尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ピーター・スワンソンのミステリーにハマる

2025年01月29日 22時10分59秒 | 〃 (ミステリー)

 ミステリーの話続き。最近アメリカのピーター・スワンソン(Peter Swanson、1968~)という作家をずっと読んでいる。名前は知っていたが、最近は文庫でも千円を越えるから、そうそう新刊本を買えない。今のところ6冊翻訳されていて、そのうちデビュー作だけはハーパーBOOKSから出ているが、その後の5冊は創元推理文庫。ブックオフに行くと何冊も並んでると思う。

 順番に紹介すると以下の通り。(太字が読んだ本)

①時計仕掛けの恋人(The Girl with a Clock for a Heart ) 2014

そしてミランダを殺す(The Kind Worth Killing) 2015 

ケイトが恐れるすべて(Her Every Fear) 2017

アリスが語らないことは(All the Beautiful Lies) 2018

だからダスティンは死んだ(Before She Knew Him) 2019

8つの完璧な殺人(Eight Perfect Murders) 2020

 2作目の『そしてミランダを殺す』が「このミステリ-がすごい!」「週刊文春」「ミステリーが読みたい!」のベストテンでいずれも2位になったことで、一躍ミステリー界に知られる存在となった。しかし、今回順番に読んだわけではなく、まず読んだのは『8つの完璧な殺人』である。これも「このミス」に入選している。主人公はミステリー専門の書店主で、大分前に店のブログに「8つの完璧な殺人」という記事を載せたことがある。まあお遊びで、ミステリーに書かれた殺人の中で「完璧」かなと思う作品を8つ選んでリストを作ったというだけの話である。全然評判にもならず自分でも忘れていた。

 ところがある日FBI捜査官が訪ねてきて、このブログの作品をまねたと思われる連続殺人が起こっているかもしれないと言うのである。そこで捜査に協力することになるが、主人公や主人公周辺の人物にもいろいろな疑惑もあり、一体真相がどこにあるか迷走していく。8つの中には、A・A・ミルン『赤い館の秘密』、アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』、フランシス・アイルズ『殺意』などミステリーファンには知られた作品もあるが、中には邦訳がない本もあってリスト自体が興味深い。他にも随所でミステリーおたくっぽい論及がなされて楽しい。特にミステリーファンじゃなくても、楽しめるとは思うけど。

(ピーター・スワンソン)

 『8つの完璧な殺人』が面白かったので、本屋で『そしてミランダを殺す』を買ってきて読んでみた。なんだか物騒な題に恐れを抱いていたが、この設定と展開は誰も予測不能だと思う。飛行機に乗ってアメリカに帰ろうとするテッドは、ロンドンの空港で見知らぬ美女リリーと出会う。最近浮気しているらしい妻を「殺してやりたい」と口走ってしまうが、何とリリーはその怒りを肯定するのである。というあたりで、パトリシア・ハイスミス原作、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『見知らぬ乗客』を思い浮かべる人もいるだろう。実際作者はいろんな本でハイスミスに触れていて、現代版ハイスミス流サスペンス小説だろう。

 作者はマサチューセッツ州に住んでいて、ボストンがよく出てくる。メイン州もよく舞台になっている。ニューイングランド地方が主な舞台で、人種的にはヨーロッパ系の事件ばかり。それは特に意味があるというより、アガサ・クリスティやハイスミスへのオマージュなんじゃないかと思う。また連続殺人犯(シリアルキラー)が出てくることも多い。『台北プライベートアイ』で主人公は台湾でシリアルキラーが少ない理由を考察していたが、スワンソンを読むとアメリカではなぜ連続殺人が多いのかと思う。司法制度や銃犯罪の多さなどもあるが、ベースにアメリカ社会の強い緊張感があると思う。『そしてミランダを殺す』は2023年に続編が刊行されていて、早い翻訳を期待したい。それにしても、ぶっ飛んだ展開に驚くしかない作品だ。

 『ケイトが恐れるすべて』はボストンに住むまたいとこ(いとこの子)が仕事でロンドンに住むことになり、交代でボストンに住むことになったケイトの話。ところが到着当日隣室に住んでいる女性が殺されたとか。まさか犯人は親戚? 『だからダスティンは死んだ』は引っ越してきたボストン郊外で、なんだか隣人が殺人犯かもしれないという話。しかし、いくら何でもそんな偶然ってあるのか。それを証明できるのか。この二つの本も強烈なサスペンスで読者を引きずっていく。

  

 『アリスが語らないことは』は今読んでる途中なので、展開はまだ不明。だけど、他の4冊に負けず劣らずサスペンスいっぱい。さらに自然描写や人間描写もメイン州の海岸地帯で共通する。近年は「サスペンス」というミステリージャンルが、どちらかというとホラーになりがちだった。または「嫌ミス」に。もちろんシリアルキラーが出てくるサスペンスだから、怖い要素はあるが案外「嫌ミス」じゃない。弱い人間、精神的にもろい人間がよく出てくるが、寄り添うような展開が多い。そして「真相」の驚きは、謎解きの本格になってるし、主人公が駆け抜けるハードボイルド、犯罪を語る「倒叙」など、ミステリーのジャンルミックスになっている。別にだからどうだという話じゃなくて、単に娯楽として読んでるわけだけど、とにかくスリリングで止められない。


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