ヒチコックの映画『三十九夜』(イギリス、1935年)を見た(『水野晴郎のDVDで観る世界名作映画』KEEP)。
昨年末に見た映画『ヘンリー八世の私生活』の解説で、1930年代当時、ハリウッド映画に席捲されていたイギリス映画がこの『ヘンリー8世・・・』で息を吹き返し、さらに(イギリス時代の)ヒチコックの『三十九夜』でイギリス映画が活気づいたと書いてあったので、見ることにした。
そういえば、『我が父サリンジャー』に、サリンジャーが最も好きな映画がヒチコックの『三十九夜』だったと書いてあった。
今年最初の映画である。前にも見たような気もするが、内容はまったく覚えていなかった。
映画の原題は “The 39 Steps” で、ジョン・バカン(John Buchan)の原作も “The Thirty-nine Steps” である。何ゆえ映画の邦題だけが『三十九夜』などとなったのか。内容的には「三十九夜」でも「三十九階段」でも大した違いはないのだけれど、「夜」のほうがサスペンス的だとでも思ったのだろうか。「階段」も十分にサスペンス的だと思うけれど。
確かにスリリングな場面は夜のほうが多かった。モノクロ撮影なので夜のほうが演出しやすいのかもしれない。
内容は、ロンドンの劇場で知り合った女スパイから、敵国スパイ(1930年代が背景で、ロンドンの防空情報が漏れたとか言っていたからドイツのスパイだろう)に漏れた情報が敵国に伝わるのを阻止するように依頼された主人公が、依頼に応えるべく、敵に追われながらもスコットランドの僻地まで逃亡し、さらに再びロンドンに戻って、最終的には情報漏えいを阻止するというストーリー。
数年前に旅行して気に入ったエディンバラのウェーバリー駅がチラッと出てきた。ロケかどうかは分からなかった。
舞台がミュージックホール(劇場)での群集の騒ぎだったり、ローカル鉄道の列車内での追跡劇だったり、はたまたスコットランドの荒涼とした丘陵地帯だったり、刑事と思われた人物が敵の一味だったり、主人公が救いを求めた農家や宿屋の主人が敵なのか味方なのかがわからないなど、初期からヒチコックのサスペンス作りはうまい。
原作では男だった登場人物を女に代えてロマンス的要素を加えたりもしている。その女がまた、敵か味方か分からない両義的に描かれている。
ただし、主人公の俳優のメイクが凄すぎて現実感がない。こんなメイクの男が列車に乗ってきたらたちどころに怪しまれてしまうだろう。1930年代にはまだ無声映画時代のようなメイクが普通だったのか。そう言えば、ヘンリー8世を演じた俳優のメイクも同様にすごかった。ひょっとすると、イギリスでは舞台のメイクがそのまま映画界にも入ってきたのだろうか。
原作は、中学か高校時代に、旺文社か学研の学年別月刊誌の付録の文庫本で読んだ。抄訳だっただろう。
※ きょう、中島敦の『山月記』について書き込んだ。『山月記』はたしか旺文社文庫版を持っていたはずなので、物置を探したが見つからなかった。そのかわりジョン・バカン『39階段』(創元推理文庫、1976年、140円)が出てきた。訳者は小西宏氏(ペンネーム)で、ぼくの大学院時代の先生の1人である。小西先生は本書のほかにも、創元推理文庫でE・ガードナーのペリー・メイスンものをたくさん翻訳している(『ビロードの爪』『吠える犬』『奇妙な花嫁』『義眼殺人事件』『管理人の飼い猫』などが手元にある)。本書をはじめ英語の翻訳だが、語学ができる方だったのだろう、大学院ではフランス書講読も担当しておられた。 (1月23日追記)
その後、行方昭夫氏の「 retold 版でもよいから多読せよ」というアドバイスに従って、ディケンズやハーディーなどを retold 版でせっせと読んでいた時期に、“Oxford Bookworms Library” 版で読んだ(下の写真)。2008年1月2日に(何で正月早々のこんな時期に?)池袋のジュンク堂で購入している(レシートが挟んであった)。
カバーの写真は映画(テレビドラマ)の主人公だと思う。
水野氏の解説によれば、この作品はヒチコック以後2回リメイクされたとある。そのうちの1つか、テレビドラマだろう。retold 版の表紙はBBC作成のドラマの1シーンが使われることが多い。
2022年1月10日 記
2022年1月23日 追記