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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

最後のごちそう

2006-06-09 15:32:47 | 好きな絵本
 ハリー・ポッター最新刊、お読みになりましたか?私は、今週の日曜日に2度目を
読み終えました。
 訳者であり、静山社の代表でもある、松岡佑子さんは、この第6巻の翻訳中に
ご両親を亡くしたそうです。

 完成した七冊を供えるべき人間が、これで三人になってしまった。夫と父と母と。


 本文の最後でも、そっと涙をぬぐいながら読み、あとがきにきても、また涙が出るのを
こらえなければならず‥でした。松岡さんは、お父様の最後は、第1巻『ハリー・ポッターと
賢者の石』
のダンブルドアの言葉を思い出させてくれた、と書いています。

 「‥‥死とは長い一日の終わりに眠りにつくようなものだ。結局、きちんと
整理された心を持つ者にとっては、死は次の大いなる冒険に過ぎないのじゃ」


 きちんと整理された心

 
来るべき「その時」に備え、ほんとうに「その時」がやってきても、畏れずに騒がずに、
悲しまずに、静かな心を持つことができるのでしょうか‥修行の足りない私なんかは、
想いを巡らせてみることはできるけれど、まだまだ心の中は雑然としたままですが。

 絵本の中に、整理された心を持った人(人でいいのかな?)を見つけました。
  
ぶたばあちゃん

『ぶたばあちゃん』

 マーガレット・ワイルド 文
 ロン・ブルックス 絵
 今村葦子 訳
 
    

 私がこの本を知ったのは、1ヶ月くらい前のkayoさんのブログ「マトリョーシカな日々」で、
紹介記事を読んだからです。どうしても読んでみたくなり、図書館で予約し、やっと借りる
ことができました。

 原題は『OLD PIG』。孫娘と、おばあちゃんのお話です。

 長い間、日々の仕事を分け合ってきた二人。しかし、ある朝、ぶたばあちゃんは、
ふだんどおりに起きてきませんでした。 
孫娘は、いつもは二人でやってきたことを、
自分ひとりでこなしていきます。

 つぎの朝、 「きょうは、いそがしくなるよ」おばあちゃんはいいました。
「わたしは、したくをするんだからね」

 
ぶたばあちゃんは、借りていた本を返却し(もうつぎのぶんは借りません)、銀行へ
行って口座を閉じ、食料品店、電気代、八百屋さん、燃料屋さんの支払いを済ませ、
残っていたお金を孫娘のさいふにしまいます。

 何がおころうとしているのか、おばあちゃがどこへ行くのか、とっくに気がついている孫娘は、

 「ええ、あたしは泣かない。約束する」孫むすめはいいました。でもそれは、
うまれてからいままでで、いちばんむずかしい約束でした。

 ぶたばあちゃんは、少しも畏れずにすべてを受け入れ、次への階段を昇っていくために、
今までの場所(=今居る場所)の片付けをしていくわけです。
 自分のしてきたこと、自分の使っていたもの、自分の所有していたもの‥それらのすべてを
自分の思うとおりに片付けてから、整頓してから、誰かに譲り渡せてから、旅立てる人が、
今いったい何人いるでしょう。伝えたいことさえ、伝えられず、会いたい人にも会えず、
誰に自分が会いたかったのかさえ忘れて、逝ってしまう人がどれだけ多いことか‥。

 きちんと片付けも済ませたぶたばあちゃんは、さらにこう言います。

 「さて、それでは」ぶたばあちゃんがいいました。「ごちそうにしようかね」
 「食欲がでてきたの?」とつぜん希望にみちて、孫むすめがききました。
 「食べものが、食べたいわけじゃないんだよ」ばあちゃんがいいました。

 
食べものでなく、ぶたばあたちゃんが望んだ「ごちそう」とは何だったのでしょう?
 あそらく最後の日となるその日を、「満たしてくれたもの」は‥

 ほんとうに、生きるために必要なことは、こういうことなんだ。最後の時間、最後の1日は、
こんなふうに暮れていくべきなのだ、そう思わずにはいられない素晴らしいラスト数場面が、
この後ページを繰るとやってきます。

 一夜が明けて、池のそばに佇んでいる孫娘。その脇いるのは、おばあちゃんではなく、
一羽のあひる。空を見上げた彼女の顔に朝陽があたり、静かでありながら、それはどこか
誇らしげであるように思えます。

 ぶたばあちゃんも、次の大いなる冒険 の一歩を踏み出したのでしょう。



 作者マーガレット・ワイルドとロン・ブルックスのコンビといえば 『キツネ』 がありますね。
絵の感じもお話もちがうので、同じコンビの作品だとは、気がつきませんでした。
『キツネ』。何ヶ月か前に読んだのですが、あまりに考えることが多くて、紹介することが
できませんでした。またいつの日にか‥キツネ


 
コメント (6)
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