尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

岸田首相の「原発新増設」方針の大間違い

2022年08月25日 22時52分32秒 |  〃 (原発)
 コロナ感染中の岸田首相が「リモート会見」を行って、コロナ感染者の全数把握に関して都道府県の判断で止めることが出来るようにするとのこと。何だそれと各知事には不評のようだが、僕も一体何なんだろうと理解不能。それはちょっと置いといて、もう一つ原発に関して重大な方針変更を打ち出した。「岸田文雄首相は24日、首相官邸で開いた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長・首相)で、次世代型原発の開発・建設や原発の運転期間延長について、「年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してほしい」と指示した。電力の中長期的な安定供給確保が狙い。正式決定すれば、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、新増設などを凍結してきた政府方針の大きな転換となる。」
(方針変更を表明する岸田首相)
 僕はこれは実現不可能な暴論だと思う。今まで書いたことも多いが、改めて取り上げておきたい。今の時点で原発を新たに作るとして、それが稼働するのは一体いつのことだろう。もちろん来年、再来年ではなく、30年以上も先のことだろう。しかし、日本は人口がどんどん減っていく。1億人を割り、やがて8千万人台になると予測されている。21世紀後半の人口減に加え、節電技術などの進歩を加味して考えると、むしろ「電気が余る」状況が起きるのではないか。ダムを造ったものの、水需要の予測を誤り、利用されず負担のみ重くなっているケースは全国に数多い。その二の舞になることが予想される。
(まず新増設が予想される原発)
 何でこのような方針変更が打ち出されたのか。ロシアのウクライナ侵攻以来、世界の分断が進んでいる。「ウクライナで起こったことが東アジアで起こらないとは言えない。」政府首脳が何度もそのようなことを言っている。その事実認識自体も検討が必要だが、中国や「北朝鮮」の軍事力増強に問題があるのも確かだろう。しかし、中朝との軍事的緊張が高まる時に、「日本に原発をさらに増やす」という方針が僕には解せない。直接ミサイル攻撃などを受けなくても、日本の電力企業、各原発がサイバーテロにあって機能がマヒすることはないのか。ロシアはウクライナの発電所にサイバー攻撃を行った事実があるし、現在も原発を攻撃、占拠している。原発がサイバー攻撃を受ければ、ただ電気が停まるだけでは済まない。

 さらに「エネルギーの自給」に反していることもある。コロナ、ウクライナ問題で世界の流通網が混乱し、食料やエネルギーなどが値上がりしている。値上がりするだけならまだしも、2020年に中国からのマスク輸入が途絶えたように、日本に輸入出来なくなってしまえば大変なことになる。日本は化石燃料(原油、天然ガス、石炭)をほぼ輸入に頼っている。では原発の原料である「ウラン」は日本に出るのか。かつて鳥取県の人形峠などがウラン産地と騒がれたことがあるが、採算が取れるようなものではなかった。世界ではほぼオーストラリアカザフスタンカナダなどに集中している。
(ウラン産出国)
 直接原発の材料となる「濃縮ウラン」は、ほぼカナダアメリカフランスに負っている。カザフスタンはロシアの同盟国だが、カナダやオーストラリア、アメリカなどは日本への輸出を禁止するとは考えられない。一応そう思えるけれど、日本が核不拡散条約に反して核兵器を開発する動きを見せれば、直ちに禁輸されるだろう。またアメリカにトランプ政権のような自国最優先政権が成立した場合、同盟国だけど売らないということもありうる。永遠に米国追随を逃れられなくなる。それにそういう問題がなくても、記録的な円安の進行でウラン燃料も値上がりする。レアメタルであるウランは、今後値段がどんどん高くなっていくに決まっている。
(世界のウラン資源量分布)
 では、「エネルギーの自給」が可能な発電方法はあるのか。完全に自給するのは当面無理だと思うが、水力太陽光地熱風力潮力などが考えられる。ただ水力、風力、地熱発電なども自然破壊を伴う。それに原発や火力発電と同様に、大規模発電施設には災害やサイバー攻撃のリスクがある。水力発電用ダムが巨大地震で決壊すれば、原発事故に匹敵する大災害になる。太陽光、風力なども巨大台風などで損傷する危険性がある。災害大国日本では、大規模な発電施設を作るやり方を再考するべきだ。
 
 じゃあ、どうすれば良いか。小規模水力発電、太陽光発電などを「地産地消」的に設置することが、真の「防衛力強化」ではないか。第2次安倍政権以来の10年で、新エネルギー政策がすっかり停滞した。もしこの間、再生可能エネルギーの技術向上に注力していたら、現状は大分違ったのではないか。「電気という商品」は他の商品と全く異なっている。在庫を倉庫にしまっておくとか、冷凍保存するとかが出来ない。しかし、過去に比べればバッテリー技術は格段に進歩している。「電気自動車」というものが可能になったぐらいである。さらに生産から消費までの間に、つまり発電所から各家庭までの間に、送電線内で電気が減ってしまう。「送電技術の向上」でこの問題を少しでも解決するべきだ。

 それに節電技術の発展も合わせれば、とても新規原発など不要である。21世紀後半にはそうなるに違いない。ここで大事なことは政府が率先して新しい技術に投資していかなければ、それこそ諸外国に遅れを取るということだ。原発事故以後、もう10年を空費してしまった。今やることは、原発や化石燃料に頼らない電力に大胆にシフトさせていくことだと考えている。
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