尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

続報・東京都のスピーキングテスト問題ー反対の声止まず

2022年10月20日 22時55分30秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 東京都教育委員会が11月27日に実施を予定している英語のスピーキングテスト。直近では8月3日に「東京の「スピーキングテスト」実施と多くの疑問」を書いた。その後も反対の声は止まず、都議会でも取り上げられた。自分でも新しく考えたことがあり、改めて現時点で続報を書いておきたい。

 まず、「19日にはテスト理論や英語に詳しい研究者らが都立高校入試への活用反対を表明した。」(朝日新聞)「言語学が専門の大津由紀雄・慶応大名誉教授や、英語教育に詳しい鳥飼玖美子・立教大名誉教授ら5人が都教委に要望書を提出し、19日に記者会見した。テスト結果の入試への活用見送りを求めた。」という。もちろん都教委という組織は、このような動き(要望書の提出など)があっても、協議に応じるなどということはない。このまま「粛々と実施される」のだと思う。だが、大津氏や鳥飼氏は大学入学共通試験における民間テスト導入問題でも反対を表明していた人たちである。国は止めたが、都は止めない。
(記者会見する大津氏や鳥飼氏)
 10月の都議会でも、この問題が取り上げられた。立憲民主党と東京維新の会が「スピーキングテストの結果を合否判定に使わない」とする条例案を提出した。これに対し、自民党と都民ファーストの会は「都立高入試の受験科目選定への介入は教育行政の中立性を脅かす」と反対。共産党も「都議会の多数派が条例などで教育目的や内容を決定することに慎重であるべきだとして反対」した。しかし、共産党は「都教委によるテストの事実上の強制も教育基本法が禁じる不当な支配だ」と主張し、都教委による自主的なテスト中止を求めたという。都議会の議員数は自民、都民ファースト、公明、共産、立民の順で、第5会派の提出した条例はもちろん否決されたが、都民ファーストから3人の賛成議員があった。

 そして、立民、共産らの反対派議員は、10月7日に「スピーキングテスト活用反対」の都議会超党派議連を発足させた。都民ファーストの会から条例案に賛成した3議員の他、欠席した2議員も議連に参加した、3議員はその後会派から除名処分を受け、それに対し「除名処分は無効」とする弁明書を会紀委員会に提出したということである。議連には42議員が参加しているが、都議会議員は全部で123人(定数は127、現在の欠員4)だから、3分の1に過ぎない。しかし、このような超党派議連が地方議会に出来たというのは、かつて聞いたことがない。それだけ都民、保護者の批判、疑問も大きいのだろう。
(スピーキングテスト反対議連が発足)
 僕が考えたのは、このテストの「自己採点」は可能なのかという点である。都立高校の入選では、解答用紙のみ提出し、問題用紙は持ち帰る。そのため中学では翌日に「自己採点」を行うことが出来る。解答用紙は返却されないが、個人の得点は中学当てに開示されている。学校で普通に行われている定期考査の場合、もちろんテスト返却が行われ、自分でどこを間違えたか振り返ることが出来る。学校で行われるテストというのものは、本来「結果だけ」ではダメである。今回は得点結果はもちろん教えられるだろうが、もともとの解答(スピーキングの録音)と採点過程は生徒に開示されるのだろうか。この発音ではこのぐらいの点数だろうと本人が納得出来るということが、テストには必要ではないか。

 またスピーキングテストの扱いが過大に過ぎるという批判がある。僕も言われて初めて気付いたが、「1000点満点の20点」だから、このぐらいは影響が少ないと思い込んでいた。都立高校の選抜は、「学力検査」と「調査書」で行われる。学力検査は普通科の場合、5教科で実施され、各100点、500点満点を700点満点に換算する。一方、調査書は中学の評定を5教科(テストを行う教科)はそのまま、テストを行わない4教科は倍にする。つまり、「オール5」の生徒の場合、5×5=25、4×5×2=40、合計65となる。その65点満点を300点満点に換算するのである。合計すると、「当日のテストが500点満点でオール5の生徒」は、700+300で1000点になる。それにスピーキングテストの点数20点満点を加えて、1020点満点にするというのである。

 ちょっと複雑だけど、わざわざ換算するのが面倒くさいだけで、よく読めば判るだろう。換算は教員が手作業で行うなんてわけはなく、都教委からエクセル形式の様式が送られてくる。昔はフロッピーディスクが来たけど、今はさすがに違うんだろう。ところで、調査書点だが65点満点を300点にするというのは、およそ4.615倍にすることになる。小数点は割り切れなく、延々と続く。そうすると、英語が「5」だったら、およそ23.075になる。「4」だったら、18.46である。

 2学期に英語を頑張って、4から5になったとしても、5点しか増えない。スピーキングテストは別個に20点になるから、中学3年生2学期の英語はスピーキングの練習にのみ使う方が有利である。「4技能を重視」ではなく、事実上「3技能(読む・書く・聞く)の軽視」ではないのか。あるいは、中学の教科が事実上10教科になったと言っても良い。明らかに過大だろう。

 さて、条例の問題に戻って。自民、都民ファースト、共産などは、「教育行政の中立性を脅かす」として反対した。かつて都議会では一部議員が都立養護学校(当時)の性教育をめぐって、教育に不当に介入したことがあった。その「不当性」は裁判の結果、最高裁でも認定された。だから、都議会が教育を論じる場合は慎重に考える必要がある。だけど、都議会議員には質問権がある。都教委が一部保守系委員に引きずられ、介入の「共犯」となったけど、都教委が「介入はおかしい」と言えば済んだ問題だ。

 では、教育委員会の方がおかしい場合はどうなるのか。議会には条例制定権があり、教育委員会にすべてお任せではなく、教育に関する条例を提起しても許されるのではないか。問題はその内容の当不当であって、今回の場合「スピーキングテストを行うこと」は教育委員会の裁量範囲としても、それを「合否判定には使わないようにする」という条例制定を「教育に対する不当な介入」と考えるのは疑問がある。都教委は何を言っても変えないんだから、都民がおかしいと思う問題があれば、条例制定を目指すしかないのではないか。普通の組織なら、このように反対の声が上がれば、話合いに応じたりするもんだと思うけど、そういうことを一切しないクローズドな組織が都教委である。全国の教育委員会一般とは違う議論をしなければいけない。
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