帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)『閉鎖病棟』(新潮文庫)を読んだ。
1995年の山本周五郎賞受賞作。
かつてブック・オフで100円で買ったまま放ってあったのだが、退屈しのぎに、なんとなく読み始めた。
最初の数章はややまどろっこしかったが、登場人物がみな精神病院の住人になってからは、一気に読み進めることができた。
まったく期待してなかったのだが、大変に良かった。
解説で逢坂剛が言っていることだが、精神病のレッテルをはられた患者たちが純粋で、きわめてまっとうな人間なのに対して、その家族や精神科医たちが非人間的な存在として描かれている。
唯一、重宗という患者だけは反社会的な存在として描かれているが。
「閉鎖病棟」という題名は読者に誤解を与えるのではないだろうか。西丸四方の『精神医学』の教科書に出てくる戦後間もないころの閉鎖病棟の写真のような牢獄をイメージしてしまう。
主人公は近所に買い物に出かけたり、時おり自宅に外泊することもできる。あえていえば「開放病棟」だが、ぼくは「無事」がよかったと思う。
読後感を損ないたくないので、次の本は読まないままでいる。
* 帚木蓬生『閉鎖病棟』(新潮文庫、1997年)
2010/5/23