尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

学術会議・任命を排除された理由ー学術会議問題⑦

2020年11月16日 22時06分25秒 | 政治
 僕も日本学術会議の問題ばかり書きたいわけではない。ただ問題の重大性を判っているものは書き続ける義務があると思っているのだ。ところで、2018年にも補充会員の推薦が拒否されたということが判っている。東京新聞(11月14日付)によると、それは今回任命されなかった宇野重規氏(政治思想史、東大教授)だという。(望月衣塑子記者の署名記事)

 他のマスコミに後追い記事がないから、今の段階で記事が正しいのかどうか判断できない。宇野氏自身も取材に対し「特に申し上げることはない」としている。その前に8日付東京新聞は一面トップで「政府方針 反対運動を懸念」と記事を掲載した。これは無署名なので、通信社の配信記事かと思う。これもその後後追い記事がないのだが、紹介しておく。「首相官邸が日本学術会議の会員任命拒否問題で、会員候補六人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対言動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが七日、分かった。」
(東京新聞11月8日)
 上記引用記事は、新聞そのままなんだけど、いくら何でも悪文すぎる。それはともかく、記事が正しいならば首相や官房長官が「人事の問題で答弁を控える」としながらも、「思想信条の問題ではない」と言っているのはやはりウソだったということだ。もっとも他の会員候補にも安保法案への反対署名などをした人がいた。しかし、それだけなら「個人としての限定的な意見表明」に止まったとして「お咎めなし」になったらしい。それに対し、6人の場合は特別職公務員として「広い視野に立ったバランスの取れた活動」が難しいということらしい。

 つまり「政府に反対した人」を全員拒否したわけではなく、学術会議内で「反対言動を先導する懸念」がある人を任命しなかった。それは任命権者の裁量権の範囲だというのだろう。そもそも本当に政府に対する反対運動を主導、参加してきた学者などは今まで日本学術会議の会員には推薦されない。例えば反原発運動・訴訟に加わっている学者が学術会議会員に選ばれて、学術会議で原発を巡る問題が審議されるなんてことは今までになかった。官邸が言うのと別方向で、僕は日本学術会議に選ばれるべき優秀な学者が選ばれてこなかったと思う。
 
 今回「拒否」された6人の学者も、「学究」と言うべき人々であって、反政府運動家なんかではない。(それが良いとか悪いと言っているのではない。単に事実判断の問題として。)公務員の任命権が首相にあるから、心配な人はあらかじめ拒否するなんて、実に「小心者」の発想だろう。こういう決断を平気で出来るのは、やはり「公安警察」的な発想だ。杉田官房副長官の悪影響が官邸を毒してしまったのだろう。もっともそれを許してきた安倍・菅両首相の責任は大きい。

 首相は「理由を説明しない」のは「人事の問題」だと言って、暗に「拒否された人の方に問題がある」という方に世論操作している。しかし、トランプが納税記録を提出しなかったことと同じく、要するに「説明できないから、説明しない」のである。本当は誰だって判っている。政府方針に反対したから排除したのである。「危なそうな人は除けときました」と言われて、名前も知らない学者たちを首相はそのまま「排除」した。それは何故かと問われても、「杉田が反政府の中心は除外したというから、それで良しとした」なんてホントのことは言えない。
(宇野重規氏)
 朝日新聞11月14日の書評欄に宇野重規氏が担当した評が掲載されていた。「『統治者としてふさわしくない指導者、危険なまでに衝動的で、邪悪なまでに狡猾で、真実を踏みにじるような人物』であるにもかかわらず、国全体がそのような暴君の手に落ちてしまう。暴君はあからさまな嘘をつくが、いくら反論されても押し通し、最後は人々もそれを受け入れてしまう。ナルシストである暴君は法を憎み、法を破ることに歓びを感じる。」
 
 宇野氏が書くように「これは現代の話ではない」。何しろ『暴君 シェイクスピアの政治学』という岩波新書の書評なのである。著者はスティーブン・グリーンブラッドというハーバード大学教授である。「シェイクスピア研究の世界的権威の著作の一節」なのだが、「本書を読むものは、どうにも生々しく感じられ、私たちの生きている現代世界を反映したものとしか思えないではないか。」「皆がまともさを回復する最良のチャンスは、普通の人々の政治活動にあるという結論が重い。今こそシェイクスピアを読み直すべきかもしれない。」この書評の中に、世の中に「人文・社会科学」的な知恵が大切であることが示されている。
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