I read “Tess of the D’Urbervilles”when I was eighteen with such enthusiasm that I determined to marry a milkmaid. (W. S. Maugham, “Cakes and Ale”preface, p. )
“If you like the milkmaid type”answered Mrs. Driffield. (p.247)
「テス」を読んで“乳搾り娘”との結婚を決意した18歳のモームって、いいと思いませんか。
「お菓子と麦酒」に出てくるエドワード・ドリッフィールドがトマス・ハーディかどうかはあまり詮索する意味はない。本人が違うというから違うのだろうけれど、エドワードの「生命の盃」という小説をめぐる(子どもの死ぬ場面が問題となったという)エピソードは、ハーディの、というよりぼくにとってはケイト・ウィンスレットの、だが、「日陰のふたり」のエピソードそのものだろう。
もしエドワードがハーディではないとしても、ロージーは、18歳のモームが結婚を決意した乳搾り娘テスその人である。
小説の終章近くになって、若かりし頃のロージーのポートレートを見て、モームの連れが「ふくよかな田舎娘の感じですね」といったのに対して、エドワードの後妻は「もしあなたが乳搾り娘みたいなのがお好きならね。」と評している。
“乳搾り娘”ロージーこそがこの小説の主人公であり、私(モーム)が「テス」を読んで抱いた“乳搾り娘”への思いがこの小説を貫いている。
英米文学の世界でどんなことがいわれているのかは知らないけれど、モームが「テス」を読んだのと同じ18歳にして奥井先生の講義でモームを読みはじめたぼくの確信である。
モームの心をとらえたロージーとは、見た目はどんな女性だったのだろうか。「ロージーは黒人との混血だと思う」という後妻の台詞からすると、テスは知らず、ロージーはナターシャ・キンスキーではありえない。
Macmillan Modern Stories to Remember というシリーズに入っている“Cakes and Ale”のretold版(桐原書店から出ていた)には挿絵がついていて、そこにロージーも描かれている。ルノワールの「桟敷席の女」を少し田舎くさくして丸くしたような女性であるが、“乳搾り娘”の面影はない。作家の妻となったかつての“乳搾り娘”を勝手に想像して読んだほうがいいかも。
その後、Vintageのpaperback版の表紙にもロージーの横顔が描かれているのを発見した。映画化するならジュリー・クリスティーあたりかなといった風貌である。
* 写真は、Macmillan Modern Stories to Remember 版“Cakes and Ale”(Macmillan Press、発行年の記載なし。日本の版元は桐原書店)の表紙。向かって左端の横顔の女性がRosie。なお、Vintage 版の表紙は、このコラムの「木の葉のそよぎ」に載せておいた。見比べてほしい
2006年 3月 2日