イスラエルの第25回総選挙が11月1日に行われ、ネタニヤフ政権の復活が確定的になった。この4年間で5回目の総選挙である。長く続いた右派リクードのネタニヤフ首相は、2021年6月についに退陣して8党派連立のベネット政権が発足した。その時に「イスラエルの政権交代をどう考えるか」を書いて、「明日にも崩壊してもおかしくない」と書いたのだが、案の定1年半持たなかった。連立政権は最初の2年はベネット首相、後半2年をラピド首相と約束して始まったが、連立を離脱する議員が出て過半数を割り込んでしまった。そのため、ベネットは6月末で辞任し、7月からラピド首相に交代して選挙に臨んでいた。
(選挙勝利を喜ぶネタニヤフ元首相)
イスラエルの選挙は重大な割りに日本の報道が少ない。そこで書いているわけだが、やはり一番重大なのは「中東和平への影響」になる。というか、これで中東和平がしばらく頓挫することが決定的になったと言えよう。それとともに、「完全比例代表制」という世界でも珍しい選挙制度がどのように機能するかという問題もある。だが、それ以上に重大なのは、スキャンダルを抱えた右派政治家が復権できるのかという問題である。すでにイタリアのベルルスコーニはメローニ新政権の与党に復権した。イタリア、イスラエルで起きたことは、次はアメリカでトランプが復権することを予告するものなのか。
イスラエルはユダヤ人国家であるとともに、民主主義制度を取る国である。従って、人数的には少数である「超正統派ユダヤ教徒」の政党や、イスラエルに残ったアラブ人の政党が議席を取れるシステムを取らざるを得ない。だから、比例代表制しかないのである。そのため、日本の参議院比例代表区が多党化するように、非常に多くの政党から立候補する。一党で過半数を握ることは不可能で、建国以来一度もない。連立政権しかないのである。しかも、この数年は「ネタニヤフか否か」が争点になって、何か事あれば数人が連立を離脱して政権が崩壊する。何回選挙をやっても、宗教保守派やアラブ系は自分たちの政党以外には投票しないから、結果は大きく変わらない。だから、同じことの繰り返しである。
(新勢力)
今回はネタニヤフ氏が率いるリクードが32議席(2議席増)、ラピド首相が率いるイェシュ・アティドが24議席(7議席増)、極右の「宗教シオニズム」連合が14議席(8議席増)、中道右派の「国民連合」(「青と白」など)が12議席(2議席減)、ユダヤ教超正統派の「シャス」が11議席(2議席増)、同じく超正統派の「トーラー・ユダヤ連合」が7議席(同数)、右派の「イスラエルわが家」が6議席(1議席減)、アラブ系諸政党が合計10議席(1議席増)、労働党が4議席(3議席減)という結果になった。
(今回の選挙結果詳細)
ちょっと細かくなったが、リクード、宗教シオニズム、シャス、トーラー・ユダヤ連合の合計で64議席となる。かつては右派のリクード、左派の労働党が2大政党だったが、労働党の凋落は著しく、今回は最少党派となった。日本やフランスの社会党と同じ道をたどったのである。また長年議席を獲得してきた左派政党メレツが前回の6議席から一挙にゼロと壊滅してしまった。一方で極右政党が第3党に躍進しているのを見ても、イスラエルの世論が右派を支持したのは明らかだ。反ネタニヤフ連合のベネット、ラピド政権にはアラブ人政党も参加した。参加しないと過半数に達しないからである。このイスラエル政治の「禁じ手」が右派系ユダヤ人に全く受け入れられなかったのは明らかだ。
かくして、中東和平など夢のまた夢となった。それどころではなく、「ヨルダン川西岸地区」(1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したままになっている地域。国連安保理決議で認められていないが、イスラエルは事実上自国の領土と見なして入植を進めてきた)を正式に領土にしてしまうなどの「暴挙」もありうる。ただ、それではウクライナを侵攻して自国領にしたロシアと同じになるので、アメリカが認めるはずがない。いくらネタニヤフ政権でもそこまでは踏み込めないはずだが、何が起こるか判らない。アラブ諸国の中でもイスラエルと国交を結ぶ国が続いている。見通しが立たない、暗くなる話題はあまり書きたくないが、現実は直視しないといけない。司法訴追されたネタニヤフでも有権者が拒否しないというのも驚きである。
(選挙勝利を喜ぶネタニヤフ元首相)
イスラエルの選挙は重大な割りに日本の報道が少ない。そこで書いているわけだが、やはり一番重大なのは「中東和平への影響」になる。というか、これで中東和平がしばらく頓挫することが決定的になったと言えよう。それとともに、「完全比例代表制」という世界でも珍しい選挙制度がどのように機能するかという問題もある。だが、それ以上に重大なのは、スキャンダルを抱えた右派政治家が復権できるのかという問題である。すでにイタリアのベルルスコーニはメローニ新政権の与党に復権した。イタリア、イスラエルで起きたことは、次はアメリカでトランプが復権することを予告するものなのか。
イスラエルはユダヤ人国家であるとともに、民主主義制度を取る国である。従って、人数的には少数である「超正統派ユダヤ教徒」の政党や、イスラエルに残ったアラブ人の政党が議席を取れるシステムを取らざるを得ない。だから、比例代表制しかないのである。そのため、日本の参議院比例代表区が多党化するように、非常に多くの政党から立候補する。一党で過半数を握ることは不可能で、建国以来一度もない。連立政権しかないのである。しかも、この数年は「ネタニヤフか否か」が争点になって、何か事あれば数人が連立を離脱して政権が崩壊する。何回選挙をやっても、宗教保守派やアラブ系は自分たちの政党以外には投票しないから、結果は大きく変わらない。だから、同じことの繰り返しである。
(新勢力)
今回はネタニヤフ氏が率いるリクードが32議席(2議席増)、ラピド首相が率いるイェシュ・アティドが24議席(7議席増)、極右の「宗教シオニズム」連合が14議席(8議席増)、中道右派の「国民連合」(「青と白」など)が12議席(2議席減)、ユダヤ教超正統派の「シャス」が11議席(2議席増)、同じく超正統派の「トーラー・ユダヤ連合」が7議席(同数)、右派の「イスラエルわが家」が6議席(1議席減)、アラブ系諸政党が合計10議席(1議席増)、労働党が4議席(3議席減)という結果になった。
(今回の選挙結果詳細)
ちょっと細かくなったが、リクード、宗教シオニズム、シャス、トーラー・ユダヤ連合の合計で64議席となる。かつては右派のリクード、左派の労働党が2大政党だったが、労働党の凋落は著しく、今回は最少党派となった。日本やフランスの社会党と同じ道をたどったのである。また長年議席を獲得してきた左派政党メレツが前回の6議席から一挙にゼロと壊滅してしまった。一方で極右政党が第3党に躍進しているのを見ても、イスラエルの世論が右派を支持したのは明らかだ。反ネタニヤフ連合のベネット、ラピド政権にはアラブ人政党も参加した。参加しないと過半数に達しないからである。このイスラエル政治の「禁じ手」が右派系ユダヤ人に全く受け入れられなかったのは明らかだ。
かくして、中東和平など夢のまた夢となった。それどころではなく、「ヨルダン川西岸地区」(1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したままになっている地域。国連安保理決議で認められていないが、イスラエルは事実上自国の領土と見なして入植を進めてきた)を正式に領土にしてしまうなどの「暴挙」もありうる。ただ、それではウクライナを侵攻して自国領にしたロシアと同じになるので、アメリカが認めるはずがない。いくらネタニヤフ政権でもそこまでは踏み込めないはずだが、何が起こるか判らない。アラブ諸国の中でもイスラエルと国交を結ぶ国が続いている。見通しが立たない、暗くなる話題はあまり書きたくないが、現実は直視しないといけない。司法訴追されたネタニヤフでも有権者が拒否しないというのも驚きである。