尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「彼女の人生は間違っていない」

2017年07月25日 23時01分08秒 | 映画 (新作日本映画)
 「彼女の人生は間違っていない」という映画が公開されている。映画監督の廣木隆一が初めて書いた小説を自分で映画化したもので、東日本大震災の大津波福島第一原発事故を背景にした物語である。これはやっぱり紹介しておきたいと思う。廣木監督の「問題作」と言ってよい映画。

 ちょっとウィキペディアから筋を引用しておくと、「仮設住宅で父と2人で暮らすみゆきは市役所に勤務しながら、週末は高速バスで渋谷に向かい、デリヘルのアルバイトをしている。父には東京の英会話教室に通っていると嘘をついている彼女は、月曜になるとまたいつもの市役所勤めの日常へと戻っていく。福島と渋谷、ふたつの都市を行き来する日々の繰り返しから何かを求め続けるみゆき、彼女を取り巻く未来の見えない日々を送る者たちが、もがきながらも光を探し続ける姿が描かれる。」

 ということで、津波で祖母と母を失い、原発事故でいわき市に避難している女性が、週末ごとに東京へ高速バスで来て「デリヘル嬢」をしている。父親は毎日のようにパチンコ屋に行き、娘からは「補償金をパチンコで無くすつもり?」と問い詰められる。そんな日常をていねいに描いていく。表面的に見れば「彼女の人生には間違いがいっぱい」にも見えるんだけど…。

 原発事故直近地域のようすが出てくる。一方、バスで東京駅に着いた彼女は地下鉄で渋谷へ出て、今や世界的名物のスクランブル交差点を渡って「デリヘル」事務所へ行く。その対照的なありように、もちろん知識としては知っているわけだけど、一種衝撃を受ける。再びやり直したいと連絡してくる地震当時の彼。仮設住宅の隣人のおかしな言動、デリヘル嬢の連絡管理をしている男、様々の登場人物が出てくるが、結局は主人公の「みゆき」とその父の存在感が圧倒的だ。

 「みゆき」は瀧内公美という人で、あまり意識してなかったけど僕も何本か見ている。大変な力演で、それはセックスシーンも多いんだから大変だろうと思うけど、むしろ家族の日常なんかがけっこう難しそうだ。でも現実感がある。一方、東京のシーンにリアリティがあるかどうかは、僕にはよく判らないけど、瀧内公美の演技には「間違っていない」感を感じる。

 父親は光石研で、最近はなんか「たよりにならないお父さん」役を一手に引き受けている感じだが、デビューの「博多っ子純情」の時は中学生だったんだから、お互いに年を取ったなあという気がしてしまう。「酒とパチンコの日々」の裏に潜んでいた感情がラスト近くで沸騰してきて、見る者を圧倒する。他にも高良健吾、柄本時生、蓮佛美沙子などが印象的な役どころを熱演している。

 廣木隆一監督(1954~)はピンク映画出身だけど、一般青春映画「800 TWO LAP RUNNERS」(1994)でブレークした。その後、最高傑作「ヴァイブレータ」(2003)の他「さよなら歌舞伎町」(2015)などがある。最近では「ストロボ・エッジ」「オオカミ少女と黒王子」「PとJK」などアイドル映画のような作品を安定して量産している。でもホントに作りたいのは今回の映画のようなもんだろう。セックスを見つめた映画に傑作が多いのも特徴かもしれない。

 最後にまた書くけど、ホントに「彼女の人生は間違いじゃない」のかどうかは僕にはよく判らない。この映画を見ていても判断はできない。ただ、どうにもならないことを抱えている人は「ネガティブ・ケイパビリティ」という気持ちでずっと見ているしかないなと思う。福島と東京、重い現実と不可思議な人間を見つめる映画。僕はそういうテーマ的な側面よりも、廣木監督のリズムは割合と僕に合っているから好きである。手持ちカメラを中心にした映像で、登場人物に寄り添うように動く映像を見ていると、人生はこういうものなのかもと思ってしまうのだった。
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