NHK朝の連続テレビ小説、いわゆる「朝ドラ」に主演した女優を10人挙げよと言われると誰になるだろう。若手で活躍している人気女優は大体出ていた感じだし、放送当時には話題になることが多い。だから10人ぐらいすぐに答えられても良いだろう。一般常識と記憶力テストである。ところで、僕の場合まず思い浮かぶのが、樫山文枝と日色ともゑなのである。
いつの話だよと言われるだろうが、樫山文枝は1966年の『おはなはん』、日色ともゑは1967年の『旅路』である。(1961年から74年まで、朝ドラは一年連続だった。それ以後は半年ごと。)僕は小学生だったけど、よく覚えていて『おはなはん』なんかテーマ曲が口ずさめるぐらいである。たださすがに展開は覚えてなく、最近になって映画版『おはなはん』(野村芳太郎監督、2部作)と『旅路』(村山新治監督)を見て、こういう話だったんだと思ったものである。
樫山文枝(1941~)と日色ともゑ(1941~)は、奇しくも同年生まれ。当時から劇団民藝の若手俳優として活躍していた。そして奈良岡朋子亡き今は劇団民藝を支えている。この二人が『八月の鯨』で共演するということで、これは見ておきたいなあと思った。紀伊國屋サザンシアターで17日まで。デイヴィッド・ベリー作、丹野郁美訳・演出。民藝公演は夜だと2千円安いので、ついナイトチケットを買ってしまうけど、中村屋で2千円以上食べてしまったのもいつものことだ。
『八月の鯨』と言えば、岩波ホールを思い出す人も多いだろう。リンゼー・アンダーソン監督による映画は1988年に公開されて、岩波ホール最大のヒットとなった。10階のホールから階段を外まで並んでいたものである。無声映画時代の大スターリリアン・ギッシュ(1893~1993)とトーキー初期の大スターベティ・デイヴィス(1908~1989)が主演したが、年齢差と逆にベティ・デイヴィスが姉だったことに驚いた。ベティ・デイヴィスはアカデミー主演女優賞に10回ノミネートされ、2回受賞した大スターである。母親が大ファンだったので、当時見に行ったと語っていた。確か半年ぐらいロングランしていたと思う。
この映画は1988年のキネマ旬報ベストテンで4位になっている。ベストワンは『ラスト・エンペラー』(ベルナルド・ベルトルッチ)で、2位が『フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック)、3位が『ベルリン天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース)だった。それに次ぐ4位というのは、僕には過大評価なんじゃないかと思えた。正直言えば、この映画がそんなに好きじゃなかったのである。「老姉妹」の日々を静かに見つめるが、そこには過ぎ去った人生の思い出とともに、現在の日々にも葛藤がある。あるんだけど、それはあまりに小声で語られるから、「しみじみ老女映画」になっていて不満だったのである。
あらすじを民藝のホームページから紹介すると、「アメリカ、メイン州沿岸の島にある別荘でリビーとサラの姉妹は毎年、夏を過ごすことにしている。1954年の8月、鯨の訪れを心待ちにする姉妹だが、もう昔のように鯨がこの島にやってくることはない。目がみえなくなった姉のリビーはますます気難しく、面倒見のいい妹のサラもさすがに手を焼く始末。そんな頃、幼なじみのティシャがサラにある提案をする。リビーを施設に預けて自分と暮らさないか、と言うのだ。迷うサラ。さらにロシアの亡命貴族マラノフの登場で姉妹の間には微かな波風がたつ……。」
マラノフが今住んでいるところは、近所の女性宅。その主人が急死してしまい、葬儀後には家を出なくてはいけない。マラノフは魚を釣って、姉妹の家に持ってくる。夕方に再訪して魚をさばくという。しかし、姉は魚が食べたくないという。妹はそんな姉のために豚肉を用意する。メイン州の簡素な別荘というセットに、姉リビー(樫山文枝)と妹サラ(日色ともゑ)が暮らす。姉は目が不自由で、外に出るのも大変。そんな姉を妹が甲斐甲斐しく世話をしているんだけど…。
やっぱりどうも今ひとつ思い入れ出来ないなあ。昔映画を見たときはまだ若かったから、今見れば共感度が違うかと思ったけど、そうでもなかった。この前見た映画『敵』のブラックユーモアの方が自分に合ってる。まあ樫山文枝と日色ともゑを見に行ったんだから、それで眼福である。役柄的には妹の日色ともゑの方が儲け役だろう。樫山文枝の姉は前回(2013年)の初演時は奈良岡朋子だったという。それは見てないが、「不機嫌」さの表出が難しい役である。戯曲の設定上の難役だと思う。
老女性二人が同格で出てくる芝居は少ないだろう。三人ならよく商業演劇でやってる『三婆』があるが、他にはなかなか思いつかない。従って樫山、日色の同格共演はもう見られないかと思う。その意味で見て良かったなと思っている。
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