最近では、ショッピング・プラザに客を奪われ気味の軽井沢旧道の、通称“軽井沢銀座”の、思い出の店ベスト・5。
1. 酒井化学
ロータリーのほうから順番に行くと、まず酒井化学。
いまも健在の鳥勝(がんばって!)のとなりだったと思う。文房具や画材を扱う店だった。小学生だったぼくはもっぱら文房具を買いに行った。店内にはノートや鉛筆など文房具のほかに、スケッチブックや、絵の具や、イーゼルなどの画材が所狭しと置いてあった。ペンキなどもあったかもしれない。油彩のテンペラ油の匂いが店内に漂っていた。
「化学」という名前の由来は不明だが、今となってはかえって洒落ている。祖父は他では手に入らない新聞などを買っていた。
2. 明治屋
食料品のあの明治屋である。店の看板は“MEIDIYA”となっていた。
店内にはテーブルと椅子もあって、ちょっとした飲み物などを注文できた。毎年8月20日過ぎに諏訪神社のお祭りがあるが、明治屋のベンチに座ると、向かいの教会越しに打ち上げ花火を見ることができた。このお祭りが終わると軽井沢の夏も終わり、旧道の人影もめっきり減って寂しくなった。
明治屋の裏手にはパターゴルフ場もあった。ベビーゴルフと称していたように思う。
* あとで訂正するように、ここは“MEIDIYA”と表記する明治屋のことと、“MEIJI”と表記する明治牛乳のことが混同している。
3. 軽井沢物産館
落ち着いた土産店だった。ここの看板も何やら英語で書いてあったと思うが、忘れてしまった。“民俗博物館“風の名前だった。
今もあるけれど、間口は半分くらいになってしまったのではないか。ぼくが軽井沢の絵葉書で一番好きなのは、昔この物産館で買った「落葉松の秋・軽井沢 さとう・きよし木版」というやつで、誰にも出さずに大事にとってある。もう最近の物産館には置いてないようだが。昭和36年だったかの浅間山の噴火のカラー写真(A4判くらいのやつで、一時代の定番ものだった)もここで買った。
4. 三笠書房
あの“風とともに去りぬ”で当てた「三笠書房」と同じ会社なのか、旧軽井沢の地名の「三笠」にちなんだ書店なのか分からないが、軽井沢の数少ない書店だった。
洋書もけっこう置いてあり、包帯(?)を巻いたヘルメットをかぶって、半ズボン姿のシュバイツァーかサマセット・モームのような外国人のおじいさんが立ち読みをしたりしていた。雑誌のコーナーにアメリカの犯罪実話雑誌が置いてあって、開いてみたら犯罪現場の死体の写真などが載っていて恐い思いをした。
5 .小松ストア
三笠書房のとなりが小松ストアだったと思う。
木の階段がついた2階建ての洋風の雑貨店である。外国に縁のなかったぼくにとっては、それこそ“アメリカの窓”だった。“オズの魔法使い”の絵のかかれたピーナッツ・バターの壜とか(食べ終わった後は子どもたちのコップがわりになった)、“ローハイド”に出てくるようなハインツの豆の缶とかを、ここではじめて見た。
やがて紀ノ国屋に客は移り、国道が混むようになると上ノ原のジャスコで済ませ、そして今ではほとんどツルヤで用は足りるようになってしまった。
* 写真は旧道(旧軽銀座?)の写った古い絵葉書。鳥勝や、1件隣りの酒井化学もまだ健在である。向かいの水野(デザイナーの水野正夫が経営する喫茶店だった)から写したものだろう。
ここの1階席で、中村真一郎が杖にのせた両手のうえに顎をついて、不機嫌そうに通りを眺めていたのを見たこともある。
2006年 2月28日