卒業する4年生に!
追い出しコンパの席で卒業するゼミ生から「社会人になるときに読んでおいて役に立つ本はありますか?」と聞かれ、山口瞳の『新入社員諸君!』(角川文庫、絶版)を薦めました。しかし古本屋でも高値が付いているみたいで、入手しにくいでしょう。エピソードもかなり古くなっています。
彼の生前には、毎年4月1日の朝日新聞朝刊に「新入社員諸君!」という彼のエッセイが綴られたサントリーの広告が載りました。いつもいいことを言っていました。サラリーマン時代の僕も大いに影響を受けました。実践できなかったこともあるのですが。
その山口瞳のエッセイから僕の琴線に触れた箴言を要約して(少し意訳した所もあります)、僕のコメントも付して(*印の部分です)、明日から社会人になる4年生に贈ります。
今年度最後の書き込みです。
新入社員諸君!!
1 社会を甘く見るな、勉強を怠るな!
会社に入ったら、自分の勉強のテーマを見つけなさい。それが本当の勉強であるはずで、会社に入ったら勉強しなくていいと考えるならば、とんでもない思い違いである。
2 学者になるな! 芸術家になるな!
勉強は続けるべきだが、学者になってはいけない。会社はきみを学者にするために給料を払っているのではない。出世やマネージメントの本は1冊くらい読んでもよいが、それ以上深入りするな。むしろ仕事に関係のない本を乱読しなさい。
* ドラッガーを1冊。たとえば『ドラッガー 365の金言』(ダイアモンド社)でも。ドラッガーも2冊以上読む必要はない。間違えても『ドラ・マネ』(?)なんか選ばないこと!
3 無意味に思える仕事も嫌がるな!
入社早々の君にはその仕事が無意味かどうかを判断する能力などない。仕事の改革を言うのは3年たってからにしなさい。5月の連休を全部休もうなどと考えている新入社員がいたら、そいつは馬鹿である。
4 出入りの業者に威張るな!
威張れる立場の人に対して決して威張ってはいけない。逆に、頭を下げなければいけない人に頭を下げたからといって卑屈になる必要はない。
5 仕事の手順は自分で考えろ!
ただ言われた仕事をこなすだけの社員ではなく、自分で考える社員は、はじめはノロマに見えるかもしれないけれど、必ず伸びる。
* ゼミで何度も言ったけれど、人が社会で生きていくために必要な能力は3つだけ。「模倣力」(できる先輩をひそかに見習う)、「段取り力」(いま・きょうしなければならない仕事と明日・来週でもいい仕事を仕分けることができる)、「プレゼン力」(自分の考えを簡潔に提示し、他人の発言に適切に質問できる)である(斎藤孝『子どもに伝えたい3つの力』NHKブックス)。
6 重役は馬鹿ではないし、敵でもない!
企業小説しか読まない重役は馬鹿に見えるかもしれないが、彼らは君たちのことをよく観察している。ゴマをする必要はないが、恐れる必要もない。
7 金を作るな、友人を作れ!
30歳までにいくら貯金をしようなどと考えるな。大事なことは自分に金をかけることだ。金を作るより友人を作れ。10人の友人がいたら君は天下無敵だ。
* 真の友人なら1人いればいい。ただし、これから築く新しい家庭も大切に。
8 新人殺しに気をつけろ!
親切な先輩はあやしいと思え。社内の鼻ツマミ者になり、新入社員を仲間に取り込もうと手ぐすねを引いて待っている先輩社員が必ずいる。3年間は会社の女にモテようなどと思ってはいけない。
9 正しい文章を書き、正しい言葉を使え!
常に辞書をもち歩き、疑問があったらひきなさい。変な英語、略語、専門用語を振り回してはいけない。
10 愚痴は言わない!
自分の会社の悪口は言うな、上役・同僚の悪口は他社の人間に言うな。結局君の評価を低めるだけである。ユーモア精神でしのげ。
11 ヴィジョンをもて!
自分の思想、ヴィジョンをもて。1年後、3年後、5年後、10年後の会社そして自分がどうあるべきかをイメージしなさい。
* どうしても会社をやめるなら、入社3年目だ、と思う。
12 節を屈するな、男の意地を曲げるな!
生活のため、妻子のためといっても限度がある。そんなことで一生を棒に振る必要はない。直属の長に相談しよう。それでも納得がいかないなら断固退社すべきである。社会は広い。
* しかし、脱サラ生活はものすごくエネルギーを必要とする。「疲れたからやめる」では脱サラ生活はもっと疲れることを覚悟せよ。脱サラは自分にかなりのエネルギーがあることを確認してからにしたほうがいい。
2012/3/31 記(の再録です)