サッカー・ワールドカップのカタール大会は開催時期が11~12月にずらされるなど異例ずくめになっている。その気候の問題は前回書いたけれど、そういう問題以上に重大な点がいくつもある。それはカタールの人権状況で、ヨーロッパではパブリック・ヴューイングを中止するなど、大きな問題になっている。日本ではほとんど論じられていないのだが、それでいいのだろうか。
(ルサイル・アイコニック・スタジアム)
今回はカタール半島東部に集中してスタジアムが作られた。全部で8つの競技場が作られたが、そのほとんどは新設。巨大なスタジアムをこんなに作って、その後どうするんだろうか。決勝戦を行うのが、上の2枚目のルサイル・アイコニック・スタジアム。ドーハではなく、ちょっと北にある人工都市ルサイルに新設された8万人収容のスタジアム。これらのスタジアムをコロナ禍に多数作るには、外国人労働者に頼るしかない。その外国人労働者の待遇に関して大問題になっている。
報道によれば、「出稼ぎ労働者は競技場や地下鉄などの建設現場で過酷な労働を強いられた。人権団体は数千人が死亡したと主張。パリなどフランスの複数の都市は問題視し、パブリックビューイングを実施しない方針だ。W杯報道を拒否する仏日刊紙や、店内上映を中止するドイツのパブも出てきた」とのことである。死者数は判明しないけれど、労働法制が整備されているとは思えないので、多くの問題が生じているのは疑えないだろう。それは単にカタールだけの問題とは言えない。それまでに大規模なスポーツ大会を実施したことがない小国に突然大きなスタジアムを多数建設するという条件そのものに疑問がある。
(ヨーロッパの抗議デモ)
もう一つ重大なのは性的マイノリティの問題。そもそもイスラム教が支配的な地域では「同性愛が違法」という国が多い。カタールも違法となっている。周辺のサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、オマーンなどすべて違法である。サウジアラビアやイランでは死刑が適用される。トランスジェンダーの性自認に関しても、自由な表現は出来ない。報道によれば、イングランドやフランス、ドイツなどの主将は、W杯で多様性や反差別を意味する「One Love」と記された腕章を着用する予定という。イングランドのケーン主将は「あらゆる差別に共に立ち向かう。世界が見ている中で、明確なメッセージを発信できる」と言っている。日本チームはどうするのか、議論されていないのは疑問だ。
(ヨーロッパの対応)
これらの問題を考えて行くと、カタールという国家の特殊性に行き着く。カタールは1971年にイギリスから独立したが、その時ドバイやアブダビと共に「アラブ首長国連邦」に参加することも検討された。結局、カタールやバーレーンは独自で独立する道を選んだが、それは要するに原油や天然ガスが豊富だということである。OPEC(石油輸出国機構)の原メンバーながら、今は脱退して天然ガスに絞っているということだ。その豊富なオイルマネーを利用して独自の国づくりをしてきたカタールだが、ウィキペディアを見ると2013年の統計では、180万人の人口中カタール国籍は13%、外国籍が87%だと出ている。
いくら何でも、この比率は異常と言うしかない。これはスポーツ選手でも同じで、サッカー代表選手も外国から帰化、あるいは外国系が半数近くを占めている。今回はまだ調べてないが、2019年の前回アジアカップ優勝時のメンバーはそうだった。ちょっと今回の代表メンバーを見てみたが、外国チーム所属選手が一人もいない。特に半数ほどが「アルサッド」というチームに所属している。そうなると普段から連携が取れているわけで、自国開催で力を入れているだろうから、カタール旋風が起きないとも限らない。それにしても、このようなチーム作りも普通ではない。
まあ、それはいいんだけど、僕が問題だと思ったのは「女子チーム」の問題。カタールには一応女性チームが存在することになっている。しかし、今まで「女子アジアカップ」に出たことがない。本選に出ていないのではなく、予選にも出ていないのである。イスラム圏では女性がスポーツを行うことが難しい。人前で肌を見せることが忌避される社会なのである。2022年1月にインドで女子アジアカップが行われたが、その予選に参加した西アジア圏の国は以下の国だった。ヨルダン、バーレーン、パレスチナ、アラブ首長国連邦、イラク、レバノンでアラブ系では6ヶ国。(イラクは辞退。)他にイランも出ている。(本選出場はイランのみ。)
事実上「女子チームが存在しない国」で、男子ワールドカップを開催して良いのだろうか。カタールで開催するというFIFAの判断がそもそも間違っていたのではないだろうか。
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今回はカタール半島東部に集中してスタジアムが作られた。全部で8つの競技場が作られたが、そのほとんどは新設。巨大なスタジアムをこんなに作って、その後どうするんだろうか。決勝戦を行うのが、上の2枚目のルサイル・アイコニック・スタジアム。ドーハではなく、ちょっと北にある人工都市ルサイルに新設された8万人収容のスタジアム。これらのスタジアムをコロナ禍に多数作るには、外国人労働者に頼るしかない。その外国人労働者の待遇に関して大問題になっている。
報道によれば、「出稼ぎ労働者は競技場や地下鉄などの建設現場で過酷な労働を強いられた。人権団体は数千人が死亡したと主張。パリなどフランスの複数の都市は問題視し、パブリックビューイングを実施しない方針だ。W杯報道を拒否する仏日刊紙や、店内上映を中止するドイツのパブも出てきた」とのことである。死者数は判明しないけれど、労働法制が整備されているとは思えないので、多くの問題が生じているのは疑えないだろう。それは単にカタールだけの問題とは言えない。それまでに大規模なスポーツ大会を実施したことがない小国に突然大きなスタジアムを多数建設するという条件そのものに疑問がある。
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もう一つ重大なのは性的マイノリティの問題。そもそもイスラム教が支配的な地域では「同性愛が違法」という国が多い。カタールも違法となっている。周辺のサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、オマーンなどすべて違法である。サウジアラビアやイランでは死刑が適用される。トランスジェンダーの性自認に関しても、自由な表現は出来ない。報道によれば、イングランドやフランス、ドイツなどの主将は、W杯で多様性や反差別を意味する「One Love」と記された腕章を着用する予定という。イングランドのケーン主将は「あらゆる差別に共に立ち向かう。世界が見ている中で、明確なメッセージを発信できる」と言っている。日本チームはどうするのか、議論されていないのは疑問だ。
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これらの問題を考えて行くと、カタールという国家の特殊性に行き着く。カタールは1971年にイギリスから独立したが、その時ドバイやアブダビと共に「アラブ首長国連邦」に参加することも検討された。結局、カタールやバーレーンは独自で独立する道を選んだが、それは要するに原油や天然ガスが豊富だということである。OPEC(石油輸出国機構)の原メンバーながら、今は脱退して天然ガスに絞っているということだ。その豊富なオイルマネーを利用して独自の国づくりをしてきたカタールだが、ウィキペディアを見ると2013年の統計では、180万人の人口中カタール国籍は13%、外国籍が87%だと出ている。
いくら何でも、この比率は異常と言うしかない。これはスポーツ選手でも同じで、サッカー代表選手も外国から帰化、あるいは外国系が半数近くを占めている。今回はまだ調べてないが、2019年の前回アジアカップ優勝時のメンバーはそうだった。ちょっと今回の代表メンバーを見てみたが、外国チーム所属選手が一人もいない。特に半数ほどが「アルサッド」というチームに所属している。そうなると普段から連携が取れているわけで、自国開催で力を入れているだろうから、カタール旋風が起きないとも限らない。それにしても、このようなチーム作りも普通ではない。
まあ、それはいいんだけど、僕が問題だと思ったのは「女子チーム」の問題。カタールには一応女性チームが存在することになっている。しかし、今まで「女子アジアカップ」に出たことがない。本選に出ていないのではなく、予選にも出ていないのである。イスラム圏では女性がスポーツを行うことが難しい。人前で肌を見せることが忌避される社会なのである。2022年1月にインドで女子アジアカップが行われたが、その予選に参加した西アジア圏の国は以下の国だった。ヨルダン、バーレーン、パレスチナ、アラブ首長国連邦、イラク、レバノンでアラブ系では6ヶ国。(イラクは辞退。)他にイランも出ている。(本選出場はイランのみ。)
事実上「女子チームが存在しない国」で、男子ワールドカップを開催して良いのだろうか。カタールで開催するというFIFAの判断がそもそも間違っていたのではないだろうか。