尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

坂口恭平「苦しい時は電話して」と「いのっちの電話」

2020年11月24日 22時27分09秒 | 〃 (さまざまな本)
 坂口恭平(1978~)という人がいる。本の紹介を見ると、「建築家・作家・絵描き・歌い手・ときどき新政府内閣総理大臣」とある。「新政府」というのは、自分で「独立国家」を樹立することにしたらしく、「独立国家のつくりかた」(講談社現代新書)という本が評判を呼んだ。小説も含めて、ずいぶん本を書いていて、「TOKYO 0円ハウス0円生活」とか「モバイルハウス 三万円で家をつくる」とか新書本や文庫に入ってる本も多い。今まで読んだことはないんだけど、今年出た「苦しい時は電話して」(講談社現代新書)を読んだ。

 この本は僕には読む必要がない本だった。しかし、この本を必要とする人はいるだろうし、そういう人はいろんなところにいると思うから紹介しておこうかと思う。なんで必要ないかというと、この本は「死にたいと思っている人」に向けて書かれているからだ。そして、今自分は心の中で「死にたい」という気分は全くない。そして、思い出してみると、自分の人生には失敗したり、落ち込んだりしたことはあるけれど、ホントの意味で死にたいと思ったことはないなと気付いた。

 著者の坂口恭平さんは躁鬱病だという。前からカミングアウトしているとのことで、「死にたい」という気持ちによくなるという。そして、その時の気持ちを分析し、同じような気持ちの人に呼びかけている。それだけじゃなくて、「自殺者をゼロにしたい」と考えて、自分の携帯電話番号を公開して、ひとりで「いのちの電話」をやっている。最初は「新政府いのちの電話」と言ってたというが、「いのちの電話」は商標登録されていると言われて「いのっちの電話」に変えたという。
(坂口恭平氏)
 僕も「なんだか何もしたくないなあ」という気持ちなら、よく判る。最近はあまりないけれど(実際に何もしなくても、別に構わない状況になっている日が多いので)、そこから「死にたい」さらに「自殺する」というところには、ずいぶん飛躍がある。そこには、言ってみれば「生真面目人間」の特徴があると著者も言っている。だから「死にたいときは=つくる時」だという。その「死に至る創造性」を引き出すことが坂口さんは、さすがに上手なような感じがする。

 実際の「いのっちの電話」のやり取りも紹介されているが、とても興味深かった。リクツ的なところは僕にはピンと来ないところがあったけれど、「死にたい気持ち」の心の内をこれほど語った本は珍しいと思う。その意味では多くの人にも参考になる本だろう。今新型コロナウイルスによって、生活が苦しくなったり、気持ちが追い詰められている人が多いはずだ。自分はそうじゃない人でも、そばに悩んでいる人がいるかもしれない。こういう本があって、こういう人がいるって知っていると役立つこともある。

 坂口恭平さんは、熊本市で育ち早稲田大学建築学科で石山修武氏に学んだ。卒論でホームレスの家を建築学的に調査した。それを基にした写真集や本が出て、その頃からちょっと気になっていた。それだけだと順調みたいだけど、実は違っていたという。きちんとした「建築」を設計するには躁鬱病があって難しく、自分で本を書いたりして生きることにした。世の中に適応するより、自分で「独立国家」を作ってしまおうと考えた。

 ツイッターを見ると、2019年9月に鬱が明けて以来440日元気だという。「いのっちの電話」はその分大変だけど、それも元気につながっているという。ホントに「死にたい」と思ったら、(相当に早寝早起きらしいけど)、遠慮なく使ってみればいいと思う。じゃあ、電話番号は何だというと、本の画像に出ている。その前に著者のツイッターのフォロワーになったり(そうすると「独立国家」の国民になれるらしい)、近くの図書館で本を探してみるといいのではないか。
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