講談社現代新書8月の新刊で、宮坂昌之『新型コロナワクチン 本当の「真実」』という本が出た。「真実」が赤字なのは本がそうなっている。宮坂昌之氏は1947年生まれの免疫学者。今まで大阪大学医学部教授等内外で様々な研修職を歴任し、現在は大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授。講談社ブルーバックスで「新型コロナ7つの謎」「免疫力を強くする」などを書いていて、僕は読んでないけど名前を知っていた。
理系の本はあまり読む機会がないんだけど、時々読むと頭がスッキリする。内容が難しくても、ロジックが通っているから面白いのである。この本は今まさに全世界で課題となっている「新型コロナウイルスのワクチンをどう考えるか」、そのすべてが書かれていると言って良い。「全国民必読」というには難解かなと思うが、世の中でサブリーダー的な立場にある人は判らないながらもザッと見ておくといいかと思う。結構売れているらしき「嫌ワクチン本」も真っ正面から論破している。「科学リテラシー」の大切さを教えられる本だ。
プロローグ「新型コロナウイルス感染症はただの風邪ではない」では、今回の新型コロナウイルスそのものの説明が書かれているが、その説明は省略する。その後、第1章「新型コロナワクチンは本当に効くのか?」、第2章「新型コロナワクチンは本当に安全か?」、第3章「ワクチンはそもそもなぜ効くのか?」と続いている。これらの章を読むと、免疫学の進展の奥深さに驚いてしまう。免疫には「自然免疫」「獲得免疫」がある程度の知識では太刀打ちできない。そもそもワクチンは獲得免疫を目指すものだが、自然免疫も強化されるという。
(宮坂昌之氏)
新型コロナワクチンにも様々な種類があるが、ファイザー社、モデルナ社のものは「mRNA」(メッセンジャーRNA)という新しい手法で作られた。2020年1月10日に中国が新型コロナウイルスのゲノム配列を発表すると、ビオンテック社(ファイザー社のワクチンを開発したドイツのベンチャー企業)は2週間で20種類のワクチン候補薬をコンピュータ上で設計した。モデルナ社はゲノム配列発表の4日後には治療原薬の製造を始めた。このスピードには驚くしかない。あまりの素早さに宮坂氏も2020年末段階では安全性、有効性に疑いを持っていて、ワクチン接種には慎重と明言していた。
その後、各国で接種が進み信頼できるデータが続々と報告された。その結果、宮坂氏は高い有効性を認め、安全性も従来のワクチンと同程度と判断し、接種を推進する立場を表明した。本人もすでに2回接種を終えている。しかし、従来のワクチンと同じ程度の安全性というのは、従来のワクチンと同じ程度の危険性があるということでもある。そのこともきちんと説明し、どのような危険性があり、なぜ危険性があるのかも書かれている。
なお「ワクチンの有効率」とは何かということが出ている。僕も今まで「有効率90%」というと、つい「100人にワクチンを打ったら、90人には効いたが10人には有効な抗体ができなかった」という風に思っていた。それが違うという。式で言えば「1-{(接種者罹患率/非接種者罹患率)}×100」になる。これじゃ全然判らないが、ワクチン接種者100人と非接種者100人をある期間で比較し、感染者が接種者では5人、非接種者では50人出たとする。この設定では接種者罹患率は5%、非接種者罹患率は50%である。先の式に当てはめて、{1-(5÷50)}×100=90となる。これがワクチン有効率90%の意味だという。
さらに第4章「ワクチン接種で将来「不利益」を被ることはないか?」、第5章「ワクチン接種で平穏な日常は戻るのか?」と続き、最後に第6章「新型コロナウイルスの情報リテラシー」、第7章「「嫌ワクチン本」を検証する」と続いている。ここで判ることは人はずいぶんいろんな心配をするものだということだ。もちろん「ワクチンにチップが埋め込まれている」などという妄想系は論外である。そんなことが出来ればノーベル賞どころの騒ぎじゃないだろう。しかし世の中には「mRNA」という遺伝子情報の一部を体内に取り込むことで、DNA情報が書き換えられてしまうという人がいるらしい。
それはあり得ないという説明は説得的だ。そもそもワクチンで遺伝子情報が変わるなら、新型コロナウイルス本体に感染した場合こそ大変なはずだから、そっちの心配をするべきという指摘は鋭い。体内に取り込まれた「mRNA」は少しすれば体内で分解されるらしいし、そもそも分子生物学で言う「セントラルドグマ」に反することは起こらない。セントラルドグマとは、DNAの二重らせん構造の発見者フランシス・クリックが提唱した概念で、「遺伝情報は「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される」というものである。これは不可逆的なもので、つまり、mRNAからDNAへの逆転写は起こらない。何事にも例外はあってレトロウイルスという種類だけは逆転があるが、人間には当てはまらない。
(セントラルドグマ)
それにしても、体内に異物を送り込むわけだから、一定の危険性は存在する。それは基本的にはアナフィラキシーショックで、アレルギーや蜂に刺された場合などと同じだ。時々給食でアレルギー食品をうっかり食べてしまい大変な事態になったという報道がある。それは急性の症状であって、翌日以後も給食を食べていて、数日後に数日前の食品のアレルギーが出るなんてことはあり得ない。日本では多くの高齢者が心臓や脳内出血、あるいは原因不明で突然死している。その発生率を上回るようなワクチン接種後の死亡事例は起こっていないと思う。しかし、不明な点は残るし、疑問を持つ人もいるだろう。著者は死亡事例はCTやMRIによる画像診断を行うべきだと提言している。フェイクニュースの見分け方、近藤誠氏ら反ワクチン論者への批判などは僕は紹介するより、是非自分で読んで欲しい。
理系の本はあまり読む機会がないんだけど、時々読むと頭がスッキリする。内容が難しくても、ロジックが通っているから面白いのである。この本は今まさに全世界で課題となっている「新型コロナウイルスのワクチンをどう考えるか」、そのすべてが書かれていると言って良い。「全国民必読」というには難解かなと思うが、世の中でサブリーダー的な立場にある人は判らないながらもザッと見ておくといいかと思う。結構売れているらしき「嫌ワクチン本」も真っ正面から論破している。「科学リテラシー」の大切さを教えられる本だ。
プロローグ「新型コロナウイルス感染症はただの風邪ではない」では、今回の新型コロナウイルスそのものの説明が書かれているが、その説明は省略する。その後、第1章「新型コロナワクチンは本当に効くのか?」、第2章「新型コロナワクチンは本当に安全か?」、第3章「ワクチンはそもそもなぜ効くのか?」と続いている。これらの章を読むと、免疫学の進展の奥深さに驚いてしまう。免疫には「自然免疫」「獲得免疫」がある程度の知識では太刀打ちできない。そもそもワクチンは獲得免疫を目指すものだが、自然免疫も強化されるという。
(宮坂昌之氏)
新型コロナワクチンにも様々な種類があるが、ファイザー社、モデルナ社のものは「mRNA」(メッセンジャーRNA)という新しい手法で作られた。2020年1月10日に中国が新型コロナウイルスのゲノム配列を発表すると、ビオンテック社(ファイザー社のワクチンを開発したドイツのベンチャー企業)は2週間で20種類のワクチン候補薬をコンピュータ上で設計した。モデルナ社はゲノム配列発表の4日後には治療原薬の製造を始めた。このスピードには驚くしかない。あまりの素早さに宮坂氏も2020年末段階では安全性、有効性に疑いを持っていて、ワクチン接種には慎重と明言していた。
その後、各国で接種が進み信頼できるデータが続々と報告された。その結果、宮坂氏は高い有効性を認め、安全性も従来のワクチンと同程度と判断し、接種を推進する立場を表明した。本人もすでに2回接種を終えている。しかし、従来のワクチンと同じ程度の安全性というのは、従来のワクチンと同じ程度の危険性があるということでもある。そのこともきちんと説明し、どのような危険性があり、なぜ危険性があるのかも書かれている。
なお「ワクチンの有効率」とは何かということが出ている。僕も今まで「有効率90%」というと、つい「100人にワクチンを打ったら、90人には効いたが10人には有効な抗体ができなかった」という風に思っていた。それが違うという。式で言えば「1-{(接種者罹患率/非接種者罹患率)}×100」になる。これじゃ全然判らないが、ワクチン接種者100人と非接種者100人をある期間で比較し、感染者が接種者では5人、非接種者では50人出たとする。この設定では接種者罹患率は5%、非接種者罹患率は50%である。先の式に当てはめて、{1-(5÷50)}×100=90となる。これがワクチン有効率90%の意味だという。
さらに第4章「ワクチン接種で将来「不利益」を被ることはないか?」、第5章「ワクチン接種で平穏な日常は戻るのか?」と続き、最後に第6章「新型コロナウイルスの情報リテラシー」、第7章「「嫌ワクチン本」を検証する」と続いている。ここで判ることは人はずいぶんいろんな心配をするものだということだ。もちろん「ワクチンにチップが埋め込まれている」などという妄想系は論外である。そんなことが出来ればノーベル賞どころの騒ぎじゃないだろう。しかし世の中には「mRNA」という遺伝子情報の一部を体内に取り込むことで、DNA情報が書き換えられてしまうという人がいるらしい。
それはあり得ないという説明は説得的だ。そもそもワクチンで遺伝子情報が変わるなら、新型コロナウイルス本体に感染した場合こそ大変なはずだから、そっちの心配をするべきという指摘は鋭い。体内に取り込まれた「mRNA」は少しすれば体内で分解されるらしいし、そもそも分子生物学で言う「セントラルドグマ」に反することは起こらない。セントラルドグマとは、DNAの二重らせん構造の発見者フランシス・クリックが提唱した概念で、「遺伝情報は「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される」というものである。これは不可逆的なもので、つまり、mRNAからDNAへの逆転写は起こらない。何事にも例外はあってレトロウイルスという種類だけは逆転があるが、人間には当てはまらない。
(セントラルドグマ)
それにしても、体内に異物を送り込むわけだから、一定の危険性は存在する。それは基本的にはアナフィラキシーショックで、アレルギーや蜂に刺された場合などと同じだ。時々給食でアレルギー食品をうっかり食べてしまい大変な事態になったという報道がある。それは急性の症状であって、翌日以後も給食を食べていて、数日後に数日前の食品のアレルギーが出るなんてことはあり得ない。日本では多くの高齢者が心臓や脳内出血、あるいは原因不明で突然死している。その発生率を上回るようなワクチン接種後の死亡事例は起こっていないと思う。しかし、不明な点は残るし、疑問を持つ人もいるだろう。著者は死亡事例はCTやMRIによる画像診断を行うべきだと提言している。フェイクニュースの見分け方、近藤誠氏ら反ワクチン論者への批判などは僕は紹介するより、是非自分で読んで欲しい。
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