入試の季節真っ只中である。もっとも地方や時代により、ずいぶん入試の仕組みも違っている。自分の感覚では「2月は入試」「3月は卒業式」になるが、順番が違う地方もあるらしい。それはともかく、最近は「教育無償化を実現する会」なんていう小政党まであるぐらいで、「教育無償化」というテーマは政界でもキーワードになっている。
もともと公立の小学校、中学校は授業料がないが、それは義務教育課程の公立学校だから当然だろう。余りにも当たり前すぎて授業料がないことを誰も意識していないだろう。だが「私立の小中学校」は授業料があるし、公立の小中学校でも教材費、制服・体育着代、給食費、修学旅行費などは保護者の負担である。これも当たり前すぎて誰も疑問に思わなかっただろう。
もっとも低所得世帯の児童・生徒の給食費や修学旅行費には多くの自治体で補助制度があった。そして最近は所得に関わらず「給食費の無償化」を進める自治体が増えてきている。また大学進学に対する奨学金制度を進める自治体もある。それらに関しては、ここでは取り上げない。ここで考えたいのは「私立高校の授業料無償化」という問題である。
世界的には「後期中等教育(高校)の無償化」は、「人権」と考えられ諸外国では20世紀中に実現されていた。高等教育(大学)の無償化をどう進めるかが世界の問題だった。しかし、自民党内閣では長いこと高校無償化が実現しなかった。多くの人は覚えていると思うが、2009年に成立した民主党政権で、初めて高校教育の無償化が実現したのである。
その仕組みはなかなか複雑で、僕には問題もあるように思われた。自民党内閣が復活して所得制限が行われたが、その時にはこのブログでも批判・検討した。国の制度の所得制限や様々な問題点(「朝鮮学校の除外」や「留年生徒の除外」など)も今は検討から外したい。民主党政権では当初、公立高校だけでなく、私立高校や専門学校等に通う生徒にも支援が行われたが、それは公立高校と同額の補助を行うというものだったと記憶する。
今も国の負担において、公立高校と同様の補助が支出されている。私立高校の授業料は公立より高いから、差額は保護者の負担になる。それに対し、多くの都道府県が「上乗せ」支援を行っている。(22年度時点で34都道府県だという。)大阪府では2020年度から所得制限(910万円)を設けた上で、(国庫負担と合わせ)「60万」を上限とする補助を行ってきた。それに対して、2022年になって「完全無償化」と称して、所得制限の撤廃を打ち出したのである。(ただし、初年度は高校3年生のみで、段階的に無償化を実施するとしている。)
(新旧制度)
(段階的無償化のイメージ図)
今までの説明で長くなったが、この制度案は大きな議論を引き起こした。というのも、多くの私立高校では授業料は60万円より高く、その分は私立高校側の負担となるという制度だったのである。これを「キャップ制」というらしいが、ちょっと理解に苦しむ制度である。私立高校は、公立じゃないんだから授業料は独自に設定できるはずだ。特色ある教育を実施するために多額の授業料を設定するのは、当然許容されるはずだし、それを承知で保護者も私立高校へ行かせているはずだ。
それなのに、授業料の上限を地方自治体が設定してしまって良いのか。そもそも授業料は授業の対価なんだから、そこに公権力が介入するのは問題ではないのか。実際に多くの私立高校から反発が噴出し、結局成案では「63万円」とちょっと増額されることになった。確かに「910万円」の所得制限というのは不可解ではある。それは国の所得制限額と同じだから、所得がオーバーすると補助はゼロとなる。ちょっとの差額で受けられない人は不公平に感じるだろう。
(旧制度の説明パンフ)
今回検索して、上記のパンフが見つかった。それによれば「令和2年4月からから私立高校授業料実質無償化スタート!」と大きくうたっている。4年前にすでに「実質無償化」が実現していたはずなのに、たった4年で制度を根本的に変更するのは何故か。それは私立高校への補助が他県にも波及してきて、大阪府の独自性が薄れたからだろう。「大阪維新の会」としては、問題が大きくなってきた大阪万博に代わる「目玉」が欲しいんだろうと思う。
ところで、そもそも「私立高校授業料無償化」とは何なんだろうか。私立高校の授業料が高いのは誰でも知っている。それでは貧困層の子どもは公立高校しか行けない。だから私立高校授業料も補助するというのなら、それはタテマエ上「平等化政策」である。その場合は所得制限がある方が正しいのではないか。高所得層でも無償化するというなら、その余裕分を塾や予備校、あるいは海外旅行などの体験学習などに回せる。教育の階層格差を広げることになるだろう。そして恐らくそれが政治的目的なんだろう。大阪維新の支持層向けの政策なのである。
(大阪桐蔭高校)
もう一つ大きな問題がある。僕は大阪の私立高校は三つしか知らない。それは「大阪桐蔭」「履正社」「PL学園」で、要するに高校野球に出てきた学校である。多くの人はそんなものだろう。大阪周辺の進学校としては、神戸市にある灘中学・高校がある。そこは結局この制度には参加しないということだ。(大阪府では近県の学校にも参加を呼びかけていた。)つまり、近県私立へ進学する府民生徒は無償化の恩恵があるが、その他の県出身者には恩恵がない。また大阪の私立に進学する他県の生徒も恩恵がない。
(灘中学・高校)
同じ学校の生徒間に大きな格差が生まれるのは問題ではないか。またそれは別としても、このような有名私立のホームページを調べてみると、例えば灘中の場合、入学金25万、施設費25万などと明記されている。授業料そのものは中学が46万8千、高校が48万とあるが、授業料と同額以上の諸費用が必要なのである。「私立高校授業料無償化」と言うけど、やはり貧困層の生徒は入学が難しいのである。では諸費用も含めて無償化するべきか。そうなると今度は公立高へ行かせる保護者、あるいは子どもがいない府民とのバランス上不公平が過ぎるという意見が出るだろう。この問題をどう考えるべきか、東京のケースも合わせてもう少し考えてみたい。
もともと公立の小学校、中学校は授業料がないが、それは義務教育課程の公立学校だから当然だろう。余りにも当たり前すぎて授業料がないことを誰も意識していないだろう。だが「私立の小中学校」は授業料があるし、公立の小中学校でも教材費、制服・体育着代、給食費、修学旅行費などは保護者の負担である。これも当たり前すぎて誰も疑問に思わなかっただろう。
もっとも低所得世帯の児童・生徒の給食費や修学旅行費には多くの自治体で補助制度があった。そして最近は所得に関わらず「給食費の無償化」を進める自治体が増えてきている。また大学進学に対する奨学金制度を進める自治体もある。それらに関しては、ここでは取り上げない。ここで考えたいのは「私立高校の授業料無償化」という問題である。
世界的には「後期中等教育(高校)の無償化」は、「人権」と考えられ諸外国では20世紀中に実現されていた。高等教育(大学)の無償化をどう進めるかが世界の問題だった。しかし、自民党内閣では長いこと高校無償化が実現しなかった。多くの人は覚えていると思うが、2009年に成立した民主党政権で、初めて高校教育の無償化が実現したのである。
その仕組みはなかなか複雑で、僕には問題もあるように思われた。自民党内閣が復活して所得制限が行われたが、その時にはこのブログでも批判・検討した。国の制度の所得制限や様々な問題点(「朝鮮学校の除外」や「留年生徒の除外」など)も今は検討から外したい。民主党政権では当初、公立高校だけでなく、私立高校や専門学校等に通う生徒にも支援が行われたが、それは公立高校と同額の補助を行うというものだったと記憶する。
今も国の負担において、公立高校と同様の補助が支出されている。私立高校の授業料は公立より高いから、差額は保護者の負担になる。それに対し、多くの都道府県が「上乗せ」支援を行っている。(22年度時点で34都道府県だという。)大阪府では2020年度から所得制限(910万円)を設けた上で、(国庫負担と合わせ)「60万」を上限とする補助を行ってきた。それに対して、2022年になって「完全無償化」と称して、所得制限の撤廃を打ち出したのである。(ただし、初年度は高校3年生のみで、段階的に無償化を実施するとしている。)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/4a/f5/78bba14ec3234eb2bb6010dc30eea66e_s.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/05/17/1becb7dbbd6a73f64d945172af758aca_s.jpg)
今までの説明で長くなったが、この制度案は大きな議論を引き起こした。というのも、多くの私立高校では授業料は60万円より高く、その分は私立高校側の負担となるという制度だったのである。これを「キャップ制」というらしいが、ちょっと理解に苦しむ制度である。私立高校は、公立じゃないんだから授業料は独自に設定できるはずだ。特色ある教育を実施するために多額の授業料を設定するのは、当然許容されるはずだし、それを承知で保護者も私立高校へ行かせているはずだ。
それなのに、授業料の上限を地方自治体が設定してしまって良いのか。そもそも授業料は授業の対価なんだから、そこに公権力が介入するのは問題ではないのか。実際に多くの私立高校から反発が噴出し、結局成案では「63万円」とちょっと増額されることになった。確かに「910万円」の所得制限というのは不可解ではある。それは国の所得制限額と同じだから、所得がオーバーすると補助はゼロとなる。ちょっとの差額で受けられない人は不公平に感じるだろう。
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今回検索して、上記のパンフが見つかった。それによれば「令和2年4月からから私立高校授業料実質無償化スタート!」と大きくうたっている。4年前にすでに「実質無償化」が実現していたはずなのに、たった4年で制度を根本的に変更するのは何故か。それは私立高校への補助が他県にも波及してきて、大阪府の独自性が薄れたからだろう。「大阪維新の会」としては、問題が大きくなってきた大阪万博に代わる「目玉」が欲しいんだろうと思う。
ところで、そもそも「私立高校授業料無償化」とは何なんだろうか。私立高校の授業料が高いのは誰でも知っている。それでは貧困層の子どもは公立高校しか行けない。だから私立高校授業料も補助するというのなら、それはタテマエ上「平等化政策」である。その場合は所得制限がある方が正しいのではないか。高所得層でも無償化するというなら、その余裕分を塾や予備校、あるいは海外旅行などの体験学習などに回せる。教育の階層格差を広げることになるだろう。そして恐らくそれが政治的目的なんだろう。大阪維新の支持層向けの政策なのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/67/1d/dc385002c8de2278590847c1c694b9cb_s.jpg)
もう一つ大きな問題がある。僕は大阪の私立高校は三つしか知らない。それは「大阪桐蔭」「履正社」「PL学園」で、要するに高校野球に出てきた学校である。多くの人はそんなものだろう。大阪周辺の進学校としては、神戸市にある灘中学・高校がある。そこは結局この制度には参加しないということだ。(大阪府では近県の学校にも参加を呼びかけていた。)つまり、近県私立へ進学する府民生徒は無償化の恩恵があるが、その他の県出身者には恩恵がない。また大阪の私立に進学する他県の生徒も恩恵がない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/67/1d/dc385002c8de2278590847c1c694b9cb_s.jpg)
同じ学校の生徒間に大きな格差が生まれるのは問題ではないか。またそれは別としても、このような有名私立のホームページを調べてみると、例えば灘中の場合、入学金25万、施設費25万などと明記されている。授業料そのものは中学が46万8千、高校が48万とあるが、授業料と同額以上の諸費用が必要なのである。「私立高校授業料無償化」と言うけど、やはり貧困層の生徒は入学が難しいのである。では諸費用も含めて無償化するべきか。そうなると今度は公立高へ行かせる保護者、あるいは子どもがいない府民とのバランス上不公平が過ぎるという意見が出るだろう。この問題をどう考えるべきか、東京のケースも合わせてもう少し考えてみたい。
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