サッカーは本来、90分で勝つことを目指して訓練しているので、延長戦の120分という時間では体力が続かないこともあります。そのため、通常の5人の交代枠に加えて、延長戦になるともう一人交代枠が追加されます。その交代枠を最大限に使ったのが全北で、延長戦の頭でボランチのペク・スンホを下げると、さらにメン・ソンウンも下げて、ボランチより前の6人を全員交代させてきます。
延長戦、押し気味に戦ったのは浦和でした。こういう、延長戦で攻撃を組み立てるには、途中出場で元気な選手で組み立てるのが一般的です。浦和では左SBに途中から入っていた明本が何度かオーバーラップで起点になっていました。もっとも、延長後半3分に江坂のスルーパスをユンカーがトラップミスするなど最後のところが決まりませんでした。
全北としてはワンチャンスに賭けたいところでしたが、その思惑は当たりました。延長後半10分のCKでした。ショートコーナーから戻されたボールをイ・スンギがクロスにすると、ニアサイドに詰めていたハン・ギョウォンが合わせて全北が残り5分の時点でリードを奪います。スタジアムが沈黙したこの一瞬でしたが、まだPK戦に持ち込む可能性はありました。その通り、最後のプレーで酒井宏樹のパスをユンカーが決めて、試合は2-2の同点でPK戦になります。
2-2のスコア、ACL準決勝、PK戦となると2007年のACL準決勝、城南一和戦と同じような状況でした。奇しくも、相手監督の金相植氏は、当時の城南一和のボランチでした。このPK戦は浦和にとっては2016年のルヴァン杯決勝戦以来の大舞台のPK戦で、浦和の若いサポが、かつて国立競技場でも展開したPK戦の応援のやり方を知っているか気にしていました。
その心配は無用でした。浦和サポはゴール前に大旗を集結させ、全北のPKのときは全員でブーイングと旗振りをして、逆に浦和のPKのときは全員で沈黙するという応援のやり方を皆知っていました。その雰囲気が、微妙に全北の選手に影響も与えたようで、最初のキッカーのキム・ボギョンのPKはGK西川が読みを当ててセーブすると、次のイ・スンギのキックも西川が足に当てて止めました。
最後は全北の4人目のキム・ジンスが枠を外すミスをして、浦和は4人目の江坂が決めて、このPK戦にまでもつれ込んだ死闘を制しました。バローを軸にしたカウンターで何度も走らされた浦和の守備陣は相当疲労困憊でしょうが、この勝利ですべて報われました。ACLも準決勝まで来れば簡単な試合にはならないだろうとは覚悟していましたが、これほど苦しい試合になるとは思いませんでした。