わが学部では、2年次の秋に翌年度のゼミ生を募集する。
ぼくのゼミは“癒し系”という風評が先輩から伝わっているらしく、結構応募者が集まる。
ぼく自身は、学生時代にゼミだけはかなり真剣に勉強したこともあり、ゼミ生にも大いに勉強してほしいので、“癒し系”と評されることは不本意なのだが・・・。
その新ゼミ生選考の面接で、ぼくはいつも「最近読んだ本で一番印象に残っているのは何か」を聞く。
学生の「本離れ」、「読書離れ」があまりにもひどいので、せめてぼくのゼミを志望する学生には本を読んでもらいたい。
ゼミ面接で何を聞かれるかということもすぐに伝わるので、応募者は何か1冊は読んでくる。
その回答の中で、毎年一番多いのが東野圭吾の小説である。
そんなわけで、毎年ゼミ面接が終わると、彼の作品を読んでみようと思うのだが、どうもタイトルがいまいちで読まないままになっていた。
昨日、大学からの帰りの車中で読む本がなかったので、学内の本屋に立ち寄り、文庫本をあさった。
どうせなら最近の選択基準である新人賞受賞作ということで、東野圭吾『容疑者xの献身』(文春文庫)を買った。
2006年、134回直木賞受賞作とある。
さっそく読み出し、一気に読んだ。
やっぱり直木賞受賞作くらいになると、桐野夏生『柔らかな頬』にしろ、宮部みゆき『理由』にしろ、ハズレはない。
こんな謎解き推理小説が直木賞を受賞するとは、時代も変わったものだ。
ぼくが以前勤めていた出版社でも数学書を出しており、数学科卒業の編集者が何人かいた。
確かに変わり者が多かった。
しかし、いくら片想いとはいえ、“容疑者x”のようなことまでするだろうか。これでは(第二の)被害者が気の毒すぎるのではないか。ぼくはこの被害者がもっと重要な役割をになうのでないかと、予想しながら読んでいただけに失望した。
謎解きの辻褄合わせにしても、こんな殺人が許されるのだろうか。
謎解きには不満が残ったが、この作者の描く「片想い」は悪くない。
謎解き小説などではなく、純粋に独身数学教師の片想いをテーマにすればよかったのに、と思う。
最近の学生はこういう小説が好きなのか。
* 写真は、東野圭吾『容疑者xの献身』(文春文庫、2008年)の表紙カバー。