尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「再審法」改正が急務であるー証拠開示と検察官抗告禁止

2023年03月16日 22時57分53秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 「袴田事件」再審開始決定に続いて書く予定だった記事を書いておきたい。それは「再審法」の改正が必要だということである。そのことは今までも書いているけれど、改めてこの機会にまとめておきたい。

 「袴田事件」開始決定後に、弁護団から最高裁に特別抗告をするなという要請が検察庁に行われた。国会の「袴田巖死刑囚救援議員連盟」も法務大臣に要請した。今回の高裁決定は最高裁の差し戻し決定を受けて審議されたものだから、特別抗告をして引き延ばすのは許されない。(なお、判決に不服で最高裁に上訴するときは「上告」というが、今回のような再審開始(あるいは棄却)決定に不服で最高裁に上訴する場合は「特別抗告」と言う。また、地裁決定に対して高裁に訴える時は「即時抗告」と言う。)
(弁護団要請後)(議員連盟要請)
 袴田事件に先立って、2月27日に滋賀県で1984年に起きた日野町事件で再審開始決定が出た。1988年になって逮捕された阪原弘さんは、無期懲役が確定し服役中の2010年に75歳で亡くなってしまった。本人が起こしていた再審請求は、大津地裁で却下され大阪高裁に即時抗告していたが、何と本人死亡で終了してしまった。2012年になって遺族が再審請求を起こし、2018年7月に大津地裁で開始決定が出た。それに対し検察官が即時抗告し、先月末に大阪高裁が即時抗告の棄却決定(再審開始)が出た。そして検察官は最高裁に特別抗告したのである。一体、いつまで引き延ばせば気が済むのか。

 僕がこう書くのは、単に時間が掛かることへの批判だけではない。日野町事件の場合、開始決定に至った大きな新証拠は再審段階で新たに検察側から開示されたものだった。それらの捜査書類や写真ネガなどがもともとの裁判に出されていたら、有罪判決は出なかった可能性が高いというのである。袴田事件に関しても、最終的に開始決定に結びついた「5点の衣類の写真」も2010年の再審請求によって新たに開示されたものだった。つまり、無罪判決につながる新証拠はもともと検察官が持っていたのである。

 これって単におかしい話という問題じゃないだろう。これは「犯罪」ではないのか。無実の証拠を隠し持っていたわけだから、「監禁罪」にはならないのか。いや袴田さんは死刑判決まで受けたのだから、「殺人未遂」というべきではないのか。検察官は公務員なのだから、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」(日本国憲法15条)という精神を持たなければならない。自分たちのメンツのために有罪確定判決を守ろうという姿勢は自己防衛としか思えない。袴田さんは死刑の恐怖と長い拘禁によって、精神を病む状態が続いている。これは少なくとも「業務上過失傷害罪」が現在進行形で犯されているのだ。

 このような検察側の対応を見ると、やはり「再審法」改正が急務だと思う。日弁連(日本弁護士連合会)は2022年6月に「再審法改正実現本部」を設けている。詳しい内容は「再審法改正を、今すぐに」で見ることができる。いくつかの論点があるが、最も重要なものは「証拠開示の制度化」と「検察官抗告の禁止」である。もちろん「再審法」という個別法は存在しない。刑事訴訟法の第4編「再審」(435条~453条)の項目のことである。第一審に関しては細かくやり方が規定されているのに対し、再審に関しては具体的な方法が規定されていない。だから、担当裁判官の裁量が大きい。良心的な裁判官に当たるかどうかが、再審の可否を左右すると言っても過言ではないのが現状である。
(各国の再審規定の比較)
 日弁連は「諸外国における再審法制の改革状況― 世界はえん罪とどう向き合ってきたか ―」をまとめPDFファイルで公開している。フランス、ドイツ、韓国、台湾、アメリカ、イギリスの例が紹介されている。それを見れば、フランス、ドイツ、イギリスでは検察官が抗告できないことになっている。決して無理なことを言っているわけではないのである。韓国や台湾は検察官が抗告できるが、積極的な刑の執行停止(韓国)、受刑者がDNA鑑定を求める権利(台湾)など、人権擁護に向けて近年になって再審法の改正が行われている。

 これを見ても近隣アジア諸国において、日本より台湾、韓国の方が進んでいるんじゃないかと思う。そういう日本の「遅れた」部分にちゃんと気付いていかないとますます世界に遅れてしまう。前にも書いたけど、台湾は「同性婚」を合法化している。日本の現状はむしろ中国に近いのに、台湾と「価値観を共有する国」などと語る人がいる。人権擁護という観点から見れば、日本の状況は台湾よりも中国本土に近いのではないだろうか。
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