尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

核兵器廃絶条約、発効へー批准国・署名国を調べる

2020年11月01日 23時17分52秒 |  〃  (国際問題)
 国連で採択された核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、TPNW)が2021年1月に発効することになった。この条約は批准国が50ヶ国に達してから90日になると効力を発すると決められている。2020年10月24日に中米のホンジュラスが批准して、これで50ヶ国になったわけである。その90日後は2021年1月22日である。

 この核兵器禁止条約発効のニュースは、日本で大きく報道されたが日本政府の冷たい反応が印象的だった。条約が国連で採択された時には、「日本も批准するべきだ」と主張した。日本政府は「非核三原則」を掲げて、「核兵器を、持たず、作らず、持ち込ませず」を国策としている。そこから素直に考えていけば、核兵器禁止条約に参加する方が自然だと思っている。日本国民の中にも、核兵器禁止条約参加を求める声は高い。
(条約参加を求める広島の集会)
 では、この条約に参加した国はどのような国なのだろうか。「批准国」以外に「署名国」も37ヶ国にのぼる。「批准」(ひじゅん)とは、国家が最終的に条約などに参加する手続きである。「署名」「締結」などは外交を担当する行政機関が行うが、三権分立の国家では国会の了承が必要である。(民主主義以前の段階では「君主」の承認が必要である。)日本では国会で衆参両院で可決された後、天皇が認証し公布されることで条約の批准となる。
(緑=批准国、黄=署名国)
 批准及び署名国の状況は上記の地図にある。圧倒的に多いのはラテンアメリカ諸国である。続いて太平洋の島国(オセアニア)、そして今はまだ批准国は少ないが、アフリカ東南アジア諸国に署名国が多い。そこから逆算すれば判るけれど、参加国が少ないのはヨーロッパ西アジアのイスラム圏東アジア諸国ということになる。これは何を意味するのか。

 ラテンアメリカ諸国の批准は21ヶ国になり、全50国中の4割を超える。カリブ海の小さな島国も多いが、メキシコ、エクアドル、ボリビア、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラ、コスタリカ、パナマ、キューバ、ジャマイカなどが批准国。ブラジル、チリ、ペルーなども署名している。参加していないに国は経済混乱の中、右派政権と左派政権の対立が激しいアルゼンチンがある。ブラジルも2019年に極右のボルソナロが当選したので、批准が進まないことが予想される。しかし大きな方向としては「ラテンアメリカの非核化」が進むだろう。

 太平洋諸国も同じだが、ニュージーランド以外は小さな島国ばかりである。オセアニア最大のオーストラリアは米国の同盟国で参加していない。太平洋は核実験で過去に一番被害を受けてきた。現在もアメリカ、中国の影響力が大きく、批准国(10国)以外に署名国がない。一気に「太平洋非核化」が実現すると考えるのは早計かもしれない。

 アフリカは現在の批准国は6ヶ国(ボツワナ、ガンビア、レソト、ナミビア、ナイジェリア、南アフリカだが、署名国がいっぱいある。(アルジェリア、アンゴラ、ベニン、中央アフリカ、コンゴ共和国、コートジボアール、コンゴ民主共和国、ガーナ、ギニアビサウ、マダガスカル、マラウイ、モザンビーク、スーダン、タンザニア、トーゴ、ザンビア等)今後批准が増えてくることが予想される。アフリカも米中が影響力を競う地域なので、地域ごと「非核化」するメリットは大きいだろう。南アフリカナイジェリアなどの地域大国も参加している。

 注目されるのは東南アジアの状況だ。ASEAN10ヶ国の中で、すでに批准したのがマレーシアタイラオスベトナムで、署名国がブルネイカンボジアインドネシアフィリピンミャンマーの5国である。つまり、シンガポール以外は条約に参加している。東南アジア諸国も「非核化」を求めているのである。菅義偉首相は所信表明演説もしないまま、「初の外遊」としてベトナムとインドネシアを訪問したが、この問題には何の方針も示さないままだった。日本と関係の深い東南アジア地域が「非核化」する意味は大変大きい。

 他にもバングラデシュモルディブが批准し、ネパールが署名国になっている。インドパキスタンが公然と核兵器を所有する中で、隣接する国が核禁条約に参加する意味は大きい。また中国、ロシアに隣接する中央アジアのカザフスタンも批准国。

 しかし、ヨーロッパが少ない。オーストリアバチカンアイルランドサンマリノマルタの5ヶ国。オーストリア、アイルランド、マルタはEUROPE加盟国だが、NATO(北大西洋条約機構)には不参加である。つまり、米国と同盟関係にある多くのヨーロッパ諸国は署名もしていない。国連での採択時には賛成したスウェーデンスイスも参加していない。NATOには入っていないので、今後参加するかもしれないが、なかなか難しい問題だ。

 資料的な意味も含めて、ちょっと細かく国名を書いてきた。先の地図を見ても判るように、世界を見てみれば核兵器禁止条約参加国が占める面積は小さい。核大国のアメリカ、ロシア、中国、インドなどの超大国はもちろん、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国が空白地帯となっている。これをどう考えるべきか。「アメリカと同盟する」という政策を続けていっていいのか。そういうことかもしれない。中国、ロシア、アメリカの勢力中間地帯にあるということは、日本の変えられない条件である。そこで東南アジア諸国は「非核化」を選択した。日本が米国追従で発展できるのか、そのような長期展望を持って、核禁条約を考えていくべきだろう。
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