尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

望月衣塑子「武器輸出と日本企業」

2017年07月25日 20時55分05秒 | 〃 (さまざまな本)
 望月衣塑子(もちづき・いそこ 1975~)という名前だけで判る人は、まだ少ないかもしれない。でももっか売り出し中の新聞記者として、知名度は急速に上がっているだろう。(「望月」と打ち込むと、検索の上位に出てくるぐらい。)菅官房長官に何度もくらいついて質問した、東京新聞の記者である。
 
 その望月氏が長年追いかけてきたのが、日本の武器輸出問題。ちょうど1年前の2016年7月に、角川新書から「武器輸出と日本企業」という本を出していた。そりゃあ知らなかったと早速買ってみたんだけど、案外読むのに時間がかかった。難しい本じゃないんだけど、そして僕も問題意識を共有しているんだけど、武器・兵器というものに関心がない。武器だからというのではなく、クルマだの家電だのと機械全部に渡って、モノとしてあまり惹かれないんだと思う。

 それにしても、安倍内閣の数年間の間に、日本社会がどんどん変えられちゃったことに愕然とする。そして、それはむしろ民主党政権が「地ならし」をしてしまっていたのである。日本は今まで長いこと、「武器輸出三原則」を方針としていた。佐藤内閣(1967年)、三木内閣(1976年)によって定められたのである。日本は長いこと武器の輸出に関して慎重な立場を取り続けてきた。

 それが第2次安倍政権によって、「防衛装備移転三原則」というものになった。
①国連安全保障理事会の決議などに違反する国や紛争当事国には輸出しない。
②輸出を認める場合を限定し、厳格審査する。
③輸出は目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限る。

 これは厳格なようでいて、実は「問題の立て方」を逆転させたものである。つまり、それまでは「武器は基本的に輸出しないが、こういう場合には輸出もできる」というものだった。(アメリカと共同開発した武器技術などにかんして、政府として全面禁止にできないので、そういう場合に「弾力運用」することになってきた経緯がある。)それに対して、安倍内閣では「武器は基本的には輸出できるが、こういう条件を満たさないといけない」と原則が逆になってしまったわけである。

 そういう現実を説明したあとに、各企業や研究者などに多数取材してホンネを探っていったものが本書である。そうなるにはなっただけの経過もあるわけで、今では「武器技術」と「民生技術」をはっきり分けることがより難しくなっている。それはノーベルのダイナマイト発明時代から存在する問題ではあるけれど、最近のロボットやAIの発達を武器に転用すれば恐ろしいことも可能になるだろうと思う。でも日本の企業や大学がAI研究に取り組んじゃいけないとは言えないだろう。

 経済界も長く武器輸出を求めてきたらしい。だけど、この本を読んでわかるのは、じゃあ輸出をどんどん認めれば日本企業は大儲けできて言うことなしなのかと思うと、そうでもないらしいということだ。まず、日本の武器(戦車など)は作っても自衛隊しか買わないことを前提に開発されてきた。だからものすごく高いのである。そして、実戦に使われたことがない。だから当然、実戦で本当に役に立つかどうかの検証がない。防衛装備とは、買う国にとってはその国の税金を使うんだから、その国なりの「説明責任」が生じてくる。日本製武器を買う意味が果たして相手国にあるのか?

 それに上記原則によれば、イスラエルやサウジアラビアなど親米国には武器輸出ができることになっている。そうなると、実際に戦争に使用される可能性が出てこないとは言えない。そうなったとき、日本の世論、そして当の企業で働く労働者にどのような影響を与えるか。それはまずい、おかしいんじゃないかという気持ちがあるんじゃないだろうか。大企業に仕事を貰う中小企業では、大きな声では言えないけれど、実はあまりやりたくないという声をこの本はたくさん拾っている。

 それは単に「武器だから」というに止まらず、秘密保持が求められたり、外国人従業員を使えなかったりと言った面倒がたくさんある。それでは儲かるかと言えば、大企業はともかく下請けにはそれほど儲けが回ってくるわけではない。そういう問題が実はあるということだ。だけど、研究者はちょっと違うかもしれない。アメリカ軍の研究資金をどう考えるのか。日本でも防衛省の研究資金に応募するべきかどうか。昨年来時々報道される問題だけど、現実の苦労の中でどう考えるべきなのか。

 それにしても、研究費があまりにも削減されている現実。それに対して、軍事企業の高揚した様子が恐ろしい。防衛省は、次期戦闘機を国産にして100機開発するために4兆円規模の開発費を税金で投入した場合、24万人の雇用創出、8兆3千億円の経済効果が見込めると試算しているという。(46頁)しかし、それは税金なんだから、他のことに投入してもっと大きな雇用を作れることもあるだろうし、減税に回せば消費が増えるかもしれない。なんで武器開発だけを考えるのだろう。確かに戦争は世に絶えない。だから、それを日本経済の浮揚に利用して何が悪いと本気で考えているらしい人がけっこういるということがよく判った。日本の現実を知るために。
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