「維新」政治を考えるシリーズの続き。今までに書いたのは、『2025年大阪・関西万博は「失敗」するのか』と『「維新」的発想=「中間組織の排除」がもたらすもの』である。それまでにも何度か書いているが、最近になって「維新」に関する新書本が目に付いたので、読んでみたのである。3回目も同じく新書の紹介で、岩波新書8月新刊の高田一宏『新自由主義と教育改革 大阪から問う』である。著者の高田一宏氏(1965~)は大阪大学大学院人間科学研究科教授とある。
この本の構成を最初に紹介しておくと、まず「序 検証なき改革を検証するために」がある。その後は、以下の通り。
「第1章 新自由主義的改革の潮流ー歴史を振り返る」
「第2章 大阪の教育改革を振り返るー政治主導による政策の転換」
「第3章 公正重視から卓越性重視へー学力政策はどう変わったか」
「第4章 格差の拡大と地域の分断 小・中学校の学校選択制」
「第5章 高校の淘汰と進路保証の危機ー入試制度企画と再編整備」
「第6章 改革は成果を上げたのかー新自由主義的教育改革の帰結」
「第7章 新自由主義的教育改革に対抗するために」
ちょっと面倒くさい紹介になったが、実際に読むのも結構面倒だった。データで検証することが目的の本なので、データが豊富。だけど、ある意味章の名前を見れば内容が理解出来る。犯人を知っていて読むミステリーみたいなものだ。しかし、それこそが目的の本で、そこに価値がある。(なお第1章は、20世紀の動向を知らない世代に貴重な内容が書かれていて大切だと思う。)
著者は大阪大学で志水宏吉氏に影響を受け、ともに研究を進めたという。志水氏は一般的には知名度が低いだろうが、かつて『学力を育てる』(岩波新書、2005年)や『公立学校の底力』(ちくま新書、2008年)などの一般書を僕も読んだ。教育に関する立場もはっきりしていて、その事を知っていればこの本でも大阪で取り組まれてきた「人権教育」への評価が高いのもよく判る。
(府立高校の定員割れ)
大阪で「維新」が権力を握って以来、教育に「競争」を導入する政策が進められてきた。学校を競わせ、教師を競わせ、それで「学力」を上げるというような発想だ。もう始まってから10数年、そろそろ「効果」が上がっても良さそうなものだ。もし「大阪方式」が大々的に効果を上げていたら、「維新」は大宣伝してるだろうし、全国から大阪の教育を視察に行くはずだ。しかし、そんな話は聞いたことがない。むしろ「大阪府立高校の定員割れ」が進んでいるというようなニュースが流れている。
文科省が「全国学力テスト」を開始して以来、いつも同じような結果が出ている。小学校では秋田県、石川県、福井県など本州の日本海側にある県が上位にあることが多い。当初はそれらの地域を視察して、自地域で生かすような試みがなされたと思う。結局は人口の多い大都市部では、生徒数も多く家庭状況も格差が大きく、ただマネして単純に学力が上昇するものではなかった。背景事情を無視して、大阪では「3年続いて定員割れした高校は廃止する」という条例まで作られた。
そんなことが決まりになったら、一度定員を割った高校は二度と浮上出来ないだろう。もうすぐ後輩が無くなりそうな高校では部活動も継続されないし、進路指導にも不安がある。(例年継続していた大学の「指定校推薦」や例年続いていた就職先が続くかどうか心配だろう。)行政が率先して「この高校は危ないですよ」と「お墨付き」を与えるんだから、生徒や親も進学をためらうだろう。そして実際そうなって、どんどん高校が少なくなっている。どこでも少子化により高校は「再編」されているのだが、大阪の場合は「受験市場による淘汰」なのである。
(公立高校3校「廃止」)
特に最近は「私立高校の実質無償化」が行われている。(その事は前に『私立高校の「授業料無償化」問題①ー大阪府の場合』を書いた。)この政策により、以前は公立7割、私立3割という進路状況だったのが、今や私立が4割となり5割に迫っているという。それも当然だろう。なぜなら「条件が不平等」だからである。もし公私立を完全に「競争」させたいのなら、公立も私立も同じ受験日にしなければおかしい。しかし、全国的に同様だと思うが、私立高校の受験日が先でその後に公立高校の受験が行われる。これじゃ、学校の教育内容以前に「先に合格した方に入学する」人が多くなるのは当然だ。学費の心配はないのだから(学費以外の修学旅行費や通学費には違いがあるだろうが)、私立高校進学者が増加するわけである。
(大阪市は塾代補助)
「維新」の教育政策はさらに「進化」している。大阪市では「塾代」への補助が開始されたのである。家庭も塾もかなり混乱したらしいが、やはり歓迎している人が多いという。月1万円だというが、ありがたいことはありがたいだろう。全国どこでも聞いたことがないし、その分は他に使う方が有効だという意見もあるだろう。しかし、このように「直接還元」が「維新」的発想なのである。それにしても「ポピュリズム」も極まれりと僕などは思ってしまう。当初は否定していたはずの「バラマキ」と何が違うのだろうか。
この本の構成を最初に紹介しておくと、まず「序 検証なき改革を検証するために」がある。その後は、以下の通り。
「第1章 新自由主義的改革の潮流ー歴史を振り返る」
「第2章 大阪の教育改革を振り返るー政治主導による政策の転換」
「第3章 公正重視から卓越性重視へー学力政策はどう変わったか」
「第4章 格差の拡大と地域の分断 小・中学校の学校選択制」
「第5章 高校の淘汰と進路保証の危機ー入試制度企画と再編整備」
「第6章 改革は成果を上げたのかー新自由主義的教育改革の帰結」
「第7章 新自由主義的教育改革に対抗するために」
ちょっと面倒くさい紹介になったが、実際に読むのも結構面倒だった。データで検証することが目的の本なので、データが豊富。だけど、ある意味章の名前を見れば内容が理解出来る。犯人を知っていて読むミステリーみたいなものだ。しかし、それこそが目的の本で、そこに価値がある。(なお第1章は、20世紀の動向を知らない世代に貴重な内容が書かれていて大切だと思う。)
著者は大阪大学で志水宏吉氏に影響を受け、ともに研究を進めたという。志水氏は一般的には知名度が低いだろうが、かつて『学力を育てる』(岩波新書、2005年)や『公立学校の底力』(ちくま新書、2008年)などの一般書を僕も読んだ。教育に関する立場もはっきりしていて、その事を知っていればこの本でも大阪で取り組まれてきた「人権教育」への評価が高いのもよく判る。
(府立高校の定員割れ)
大阪で「維新」が権力を握って以来、教育に「競争」を導入する政策が進められてきた。学校を競わせ、教師を競わせ、それで「学力」を上げるというような発想だ。もう始まってから10数年、そろそろ「効果」が上がっても良さそうなものだ。もし「大阪方式」が大々的に効果を上げていたら、「維新」は大宣伝してるだろうし、全国から大阪の教育を視察に行くはずだ。しかし、そんな話は聞いたことがない。むしろ「大阪府立高校の定員割れ」が進んでいるというようなニュースが流れている。
文科省が「全国学力テスト」を開始して以来、いつも同じような結果が出ている。小学校では秋田県、石川県、福井県など本州の日本海側にある県が上位にあることが多い。当初はそれらの地域を視察して、自地域で生かすような試みがなされたと思う。結局は人口の多い大都市部では、生徒数も多く家庭状況も格差が大きく、ただマネして単純に学力が上昇するものではなかった。背景事情を無視して、大阪では「3年続いて定員割れした高校は廃止する」という条例まで作られた。
そんなことが決まりになったら、一度定員を割った高校は二度と浮上出来ないだろう。もうすぐ後輩が無くなりそうな高校では部活動も継続されないし、進路指導にも不安がある。(例年継続していた大学の「指定校推薦」や例年続いていた就職先が続くかどうか心配だろう。)行政が率先して「この高校は危ないですよ」と「お墨付き」を与えるんだから、生徒や親も進学をためらうだろう。そして実際そうなって、どんどん高校が少なくなっている。どこでも少子化により高校は「再編」されているのだが、大阪の場合は「受験市場による淘汰」なのである。
(公立高校3校「廃止」)
特に最近は「私立高校の実質無償化」が行われている。(その事は前に『私立高校の「授業料無償化」問題①ー大阪府の場合』を書いた。)この政策により、以前は公立7割、私立3割という進路状況だったのが、今や私立が4割となり5割に迫っているという。それも当然だろう。なぜなら「条件が不平等」だからである。もし公私立を完全に「競争」させたいのなら、公立も私立も同じ受験日にしなければおかしい。しかし、全国的に同様だと思うが、私立高校の受験日が先でその後に公立高校の受験が行われる。これじゃ、学校の教育内容以前に「先に合格した方に入学する」人が多くなるのは当然だ。学費の心配はないのだから(学費以外の修学旅行費や通学費には違いがあるだろうが)、私立高校進学者が増加するわけである。
(大阪市は塾代補助)
「維新」の教育政策はさらに「進化」している。大阪市では「塾代」への補助が開始されたのである。家庭も塾もかなり混乱したらしいが、やはり歓迎している人が多いという。月1万円だというが、ありがたいことはありがたいだろう。全国どこでも聞いたことがないし、その分は他に使う方が有効だという意見もあるだろう。しかし、このように「直接還元」が「維新」的発想なのである。それにしても「ポピュリズム」も極まれりと僕などは思ってしまう。当初は否定していたはずの「バラマキ」と何が違うのだろうか。
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