春休みに買って、見たけれどつまらなかった駄作を2点。
“雨の朝パリに死す”の致命傷は、何といっても、エリザベス・テーラーの相手役のヴァン・ジョンスンというのがまったく魅力がないことである。
なんでシャンゼリゼで偶然すれ違っただけの、こんな面相のアメリカ兵に、エリザベス・テーラーが一目惚れしてしまうのかが、まったく理解できない。ぼくにはボードビリアンにしか見えないのだが。
しかもご丁寧に、エリザベス・テーラーの姉のドナ・リード(“うちのママは世界一”の!)までもが彼に惚れてしまうのである。
その先のストーリーもだめである。エリザベスが売れない作家の健気な妻を演ずるのも無理があるし、そもそも作家の生活を映画で描くこと自体に無理があるのではないか。
“紳士協定”でも、グレゴリー・ペックの演ずるドキュメント作家の生活ぶりはいまひとつだった。どうしてもも描くなら、“ティファニーで朝食を”のジョージ・ペパード程度に、おしゃれなジャケットを着て、時どきタイプライターの前に座ってタイプを打つくらいにしておいたほうがいい。
“雨の朝~”は、その昔、原作を(翻訳で)読んでいたが、まったく記憶に残っていない。
飯島淳秀訳『雨の朝パリに死す』(角川文庫、1980年)で、1981.8.5(水)了と記されている。
短編が5本収められているが、①冬の夢、②金持ちの青年、③雨の朝パリに死す、と順位がつけてある。どんな基準だったのか。
ちなみに、角川文庫の表紙カバーは映画のスチール写真で、作家とエリザベス・テーラーが抱き合っているシーンだが、エリザベスの横顔にさえぎられて、男の顔は見えないようになっている。
おそらく角川の編集者も僕と同じ感想をもったのだろう。
ところで、それまでの角川文庫は、岩波文庫と同じような古典作品のライン・アップだったが、1970年代から、独自色を出そうと映画の原作などを出すようになっていた。
『雨の朝・・』の巻末の文庫目録にも、『ファニー・ヒル』、『悪徳の栄え』、『軽蔑』、『ジョンとメリー』、『クリスマス・ツリー』、『ナタリーの朝』、『ベッツィー』、『マッシュ』、『17歳の夏』、『ジョニーは戦場へ行った』、『ラブ・ストーリー』などなどが並んでいる。
『雨に濡れた舗道』、『思い出の夏』など、東宝東和の原作モノも多かった。
もう1本の駄作はヒチコックの“汚名”である。スリルもサスペンスもなければ、イングリッド・バーグマンとケーリー・グラントのロマンスも中途半端という不出来な作品だった。
キネマ旬報の『アメリカ映画作品全集』の解説によると、プロデューサーであるセルズニックが口を出しすぎたため、ヒチコックにとっての「汚名映画」になったと書いてある。
僕だけの偏見かと思っていたが、なるほど納得がいった。
* 写真は、キープ(KEEP)版DVD“雨の朝パリに死す”のケース。