安保闘争のまっただ中で知り合った夫と結婚。同時に夫は民青同盟の専従となった。
私の人生も大きく変わった。あのOL時代の寄り道がなかったら、平々凡々と親の勧める人と共に暮らしていたかも?
当時は寄り道して祖父母にしかられてばかりいたけれど、私はあの時の寄り道に悔いなしと思っている。M子さんに感謝も忘れずに日々暮らしている。


つい赤ちょうちん
広島県世羅町 植田香代子 64歳
駅からわが家までは、下町の商店街を通って帰る。当時は夫婦共働き、3女も働いていて、それぞれがバラバラの帰宅時間だった。
ある時、夫が商店街のラーメン屋に入り、壁に貼られたメニューを見ようと横を向くと、隣の席に若い女性が。「ん?」と思ってよく見ると、3女がラーメン食べていたそうだ。
娘も「変なおじさん、嫌だなあ」と思い、見返すと、そこにいたのが父親でびっくり。お互いに「ずるしちゃって、お母さんに怒られるよ」と話しつつ、2人でしっかり食べて飲んで帰ってきたそうである。
私も仕事で遅くなった日は、もう少しで家なんだけど、つい赤ちょうちんに誘われて居酒屋に寄り道したことを、思い出す。
頑張った自分にごほうびだと思って、一杯やって帰るのが至福のひととき。「寄り道最高」の思い出である。


のんびり歩く一駅
大阪府和泉市 猪尾伸子 72歳
会社勤めをしていた40歳前後の頃、子どもの高校受験や父親との同居で、職場以外でもストレスの多い日々でした。
仕事を終えて家に帰る電車の中で、気持ちを仕事モードから家庭モードに切り替えるのですが、混んだ電車の中ではさらにストレスが重なりました。
家に帰り着くと、話し相手を待っていた父親の矢継ぎ早のおしゃべりが、またまたストレス。
そんなある日、仕事を終えて電車に乗る前、地下鉄の一駅をのんびり歩くと気持ちが軽くなりました。もう少し、もう少しと、1時間余り歩きました。
それ以来、時々、会社帰りにしばらく歩いて、時にはおしゃれな喫茶店で一息ついて、仕事モードをすっかり振り切ってから帰宅しました。
帰宅は少し遅くなりましたが、家事の効率はかえって良く、気持ちにゆとりをもって家族と接することができました。

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月16日付掲載


共感を呼ぶ投稿でした。
「ウキウキ花が呼ぶ」。レンゲショウマやキレンゲシショウマは実感。
「いつものパン屋」。神戸中地区に勤務していた時は、宇治川商店街のパン屋さん「バードえびす」にお世話になりました。
「つい赤ちょうちん」。プログラミングの派遣会社CSKに勤めていた時。勤務地の神戸から会社の寮の尼崎・園田に帰って、阪急園田駅前でちょっと一杯したものです。



人生つづった日記できた 作家、写真家 椎名誠さん

2021-02-17 07:50:38 | 文化・芸術・演劇など
人生つづった日記できた 作家、写真家 椎名誠さん
作家、ときどき写真家の椎名誠さん。旅の記録をまとめた初の写真集『シベリア夢幻』から35年の節目に、『こんな写真を撮ってきた』を出版しました。
竹本恵子記者



しいな・まこと=1944年東京都生まれ。
『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞。『わしらは怪しい探検隊』シリーズなど著書多数。映画監督としても活躍(撮影・野間あきら記者)



新著『こんな写真を撮ってきた』
筆者の限定サイン本が人気です(新日本出版社・税別3000円)


パタゴニア、ケニア、モンゴル…。風のように世界を駆け巡って撮ってきた写真と書き下ろしの文章です。なぜか懐かしく、心にしみます。
よくもこんな写真集ができたもんだ、と。
シアワセです。これまで30冊ほどある写真集は、自分で写真選びをしてきましたが、選ばれるままに編んでいただいたのは初めてです。新鮮で、スリリングでした。時間や場所に関係なくまとめられた人生の写真日記になっています。
写真集を見ていてよく感じるのは、高額な費用をかけて「どうだまいったか」という圧力。でも、ぼくは、写真のなかにどのくらい思いがこめられているかが大切だと思います。どこの国かわからない人たちだけど、満足気にこっちをむいて笑っている。その人たちの背景、暮らしを想像させる。そういう写真に、「ああいいな」と思うんです。


どんな国でも目線の高さ同じに
生まれて初めて写真を撮られた、チベットのうどん屋さんの姉妹。やや緊張して笑いかけてきます。

ここにはカイラス聖山に向かう途中で寄りました。最初はこんな笑顔はありませんでした。3年後に紙焼きの写真を届けました。生まれて初めて写真を見た彼女たちは「自分じゃないみたいだ」と不思議そうにしていました。この子たちも、いまは子どもや家族がいるのでしょうか。
大切にしてきたのは、目線、まなざしです。途上国に行くとどうしても、上から目線で撮ってしまいがちです。
ぼくはしゃがんで同じ目線で撮ります。相手は警戒しているので、最初は不安な表情をする。でも少し打ち解けてくる。笑いながらしゃべりかけてくれたら、意味はわからなくても、相手の言葉を反復してみる。すると笑われます。そこを「しめた」と撮るんです。
マサイ族に望遠レンズをむけて、槍(やり)がとんできたこともありました。


抱き続けたカメラマンの夢
業界誌の編集長をへて『さらば国分寺書店のオババ』で作家デビユーしたのは1979年。カメラマンはそのずっと前からの夢でした。
兄が写真マニアで写真雑誌を購読していました。そのなかに心安らぐ写真を見つけて、いつの間にか傾倒していったんです。
何をやっていいかわからなくて、写真の大学に入りました。学生には写真館の子どもが多かった。でもみんな、なんだか暗くて夢がなくて、会話もなくてね。
そのころ、ぼくは友人4人と共同生活をする苦学生で、自分のカメラも持っていませんでした。大学の課題が出たときだけ、貸しカメラ屋で学生証と引き換えにカメラを借りて、写真を撮り、自分で焼きました。人形町など下町の風景をね。提出した写真、返してほしいな。


大学を中退。22歳のころ、京都であてもなく乗った電車には本を読む少女がひとりいました。

いい写真でしょう。当時、おんぼろの中古カメラを手に入れ撮っていました。
ものを書くようになって、写真にからむ仕事をしているうちに、憧れだった『アサヒカメラ』の連載依頼があり、連載は廃刊まで34年間続きました。夢は抱き続けているとかなうものです。
テレビのドキュメンタリーの仕事で辺境地帯にもがんがん行きました。何度か死にそうになりました。それでも断りませんでした。好きでしたから。


親が撮る子ほど愛満ちた写真はない
私小説『岳物語』の主人公となった長男、岳くんの写真も収録。さまざまなジセンルの写真があるなかで、一番貴重で素晴らしいのは、世界共通して「家族写真」だ、と。

親が撮る子どもの写真ほど、愛と優しさに満ちている写真はほかにはありません。見ている者の心を豊かにします。
いま、岳一家は、近くに住んでいて、行き来しています。一番上の孫、風太くんとは親友です。一番下は極真カラテをやっていて、ボクサーだった岳と異種格闘技戦を本気でやっています。僕はレフェリーです。変なうちでしょ。
家族が寝食を共にしている時期ってほんの数年、貴重なときです。
76歳。近著にはエンディングノートをテーマにした『遺言未満、』(集英社)も。
世界中を旅して、いろんな葬儀を見てきました。文化や生活、死生観に違いがあります。平等なのは、みんないつか「死ぬ」ことです。
大げさな葬儀には反発があります。質素に、風や水に流れていくような自然葬にしたい。
まだまだ連載も、書き下ろしもあります。物書きとしてはありがたい。好きなんですね。

「しんぶん赤旗」日曜版 2021年2月14日付掲載


さすが椎名誠さん。人生をつづった写真集ができたのですね。
僕も、人物を撮った思い出の写真も…。


2011年8月末、京都東山で撮った舞妓さん。

2012年4月、小野市・神戸電鉄粟生駅前で、粟生太鼓を打ち鳴らす少女。

写真集は注文済み。今日にも届くと思います。お楽しみです。

デジタル化社会 光と影⑤ 巨大ITの課税課題に

2021-02-15 07:50:44 | 経済・産業・中小企業対策など
デジタル化社会 光と影⑤ 巨大ITの課税課題に
経済研究者 友寄英隆さん

デジタル化は、資本主義社会の経済法則や経済構造にも、大きな変化をもたらしつつあります。そこで、連載の最後に、マルクスが『資本論』で解明した経済理論をもとにしながら、デジタル化と資本主義経済の変化について、みておきましょう。
現代資本主義社会のもとで、新しいデジタル化技術を開発する企業(資本)は、技術革新によって巨額な特別剰余価値を得ることができます。とりわけ最新鋭のAI(人工知能)搭載ロポットなどは、マルクスの言う「人間の頭脳の対象化された知力」ともいえる技術的価値をもっているので、莫大(ばくだい)な特別剰余価値を獲得する手段となります。
デジタル技術を開発する企業は、新しい技術の特許を取得することによって、企業価値を高め、株式を上場すれば株価が急激に高騰します。株価の高騰は、その企業の創業.者たちに“ぬれ手で粟(あわ)”の巨額な創業者利得をもたらします。

【特別剰余価値と創業者利得】
特別剰余価値とは、ある企業(資本)が新しい生産技術の機械などを採用して平均水準以上の生産性をもつようになることで獲得する平均以上の剰余価値のこと。創業者利得とは、創業者が会社創立時に払い込んだ額面価格と、株式市場で株価高騰後に売却した時価との差額。

巨額超過利潤
現代資本主義のもとでは、デジタル技術をめぐる特別剰余価値の獲得(激烈な自由競争)と、その独占的な支配(独占利潤への転化)という、一見すると矛盾する原理が支配しています。
一方では、世界中の企業が情報関連の技術開発をめぐって熾烈(しれつ)な競争を展開しています。
他方では、米国のGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大企業は、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」を行い、独占的な情報支配を国際競争力の源泉として、世界市場を支配し、特別剰余価値を長期にわたって独占して、巨額の超過利潤を獲得しています。
デジタル技術が巨額の独占利潤の源泉になってきたことについては、このわずか四半世紀の期間に起業した米国のGAFAが瞬く間に巨大企業に急成長してきたことに象徴的に現れています。世界の株価の時価総額では、IT(情報技術)関連の巨大企業が上位をほぼ独占しています。
IT技術を支配して巨額な独占利潤を得ているGAFAなどに対して、法人課税のあり方が世界的な課題となっています。国際的な情報支配で稼ぐ利益に対して、従来の国家単位の法人税制では「合法的な脱税」が生まれているからです。
例えば、米アマゾンの2018年の税引き前利益は約113億ドルでしたが、証券取引委員会が公表した納税申告書によると、連邦所得税はゼロ、約1億3000万ドルの還付金さえ得ています。非IT企業との間で、企業間での「不公平税制」の問題が生まれているのです。


世界の株価の時価総額(100万ドル)
 企業時価総額業種
1アップル2,014,972IT・通信
2サウジアラムコ1,843,791エネルギー
3マイクロソフト1,692,218IT・通信
4アマゾン1,662,380IT・サービス
5アルファベット1,192,611IT・通信
6フェイスブック836,219IT・サービス
7アリババ781,654IT・通信
8テンセント757,218IT・通信
9P&G574,238消費財
10バークシャー・ハサウェイ492,999金融
(資料)ANA:Financial Journal 2020年11月時点


情報吸い上げ
近年、米国のフェイスブックによる個人情報の大量流出など、日常的に企業の情報流出が報道されています。ビッグデータの管理と所有のあり方も焦眉の課題になっています。
GAFAが独占利潤の源泉にしているビッグデータは、単に集積された過去の情報(データ)という意味ではなくて、1秒ごとに膨張し続けていることです。地球上の膨大な数の企業の活動や、スマホからの個人情報を含むデータを吸い上げ、その規模は、日々刻々と膨張しています。
欧州連合(EU)では、すでに2018年5月に、IT巨大企業のデータ独占を厳しく規制して個人情報を保護するコ般データ保護規則(GDPR)」を施行しています。
デジタル技術は、資本主義社会の経済構造に大きな変化をもたらしつつあります。資本主義社会のデジタル化は、コロナ禍からの回復のために、いっそう進むことが予想されます。それは、「新自由主義」路線のもとでの行政のデジタル化によって、さらに拍車がかけられるでしょう。
「デジタル化社会の光と影」をめぐって、科学的な調査と研究、国民的な対話と討論が求められています。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月13日付掲載


世界の株価の時価総額の上位をIT企業が占めています。
特別剰余価値と創業者利得は、先行的に生産力をアップすることで以前の資本主義の社会でもありました。
米国のGAFAなどは、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」、いわゆるM&A・吸収合併や買収を繰り返して成長。
地道に積み上げてきたと言うより、風船のように膨張してきたのです。

デジタル化社会 光と影④ 「新自由主義」の罠に警戒

2021-02-13 07:15:48 | 経済・産業・中小企業対策など
デジタル化社会 光と影④ 「新自由主義」の罠に警戒
経済研究者 友寄英隆さん

新型コロナウイルス・ショックで破綻した「新自由主義」の唱道者たちは、「デジタル化社会」論を旗印にして復権をもくろんでいます。デジタル化が「新自由主義」路線のもとで推進されると、国民にとってはデジタル化の矛盾がいっそう拡大されます。

庁の設置提唱
かつて「新自由主義」路線の旗振り役だった竹中平蔵氏は、半年前からすでに、「世界はすさまじい勢いでデジタル資本主義の時代に入っていく」、「内閣府に『マイナンバー・デジタル庁ヒを新設して首相が直轄する」などと、デジタル庁の設置を提唱していました(「コロナ危機と日本の経済政策」〈日経新聞2020年7月24日付〉)。
菅義偉内閣が成立してからは、竹中氏の提言はさらにエスカレートしています。「このままだと日本はデジタル後進国になりかねません」、「規制を取っ払い、あらゆる分野でのデジタル化を進めていくべき」だとして、「コロナ・ショックを変化のチャンス」ととらえて、「ショックセラピー(ショック療法)」が必要だなどとまで主張しています(『文芸春秋』20年11月号)。
財界が20年11月に発表した「新成長戦略」でも、「デジタル庁を設置」して、「企業や個人による革新的な取り組みを阻害しないよう規制体系の抜本的な改革」が必要だ、などと要求しています。
「新自由主義」路線の復権を阻止するためには、デジタル化の技術的な特徴を利用した“「新自由主義」の罠”に警戒しておくことも必要です。
「新自由主義」イデオロギーは、単純な19世紀的な「個人主義」への回帰としてではなく、デジタル時代の労働者の「自己裁量権」の拡大、市民の「自己決定権」の尊重などを前面に掲げながら、あたかも資本主義の新たな発展段階に対応した「個人の自由の拡大」をめざす進歩的なイデオロギーであるかのような「幻想」を伴っています。
また、デジタル化のもとでの「個人の自由の拡大」という「幻想」は、「失業や貧困は自己責任だ」などというまったく誤った「自己責任論」を蔓延(まんえん)させる背景にもなっています。
例えば、若者が雇用関係の“束縛”を嫌い、“自由”に働けるフリーランサーを選ぶ背景にも、こうした“「新自由主義」の罠”が一定の影響を与えているといえるでしょう。
「新自由主義」イデオロギーの政治的な反動性や経済的な害悪を批判することにとどまらず、現代資本主義の技術的な変化、デジタル技術の浸透を背景にした「新自由主義」の仕掛ける“罠”にかからないようにする必要があります。



デジタル庁創設に向けたデジタル改革関連法案準備室の職員に訓示を行う菅義偉首相=2020年9月30日

連帯が不可欠
コロナ禍のもとで、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を余儀なくされてきたために、私たちは、人間にとって人々の結びつきがいかに大事であるか、改めて気付かされました。世界保健機関(WHO)も、コロナ危機を克服するためには、「国際的な連帯と協力」が不可欠だと呼びかけています。
コロナ後の社会では、雇用や仕事、教育や文化をめぐる矛盾が増大して国民の苦しみ、悩みが深まることが予想されます。これまで「新自由主義」のもとで、「自己責任論」のイデオロギーに惑わされ、孤立を余儀なくされていた多くの青年・若者たちの中には、お互いに結びつき、連帯して、社会の不条理と立ち向かわねばならないと考える人たちも増えてくるでしょう。
コロナ禍は、人間こそ社会の主人公であることを、改めて教えています。
本連載の第2回で引用した国際労働機関(ILO)の報告書は、次のように述べています。
「われわれはまた、…仕事に影響する最終的な決断はアルゴリズム(コンピューター・プログラムによる問題解決の理論的手順)ではなく、人間自身が行う『人間主導』のアプローチを支持する。アルゴリズムに基づく労務管理、監視、統制は、労働者の尊厳を守るために規制しなければならない。労働者は商品ではない。またロボットでもない」(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月12日付掲載


デジタル化の推進によって、労働者や国民が行政サービスにより容易にアクセスできるようになるかの「幻想」。
一方で「失業や貧困は自己責任だ」の思想が押し付けられる。
あらかじめ決められたデジタル化のもとでの「アルゴリズム」の枠内ではなく、人間同士の連帯での行政サービスの充実を。

デジタル化社会 光と影③ 「監視社会」になる危険

2021-02-12 06:47:20 | 経済・産業・中小企業対策など
デジタル化社会 光と影③ 「監視社会」になる危険
経済研究者 友寄英隆さん

デジタル化は、社会生活のあり方にも、光と影の対照的な影響をもたらします。
コロナ・パンデミック(新型コロナウイルスの大流行)による社会的危機が、狭い意味の経済過程だけでなく、人間の社会的諸関係の全体にかかわるものであるだけに、コロナ禍からの回復過程でも、さまざまな分野で最新のデジタル技術が利用されていく可能性があります。これは、経済恐慌からの回復期に、生産過程での技術革新が急速に進むことに似ていますが、違いは、デジタル化は、行政や企業の力が結びついて、急速に社会全体に浸透していくことです。

格差の固定化
デジタル・ディバイド(情報格差)とは、インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差のことです。
情報格差は、資本主義社会における所得、資産などの経済的な格差と結びついており、情報格差が経済格差を拡大させ、それがさらに情報格差を拡大・固定化するという悪循環をもたらします。
コロナ禍の以前から、ICT(情報通信技術)革命によって、教育政策は大きく変化してきました。安倍晋三前内閣=自公政権はすでに、IT(情報技術)「人材不足」が深刻になってきたため、小学校からのプログラミング教育の必修化を決めました。さらに、菅義偉首相は1月の通常国会の施政方針演説で、「小中学生に1人1台のIT端末」など、「教育のデジタル化も一挙に進めます」と強調しました。
しかし、文化・教育の分野では、デジタル化の影響は、広く深く複雑な形で現われてくることが予想されます。財界からの目先の要求に押されて、ことを拙速に強行して、後世に取り返しのつかないことにならないよう、長期的視点から、その功罪を慎重に検討しながら進めることが必要でしょう。


■情報セキュリティー10大脅威2020
標的型攻撃による機密情報の窃取
内部不正による情報漏えい
ビジネスメール詐欺による金銭被害
サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃
ランサムウェアによる被害
予期せぬlT基盤の障害に伴う業務停止
不注意による情報漏えい
インターネット上のサービスからの個人情報の窃取
IoT機器の不正利用
10サービス妨害攻撃によるサービスの停止
IPA(情報処理推進機構)資料から作成


見えない技術
資本主義のもとでデジタル化された情報は、コンピューターの内部で電子的に高速処理されるために、その過程は、人間にはまったく不可視的になり(人間には見えなくなり)、それを人間がチェックすることが難しくなります。
例えば、資本主義企業や国家を危機にさらすサイバー攻撃は、コンピューター技術の不可視性を前提に、それを悪用したものです。情報処理推進機構(IPA)は毎年「情報セキュリティー10大脅威」を発表しており、デジタル化経営とともに、経営情報の外部漏洩(ろうえい)、サイバー攻撃、予期せぬICT基盤の故障など、セキュリティー上の脅威が増大すると警告しています。
菅首相は、施政方針演説で、次のように述べました。
「デジタル庁の創設は、改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は2000億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導します」
具体的には、「全国規模のクラウド移行」、「自治体のシステムも統一、標準化を進め、業務の効率化」、「マイナンバーカードの普及」、「健康保険証との一体化」、「運転免許証との一体化」、「公務員の採用枠にデジタル職の創設」、「教育のデジタル化」、などなどを挙げています。
しかし、行政のデジタル化によって、個人のプロファイル(人物記録・履歴)が処理され、流通する過程は、ブラックポックス化します。予算の計上や執行などの「指揮命令権を持つデジタル庁」によって、個人情報が国家に集中すると、国民の民主的な権利を踏みにじり、自由を抑制する「監視社会」になる危険があります。
社会全体が監視社会になることは、国民全体が力を合わせて、なんとしても阻止しなければなりません。そのためにも個人情報のデジタル化について、その原理をしっかり学ぶことが大事です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月11日付掲載


経済格差がデジタル技術の恩恵の格差にならないように。
デジタル庁による、行政や国政のデジタル化の推進。個人情報の集約化による漏えいや不正利用、監視社会の危険。
規制が必要になるでしょうね。