死刑問題に関してちょっと書いたので、続いて再審請求事件の現状について簡単にまとめておきたい。まず、1979年に鹿児島県大崎町で起こった「大崎事件」の第4次再審請求で、6月22日に鹿児島地裁が棄却決定を下した。5月にも判断が出ると言われたが、6月下旬に延びていた。言い渡し決定日が告知され、開始決定を予測する向きも多かった。この事件は第3次再審請求に鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部が開始を決定したが、何と最高裁が2019年6月25日付で再審開始決定を取り消したという驚くべき経過がある。これに関しては、「大崎事件再審取り消しー信じがたい最高裁決定」(2019.6.28)を書いた。
(大崎事件の再審棄却)
なんで最高裁決定が「信じがたい」かというと、下級審で2回開始決定が出たのに対し、「自判」して棄却したからである。最高裁は憲法違反、判例違反の判断を下すことが最大の役割である。幅広い権限を持っているので、事実認定が出来ないわけではない。しかし、一応、一審二審で「事実認定」を行い、最高裁では法的判断のみを行うのが通例だ。それが事実調べを行わずに鑑定の評価を変えて棄却するという前代未聞の暴挙が行われた。もし仮に下級審の事実認定に疑問を感じたら、差し戻しを命じるのが普通のことだろう。この「事件」はそもそも殺人事件ではないと弁護側は主張し、新証拠をもとに第4次請求を行っている。
最高裁がひどい判断をすることは多いが、最高裁が決定してしまえば法律的には終わってしまう。大崎事件の場合で言えば、第三次請求審は終わりだが、最高裁の事実認定は新たに申し立てられた第四次請求には及ばない。裁判官は新たに請求された内容を、それまでの証拠と「総合評価」して判断しなければならない。だけど、今回の鹿児島地裁決定は最高裁決定に無条件に盲従するような決定になっている。この決定に対しては、木谷明氏ら元判事10人が「異例の声明」を出して批判した。現在の裁判官に対する危機感の現れでもあるだろう。もともと全国に報じられるような大事件ではなかった。しかし、日本の司法の非人間性を世界に示すような「大事件」になってしまった。請求人関口アヤ子さんは95歳で入院中である。
続いて袴田事件。1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で起こった味噌醸造会社専務一家4人殺人事件である。逮捕された社員の元プロボクサー袴田巌さんの名前を取って「袴田事件」と呼ばれる。袴田さんは犯人じゃないんだから、地名から「清水事件」と呼ぶべきだという声がある。その通りだと思うけど、通称として定着してしまったので「袴田事件」と書く。静岡地裁で2014年3月27日に、5例目となる死刑事件の再審開始決定が出され、同時に死刑及び拘置の執行停止命令が出された。袴田さんはその日のうちに釈放され、そのまま再審が開始されるのかと思ったら、検察側の即時抗告を受け、東京高裁が2018年6月に再審開始決定を取り消した。これに対し、最高裁第三小法廷は高裁に差し戻す決定を下した。
(袴田事件)
これらの経過は随時ここでも書いてきたところだが、最高裁が差し戻した論点にそった鑑定人らの証人尋問がようやく7月22日から始まっている。これは一審途中で新たに発見された「血染めの衣類」に付いていた色をめぐる科学論争になっている。雑誌『創』6月号に出ている弁護団の報告に詳しいが、ここでは細かくなりすぎるから省略する。いよいよ、捜査当局による「証拠ねつ造」の可能性が証明されてきた。再審請求審は非公開なので、今行われている証人尋問は傍聴できない。新聞などには小さく報じられていることがあり、注意していれば裁判の推移をうかがうことが出来る。一日も早い開始決定が望まれる事件だ。
1984年に滋賀県日野町で起こった「日野町事件」では、犯人とされた阪原弘さんが無期懲役が確定したまま、2011年3月に亡くなってしまった。獄中で請求した再審請求はそれで終わったが、2012年に遺族が第二次請求を行い、2018年7月に大津地裁が再審開始の決定を出した。死者の再審が認められたのは、徳島ラジオ商事件の富士茂子さん以来になる。現在、検察側の即時抗告に対する審理が大阪高裁で行われているが、関東ではあまり知られていない。典型的な冤罪の構造を持っている事件だと思う。
(日野町事件)
福井女子中学生殺害事件では、2回目の再審請求が行われる予定。ここではもう一つ、ほとんど知られていない事件を紹介しておきたい。なんだか冤罪事件とというと、「昔の地方の警察はひどかった」みたいな印象の人が多いだろうが、ここで紹介する小石川事件は21世紀の東京で起こった事件だ。2002年8月に東京都文京区小石川のアパートで一人暮らしの女性(84歳)の遺体が発見された事件である。同じアパートに住んでいた青年が逮捕され、4ヶ月に及ぶ拘留を経て「自白」して、無期懲役が確定した。千葉刑務所で収容中。2015年に再審を請求したが、2020年3月に東京地裁が請求を棄却した。現在、東京高裁に即時抗告中。
(小石川事件の再審棄却)
この事件は最近になって、日弁連が支援し、また救援会が作られた(国民救援会内にある。)しかし、まだウィキペディアにも項目が立っていない。ほとんど知っている人もいないだろう。調べてみると、一番の大問題は「タオルに付着したDNA」。高齢女性の口にタオルを押しつけて窒息死させたとされるが、そのタオルから元被告人のDNAが検出されなかった。何者かのDNAは検出されていて、それが一致しなかった。着衣の繊維なども検出されず、情況証拠で有罪とされた。弁護側は「謎のDNA」を遺したものが真犯人だと訴えている。東京のど真ん中で起こった事件として注目している。
ところで、再審問題を考えて行くと、「再審法」の壁にぶつかる。まあ再審法という個別の法律はなく、刑事訴訟法の中の再審に関する項目である。日本の再審は、非公開で審理され、証拠調べの必要もない。極端に言えば、裁判官が勝手に棄却すると決定しても違法ではないのである。また、請求人が再審のために弁護人を選任する権利もない。すでに刑期を終了している場合(あるいは仮釈放されている場合)はいいけれど、今まさに獄中にいる場合、再審請求が非常に難しい。それに対し、台湾では、2014年、2019年の2回にわたって、再審法の改正が行われた。調べてみると、今書いた日本の再審法の問題点は、すべて解消されている。アジアで先陣を切った「同性婚の制度化」などにも見られる台湾の民主化が、再審制度のような問題でも見過ごされていないのに感心した。
(大崎事件の再審棄却)
なんで最高裁決定が「信じがたい」かというと、下級審で2回開始決定が出たのに対し、「自判」して棄却したからである。最高裁は憲法違反、判例違反の判断を下すことが最大の役割である。幅広い権限を持っているので、事実認定が出来ないわけではない。しかし、一応、一審二審で「事実認定」を行い、最高裁では法的判断のみを行うのが通例だ。それが事実調べを行わずに鑑定の評価を変えて棄却するという前代未聞の暴挙が行われた。もし仮に下級審の事実認定に疑問を感じたら、差し戻しを命じるのが普通のことだろう。この「事件」はそもそも殺人事件ではないと弁護側は主張し、新証拠をもとに第4次請求を行っている。
最高裁がひどい判断をすることは多いが、最高裁が決定してしまえば法律的には終わってしまう。大崎事件の場合で言えば、第三次請求審は終わりだが、最高裁の事実認定は新たに申し立てられた第四次請求には及ばない。裁判官は新たに請求された内容を、それまでの証拠と「総合評価」して判断しなければならない。だけど、今回の鹿児島地裁決定は最高裁決定に無条件に盲従するような決定になっている。この決定に対しては、木谷明氏ら元判事10人が「異例の声明」を出して批判した。現在の裁判官に対する危機感の現れでもあるだろう。もともと全国に報じられるような大事件ではなかった。しかし、日本の司法の非人間性を世界に示すような「大事件」になってしまった。請求人関口アヤ子さんは95歳で入院中である。
続いて袴田事件。1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で起こった味噌醸造会社専務一家4人殺人事件である。逮捕された社員の元プロボクサー袴田巌さんの名前を取って「袴田事件」と呼ばれる。袴田さんは犯人じゃないんだから、地名から「清水事件」と呼ぶべきだという声がある。その通りだと思うけど、通称として定着してしまったので「袴田事件」と書く。静岡地裁で2014年3月27日に、5例目となる死刑事件の再審開始決定が出され、同時に死刑及び拘置の執行停止命令が出された。袴田さんはその日のうちに釈放され、そのまま再審が開始されるのかと思ったら、検察側の即時抗告を受け、東京高裁が2018年6月に再審開始決定を取り消した。これに対し、最高裁第三小法廷は高裁に差し戻す決定を下した。
(袴田事件)
これらの経過は随時ここでも書いてきたところだが、最高裁が差し戻した論点にそった鑑定人らの証人尋問がようやく7月22日から始まっている。これは一審途中で新たに発見された「血染めの衣類」に付いていた色をめぐる科学論争になっている。雑誌『創』6月号に出ている弁護団の報告に詳しいが、ここでは細かくなりすぎるから省略する。いよいよ、捜査当局による「証拠ねつ造」の可能性が証明されてきた。再審請求審は非公開なので、今行われている証人尋問は傍聴できない。新聞などには小さく報じられていることがあり、注意していれば裁判の推移をうかがうことが出来る。一日も早い開始決定が望まれる事件だ。
1984年に滋賀県日野町で起こった「日野町事件」では、犯人とされた阪原弘さんが無期懲役が確定したまま、2011年3月に亡くなってしまった。獄中で請求した再審請求はそれで終わったが、2012年に遺族が第二次請求を行い、2018年7月に大津地裁が再審開始の決定を出した。死者の再審が認められたのは、徳島ラジオ商事件の富士茂子さん以来になる。現在、検察側の即時抗告に対する審理が大阪高裁で行われているが、関東ではあまり知られていない。典型的な冤罪の構造を持っている事件だと思う。
(日野町事件)
福井女子中学生殺害事件では、2回目の再審請求が行われる予定。ここではもう一つ、ほとんど知られていない事件を紹介しておきたい。なんだか冤罪事件とというと、「昔の地方の警察はひどかった」みたいな印象の人が多いだろうが、ここで紹介する小石川事件は21世紀の東京で起こった事件だ。2002年8月に東京都文京区小石川のアパートで一人暮らしの女性(84歳)の遺体が発見された事件である。同じアパートに住んでいた青年が逮捕され、4ヶ月に及ぶ拘留を経て「自白」して、無期懲役が確定した。千葉刑務所で収容中。2015年に再審を請求したが、2020年3月に東京地裁が請求を棄却した。現在、東京高裁に即時抗告中。
(小石川事件の再審棄却)
この事件は最近になって、日弁連が支援し、また救援会が作られた(国民救援会内にある。)しかし、まだウィキペディアにも項目が立っていない。ほとんど知っている人もいないだろう。調べてみると、一番の大問題は「タオルに付着したDNA」。高齢女性の口にタオルを押しつけて窒息死させたとされるが、そのタオルから元被告人のDNAが検出されなかった。何者かのDNAは検出されていて、それが一致しなかった。着衣の繊維なども検出されず、情況証拠で有罪とされた。弁護側は「謎のDNA」を遺したものが真犯人だと訴えている。東京のど真ん中で起こった事件として注目している。
ところで、再審問題を考えて行くと、「再審法」の壁にぶつかる。まあ再審法という個別の法律はなく、刑事訴訟法の中の再審に関する項目である。日本の再審は、非公開で審理され、証拠調べの必要もない。極端に言えば、裁判官が勝手に棄却すると決定しても違法ではないのである。また、請求人が再審のために弁護人を選任する権利もない。すでに刑期を終了している場合(あるいは仮釈放されている場合)はいいけれど、今まさに獄中にいる場合、再審請求が非常に難しい。それに対し、台湾では、2014年、2019年の2回にわたって、再審法の改正が行われた。調べてみると、今書いた日本の再審法の問題点は、すべて解消されている。アジアで先陣を切った「同性婚の制度化」などにも見られる台湾の民主化が、再審制度のような問題でも見過ごされていないのに感心した。
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