尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

私立高校の「授業料無償化」問題②ー東京都の場合

2024年02月22日 22時26分47秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 私立高校の授業料無償化問題。大阪府に続いて、東京都のケースを検討したい。小池百合子都知事は2023年12月5日の都議会で、私立学校の授業料上乗せに設定していた所得制限を2024年度から撤廃すると表明した。つまり、今までも授業料を補助していたのだが、その制度には910万円という所得制限があった。その制限額は国の就学支援金と同額である。つまり、910万円の所得を境にして全く支援がなくなるのだが、それは大阪府も含めてすべての都道府県で同じだった。
(東京都の制度)
 東京の場合、大阪にある「キャップ制」なる不思議な仕組みは存在しない。今までは所得制限を設けた上で、授業料47万5千円まで補助するという仕組みだった。東京都の私立高校の平均授業料は47万3002円だという。従ってもっと高い授業料の学校もあるわけだが、そこは家庭負担になるということだろう。授業料平均額までは補助するという考え方である。それは今後も同じらしいが、今までは存在した所得制限を廃止するのである。

 都立高校は東京都に住んでいる生徒しか受けられないが、当然ながら私立高校には居住制限がない。だから、東京の私立学校にはいっぱい近県から進学しているし、東京の中学生もいっぱい近県の私立高校に進学する。東京都によると、都内の私立高校(244校)の生徒数は約18万人で、そのうち3割が都外在住だという。近隣各県でも国の支援金に上乗せする独自の補助制度があるが、いずれも所得制限があるうえ、県内私立高校へ通う生徒しか対象にならないという。(東京新聞12月25日付) 

 それなら全国どこの都道府県も同じような制度を作れば良いようなものだが、やはり東京や大阪は税収が多いのだろう。そのような政策を通して、子どもを私立学校に行かせたいと考える保護者を集めたいのだろう。一回目に見たように、私立高校には授業料以外にも様々な納付金がある。だから、授業料が実質的に無償化されても、進学実績のある私立校はやはり富裕層が多いはずだ。そういう住民を都内に引き寄せる効果も狙っているのかもしれない。

 それにしても、都内私立校では生徒の3分の1の家庭が何の支援も受けられない。一方で残りの7割弱の生徒には授業料が事実上なくなる。それではあまりにも不公平だという声があがるのも当然だ。東京新聞は「都民だけ高校無償化 波紋」と一面トップで報じている。都外から通う場合は、通学の交通費も高いわけだし、都内私立受験を考える保護者は都内移住を考えるのではないか。この問題は本来国が統一的な制度を作るべきなのだろう。
(都民と他県住民の相違)
 ところで、このような制度を作ると、中学生の進路事情は変わるのだろうか。進路志望を決める2学期が終わる頃に打ち出された政策だから、今年度の影響は限定的だろう。だが、多くの生徒は(推薦入試で合格した場合は別だが)、一般入試では一応公立、私立双方に出願しておくものである。何があるか判らないので(入試当日にインフルエンザに罹るなど)、安全策を取るわけである。今回は「私立高校授業料無償化」の報を受けて、私立志望校のレベルを上げて「冒険」する生徒が増えたかもしれない。

 2月21日に行われた都立高校の入学者選抜受検状況を見ると、若干私立高校志望が増えているかなという気がする。今年から都立高校の男女別定員制が無くなったので、その影響も見極める必要がある。私立入試の方が早いので、先に私立高に合格した生徒は都立高の受検を欠席することになる。前年度と比べてみると、去年は全日制高校で1951人の欠席があったが、今年は2166人に増えている。日比谷高校では、昨年は男女計581人の応募者があり、当日は107人が欠席した。今年は性別問わず459人の応募に対して、105人が欠席した。欠席者自体は減っているが、出願者が大幅に減っている。有意な変化だから理由があるはずだ。成績上位者が私立志向になったか、女子の応募者が減ったのかもしれない。
(制度を発表する小池知事)
 ところで私立高校授業料無償化というのは、一体どういう意味を持つのだろうか。公立高校で全中学生を受け入れることは出来ない。少子化にともない公立学校の空き教室が増えているから、キャパシティとしては可能かも知れない。だが教員がいないし、公立高が受け入れすぎると、私立高校の経営が破綻してしまう。だから、事前に卒業予定者数を見て公私間で受け入れ数を調整している。必ず私立高校に行かざるを得ない中学生が存在するのに、全く経済的支援がないのは不公平になるだろう。

 しかし、私立学校には「独自の教育理念」があり、本来はそれに魅力を感じる保護者があえて高額の授業料を支払っても、子どもを私立に行かせるものだろう。それに私立高校には大学附属も多く、入試を経ずに大学に進学出来る高校も多い。都立高校にも「指定校推薦」みたいな制度があるところも多いが、一般的には受験しないと大学へ行けない。私立高校は高いけれど、大学受験の苦労がないという場合、私立の授業料を無償化するのはかえって不公平ではないのか

 公立高校の授業料が安いのは、教職員が公務員であり人件費を都道府県が全額負担しているからだ。私立の場合は、授業料や入学金などから教職員の人件費を出すんだから、高くなるのも当然だろう。それを考えると、これだけ無償化を進める以上、公私立で教職員の人件費が違ってはおかしいだろう。(違うかどうか僕は詳細を知らないけど、多分私立の方が実質的に有利な場合が多いと思う。)授業料に差がある分、私立の方が高い教育を受けられるという場合、授業料を公費で負担するのは不公平なんじゃないか。「平等とは何か」という難問をこの問題は提起しているように思う。

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