今年最後の映画は何にしようかと考えた。“今年のクリスマス映画”も見なかったし…。
1年間の嫌なことを忘れ、清々しい気持ちで新年を迎えられるような映画は何だろうか。
そして、できれば今年にふさわしい映画を見たい。
ビデオ店(DVD店?)に行き、陳列棚の前を行ったり来たりしながら思案した。
今年にゆかりのある映画として、今年亡くなった(そしてかつて好きだった)ポール・ニューマンの出ている映画を考えた。
“スティング”のDVDに行き当たった。“スティング”は嫌いな映画ではない。暗い気持ちにさせる映画でもない。
ただ、このDVD店では、“ポール・ニューマン追悼”なんてステッカーを貼って売っていたのが、気に入らなかった。いかにも相手の思惑にはめられたみたいで。
それに、“スティング”は「特典映像付き2枚組み」という高いやつと、1枚だけの安いやつと2種類出ていた。特典映像は見てみたいけれど、高い値段を払ってまで特典映像を見たいというほどの映画でもない。・・・
昨日の朝刊に「今年亡くなった人たち」という幽冥録が載っていたが、そのなかに、赤塚不二夫、筑紫哲也などと並んで、水野晴郎の写真があった。
そうだ! “水野晴郎のDVDで観る世界名作映画”から選ぼう。今年、春先にせっせと見たDVDの大部分は、この“水野晴郎のDVDで観る世界名作映画”に入っているやつだった。
そして、水野さんの訃報で紹介されていた彼の経歴を知って以来、彼が「感動した」という映画には素直に感動することに決めたではないか!
あらためて、今度は500円DVDを置いてある近所の書店に行って、老眼の目にはきつい小さな文字で書かれた彼の紹介を読みながら、選んだ。
第1位は、マービン・ルロイ監督の“心の旅路”(1942年/アメリカ映画)。
舞台は第一次大戦後のイギリス。
戦闘中に記憶を失い、精神病院に収容されていたイギリスの兵士(ロナルド・コールマン)が施設を抜け出して、冷たい霧に煙る街をさまよっているところを、見た目も美しくて心も優しい踊り子(グリア・ガーソン)に助けられる。
二人は恋に落ち、やがて結婚し男の子が生まれる。しかし、作家となった彼は、新聞社に向かう途中、氷雨の降るリバプールの街角でタクシーにはねられてしまう。
そのショックで過去の記憶が甦るのだが、今度は記憶喪失後の結婚生活の記憶を失ってしまう…。
出征前の実家に戻り、亡くなった父親の遺産と事業を継いだ彼は、実業家として成功し、やがて国会議員にもなる。たまたま経営する工場の所在地が、かつて収容されていた精神病院の近くだったことから、次第に彼は失った記憶をよみがえらせて、ついに結婚した妻の元に戻るという物語である。
精神医学的にこのような状況設定がありうるかどうか、一度は記憶を失い言葉も失った男が作家として成功するなどということが可能かどうか、…などといったことは、この際詮索すべきではないだろう。
水野さんが「大変泣かせるロマンの名作」と言い、「二人の再会のラストシーンは、泪と感動を呼ぶ。今の純愛映画など足元にも寄れない素晴らしさがある」と言っているのだから、それでいいのだ。
水野さんは「この映画を10回も見てしまった」という。☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ということなのだろう。
素直な気持ちで観るべし。
それに、グリア・ガーソンという女優さんも美しい。とくに前半の心優しい踊り子時代は素晴らしい。
ああいうきれいな女優さんは、もう現れないのだろうか。
* 写真は、“水野晴郎のDVDで観る世界名作映画 灰20 心の旅路”(KEEP社、500円)のカバー。
なお、原作は、“チップス先生、さようなら”、“学校の殺人”、“失われた地平線”などのジェームス・ヒルトンの小説らしい。原題は“Random Harvest”(直訳すれば「行き当たりばったりの収穫」だけど、どういう意味だろう?)で、“心の旅路”はわが国の映画配給会社か翻訳本の出版社の命名だろう。