豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

“ミス・マープル” 牧師館の殺人

2020年09月30日 | テレビ&ポップス

 9月30日(水)、夜8時から、AXNミステリーで、アガサ・クリスティの “ミス・マープル” をやっていた。マープル役は、ジェラルディン・マクイーワン。
 「牧師館の殺人」というやつで、ミス・マープルが登場する最初の作品だそうだ。

 メインの犯罪と謎解きは何ということはなかったというか、いつも通りのマープルの独壇場と言うしかないが、伏線のなかで、第二次大戦中のフランス・レジスタンスを支援するイギリス軍人の裏切りや、治安判事を務める田郷紳士(?)の誤判のエピソードが出てきたり、イギリスの検死法廷(陪審ではなく検死官の単独審理だった)が出てきたり、と挿話の部分は面白かった。 

 マープルの敵役というか引き立て役のスラック警部を演じているのが、若き日のアラン・バンクスだった(上の写真)。ネットで調べると、スティーブン・トンプキンソンというらしい。

 たまたま見たのが、マープルものの第1話だったので、ミス・マープルがなぜ「ミス」なのかや、舞台となっている「セント・メアリ・ミード村」の概略を知ることができた。


 2020年9月30日 記


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夕焼け--夕陽が燃えている

2020年09月29日 | 東京を歩く
 
 きょう9月29日の夕方、散歩がてら、プリンタ用インクを買いにヤマダ電機に出かけた。
 家から3000歩の程よい距離である。
 
 帰り道、関越自動車道の下あたりで信号を待ちながらふと西方を見ると、真っ赤な夕焼けである。今まさに日は地平線に沈まんとしていた。
 あまりにも綺麗な夕陽だったので、あわててスマホを取り出して、カメラを呼び出してシャッター(?)を押した。
 右側に斜めに走っているのが関越道である。

 残念ながら、わがスマホに付いたカメラの性能では、この程度の写真しか撮れなかったが、この10倍は美しかったと思って下さい。
 クルマの往来が激しかったので、少し歩いて場所を代えて撮ったが、わずか2、3分で夕日は沈んでしまった。

           

 それから、さらにしばらく歩いて西方が開けた場所に出たので、再びシャッターを切った。
 放射7号線の延長工事が行われている場所である。現在の放射7号線は北園交差点までしか通っていないが、実は既に保谷駅北側の高圧線下まで道路はほぼ完成している。
 ただ、北園のお寺の墓地だけが手つかずのままになっている。
 下は、その工事がほぼ完成している放射7号線の延長道路から西を眺めた写真。

            

 この頃にはすでに日は完全に落ちて、宵闇が迫っていた。シャッターを切るとフラッシュが着いたのでびっくりした。スマホの付属のカメラでフラッシュが点くとは知らなかった。
 ひょっとすると<夜景モード>などもあるのだろうか。ズームもあると便利だが・・・。


 2020年9月29日 記

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“主任警部アラン・バンクス”(AXNミステリー)

2020年09月26日 | テレビ&ポップス
 
 昨夜9月25日(金曜)夜8時から、“主任警部アラン・バンクス” (シーズン2)が始まった(BS560ch. AXNミステリーチャンネル)。<シーズン2 #2>となっていたから、先週から始まっていたのかもしれない。
 第2話の題名は「殺意の境界線」という。

 アラン・バンクスの弟が犯罪に関与しており、アラン自身も最初のうちは容疑者ないし重要参考人として、捜査から外される。この辺の設定はうまい。
 テーマというか犯罪の内容は、かつてぼくが修士論文のテーマにしようかと思っていた問題に関わりがあるのだが、ネタが割れてしまうので控えておこう。

 弟は経済犯罪には手を染めていたが、殺人は犯していないというのが「境界線」の意味らしい。悪銭で羽振りがよいらしくポルシェなどに乗っている。
 弟だけでなく、彼の両親も登場する。
 父親は貧しい工員として働きながら、彼を大学まで行かせ、リタイア後の現在は小売り業を営んでいる。

             

 イギリスの警察官のバック・グラウンドをうかがわせる設定だが、イギリスの警官の学歴はよく分からない。オックスフォード出身のモースは異例のようだが、ハサウェーもたしかケンブリッジを出ている。ルイスも地方ではあるが(マンチェスターだかニューカッスルだか・・・)大学出のようだった。
 時おり登場する嫌味な大学出の新卒刑事は、署長からはちやほやされるが、現場の刑事たちから「将来は警視正様」などと陰口をきかれている。今回アランに代わって捜査の指揮をとる女警部補もそのように描かれている。

 毎週金曜日に数回放映されるようだから、しばらく金曜日の夜はアラン・バンクスで何とか時間をつぶせそうだ。

   *   *   *

             

 つづいて、NHKのBSプレミアム(BS 104ch.)で“中井精也のてつたび” 「夏の思い出・信濃路 しなの鉄道線」というのを見た。

 この夏、軽井沢からどこにも行けなかったので、軽井沢から上田、長野を経て、妙高高原に至る鉄道の旅は楽しかった。
 途中、上田では上田電鉄で別所温泉に寄り道し、長野では北しなの線で湯田中に寄り道をする。これらの路線で、かつて東京を走っていた緑とオレンジの湘南電車や、成田エクスプレス、小田急ロマンスカーなどが今でも現役で活躍していた。
 とくに小田急のロマンスカーは数世代前の車両で、懐かし姿が信州の田園風景の中をゆったりと走っている風景には感動した。豪徳寺生まれのぼくとしては、ぜひ見に行きたいと思った。

                         

 出発がしなの鉄道の軽井沢駅だったので、中軽井沢や信濃追分、御代田、小諸あたりがたくさん出てくるのかと期待したが、残念ながら、軽井沢のつぎはいきなり旧北国街道の海野宿になってしまった。海野宿も悪くはないが、軽井沢びいきとしてはちょっとがっかりした。
 浅間山はやっぱり中軽井沢、追分から見る姿が一番きれいだとぼくは思う。北軽井沢、嬬恋や、小諸からの姿は「ぼく」的にはアウトである。
 雷電の里(?)からの山影などは、ひとに言われなかったら浅間山だとさえ分からなかった。

 写真撮影については、駐輪場の屋根や自動販売機など画面に映したくない対象をカットするように構図を決めろというアドバイスが参考になった。
 ぼくは浅間山を撮ろうとするたびに、ツルヤの前でも佐久農協の踏切わきでも沓掛テラスでも発地市場でも、つねに電線と電柱が邪魔で苦労するのだが、電線をカットする方法はないだろうか。

    *   *   *

 この後、AXNミステリーで高村薫の「マークスの山」をやっているのを発見したが、夜も遅かったし、話がすでに第3話まで進んでしまっていたので見るのはやめた。
 あの小説は主人公が碑文谷署の刑事で、都立大学周辺が出てくるのだが、テレビドラマでは原作に忠実にあの辺りでロケをしているのだろうか。あの辺の住民はテレビのロケなどにはあまり好意的ではないように思うが、もし何年か前のあの辺りの風景が出てくるのなら、ぜひ再放送は見たいところである。


 2020年9月26日 記


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雨の軽井沢 (2020年9月25日)

2020年09月25日 | 軽井沢・千ヶ滝
 
 “TRIP at HOME”!

 軽井沢に行くことができないので、雨の東京の自宅のパソコンで、長野県国道事務所や軽井沢町役場提供の定点カメラの画像を眺めている。

 冒頭は国道18号、碓氷峠(?)から眺めた浅間山。
 このあたりは雨が降っていないばかりか、うっすらと浅間山を望むこともできる。
 ちなみにここは群馬県らしく、高崎道路河川管理事務所提供とある。

 続いての写真は、南軽井沢交差点。
 ここは雨で、気象情報によると<気温:15・2℃、天候:雨>と表示されている。

             

 ついで、鳥井原交差点。
 <しまむら>の看板と、消防署の火の見やぐらが見える。

             

 そして、軽井沢町役場前の国道18号のクルマの流れ。
 路面がきれいに濡れている。
 
             

 高校生か大学生の頃、“雨に濡れた舗道”という東宝東和の映画があり、角川文庫で同名のノベライズ小説が出ていた。どんな話だったかは忘れた。“去年の夏”と同じような話だったのではないか。
 カスケーズ “悲しき雨音”、バート・バカラック “雨に濡れても”、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル “雨を見たかい?”、リトル・ペギー・マーチ、ジリオラ・チンクエッティにも雨の歌があった。
 ちあき・なおみ “黄昏のビギン” も・・・。雨はいい。

 最後は、<追分>。ずい分雨が激しい様子である。
 これがどこなのか、いつも悩む。

             

 向かって右側が<追分 すみや>の駐車場で、左側が旧追分宿の本陣の木立のようでもあるし、違うようでもある。
 <追分 すみや>は、ホームページではこの夏で閉店してしまったようだが、実際はどうだったのか? 残念ながら、今年の夏は行くことができなかった。

 
 2020年9月25日 記
 

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主任警部 アラン・バンクス

2020年09月19日 | テレビ&ポップス
 
 『主任警部アラン・バンクス』シーズン1(終)第4話「報復の行方」(AXNミステリーチャンネル BS 560ch)を見た。
 アラン・バンクスは、かなり以前にたまたま見たストーリーが暗くて暴力的だったので、その後は敬遠していたのだが、最近はポワロもマープルも、フロストもバーナビーも、モースもルイスも、ヴェラもフォイルも、ほとんど見たものばかりで、いよいよ見るものがなくなってしまったので、昨日は見ることにした。

 途中から、この作品もすでに見たことを思い出した。しかし、見た記憶はあるが、どんなストーリー展開で、誰が犯人だったかはほとんど忘れていた。

 登場人物の中で、休職中の警察署長を演ずる俳優が、バーナビー警部の相棒の巡査部長役を演じていた俳優ではないかと思った。アラン・バンクスの配役が分からないので、ネットを探したが見つからない。
 バーナビーのほうをネットで調べると、第44話から相棒を務めた巡査部長役はジェーソン・ヒューズという俳優だった。バーナビーは1997年から放映開始だそうで、アラン・バンクスは2011年から放映なので、この間に14~5年が経過している。
 14~5年の経過にしては今回の警察署長はやや老けすぎている感じがするし、いわゆる「尻あご」の度合いも穏やかになった印象だが、1997年当時の巡査部長役が警察署長役を演じてもおかしくはないだろう。

 幸い来週からアラン・バンクスのシーズン3だか4だかの放映が始まるらしい。これは見ることにしよう。
 なお、アラン・バンクスが所属する警察署はヨークシャー警察と書いてあるものと、リーズ警察と書いてあるものがある。警視庁と書くか碑文谷警察署と書くか、の違いなのか。
 いずれにしても、アラン・バンクスは市の中心部を遠く離れた郊外(田園地帯というべきか)の一軒家で一人で暮らしている。イギリスの警部クラスの警察官はあんな生活ができるのだろうか。

 ※ リーズで思い出したが、仁賀克雄『ロンドンの恐怖』の中に、「リーディング」という地名が出てきたが、あれはレディングだと思う。“Reading” をなぜ「レディング」と発音するのかは分からないが。

 原題についている “DCI” は何の略号なのか。 “CID” なら、Criminal Investigation Department の略で、この部署「犯罪捜査課」は切り裂きジャック事件の際にロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)で初めて導入された組織であると何かの本に書いてあった。

 
             

 アラン・バンクスの数日前に『オックスフォード・ミステリー ルイス警部』(AXNミステリー、BS 560ch)を見た。
 題名は忘れてしまったが、シーズンnの最終回だった。番組表に[終]と表示してあった。

 話の内容もハサウェーが警部に昇進しており、捜査の陣頭指揮をとるハサウェーを助けるために、リタイアしたルイスに署長が電話して応援を要請していた。ハサウェーにとっては迷惑な話ではなかったか。
 その後もルイスが登場し続けているが、どうなっているのか。『ハサウェー警部』シリーズにはならないのだろうか。

 ラストシーンで、例によってルイスとハサウェーが二人でビール(エール?)を飲んでいた。(上の写真)
 こんな風にビールを飲む相手も機会も、ぼくの現役時代には残念ながら、なかった。


 2020年9月19日 記


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べロック・ローンズ 『下宿人』

2020年09月18日 | 本と雑誌
 
 べロック・ローンズ『下宿人』(ハヤカワ・ミステリ199、1955年初版、1994年3版、早川書房)を読んだ。

 切り裂きジャック事件に着想を得た小説は多くあるが、この作品はその嚆矢となったものである(1913年の発表)。
 真犯人ではないかと疑われる人物に下宿を提供した下宿屋夫婦の視点から、下宿人に対する疑惑と恐怖が描かれる。「切り裂きジャック」ものは大体が推理小説ないし犯罪小説になるが、この小説はサスペンス小説のジャンルに入るものだろう。

 女性連続殺人事件ではあるが、事件それ自体の描写はほとんどなく、切り裂きジャック事件とは違って、酔っぱらった女性が深夜次々に殺される。
 聖書原理主義、禁酒主義、菜食主義の女性嫌悪者である下宿人が、この酔っ払い女連続殺人事件の犯人ではないか、と下宿屋夫婦が次第に疑惑を深めていく。

 この下宿人には奇妙な言動はあるが、連続殺人犯のような凶暴さは見られない。家賃や食費はきちんと支払う。下宿屋の主婦は、この紳士的で金払いのよい下宿人に対して、当初は好意すら抱いていた。
 しかし、霧の深い秋から寒いクリスマスにかけて、この下宿人は、時おり夜中になるとひそかに家を抜け出して、どこかへ出かけ、数時間後にはそっと帰宅する。
 翌朝になると、街角の新聞売り子たちが、前夜の殺人事件を報ずる新聞を売っている。
 その人相や、犯人の残した足跡に合致するゴム底の靴などは下宿人のものとそっくりである。しかも下宿人は、深夜に家を空けた翌日は「実験」と称して、部屋にこもって何やら作業をしている。
 鍵のかかった戸棚の隙間から血液と思しき赤い液体が漏れていたり、台所で異臭がしたりしたこともある。帰宅した下宿人の外套のポケットに血が滲んでいたこともある。

 下宿屋の夫婦には、次第に下宿人に対する疑惑と恐怖が生じてくる。そんなある日、下宿人は宿の主婦に対して、「あなたは私を裏切っている」と言い残して消えてしまう。
 本の最後にはこの下宿人が捕まるものと決めてかかっていたので、拍子抜けした。
 結局この夫婦の疑念、恐怖は杞憂だったのかどうかは分からないので、その分サスペンス小説としては成功しているのだろう。

 切り裂きジャック事件をモデルにした小説としてよりも、ヴィクトリア朝時代のロンドンの下宿屋事情を知ることができる小説として面白かった。
 すでにロンドンには地下鉄が通っている一方で、タクシーはまだなく辻馬車などが登場する。部屋の明かりはランプや蝋燭、煮炊きは地下の台所で、ガスもあるがコイン式の量り売りのようである。

 下宿屋の夫婦は、別々の家で召使頭と召使として長年働いてきたが、こつこつ貯めた給金で家を買って下宿屋を始めたようである。しかし家計は、この下宿人が現われるまでは火の車だった。
 この下宿屋の間取りが文字だけでは理解できなかったため、下宿人の私生活と家主の生活との境界を十分に読み取ることができなかった。このことが家主夫婦の恐怖を読み取る妨げになってしまった。
 「小説に見る家の間取り」という連載がかつてどこかの新聞に載っていたが、この本こそ、舞台となった下宿の間取り図が欲しい。訳文もいまいち。誰かに分担で下訳でもさせたのか、「ブドウ酒」、「葡萄酒」、「ぶどう酒」が混在していたりする。
 
 ネットで調べると、原書は今でも出ているらしい。単行本にはイラストも多数入っているようなので、ぜひ欲しいのだが(Marie Belloc Lowndes, “The Lodger” , Cambridge Scholars Pub., 2015)、8000円余とは、ちょっと高すぎる。
 Kindle版は0円だが、イラストはない。

 ヒチコックその他の監督によって4回も映画化されたという。ヒチコックのものはDVDがあるようなので、いつか見てみようと思う。


 2020年9月18日 記


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まだまだ “切り裂きジャック”

2020年09月10日 | 本と雑誌
 
 9月に入っても、怪奇小説月間(?)から抜け出せないでいる。

 コリン・ウィルソン&ロビン・オーデル『切り裂きジャック--世紀末殺人鬼は誰だったのか?』(徳間文庫、1998年)を再読した。
 最初に読んだのは1998年9月9日と最終ページに書き込みがある。ちょうど22年前のきょうだったらしい。

 コリン・ウィルソンも一時期たくさん読んだ作家の一人である。
 何をきっかけに彼の本を読むようになったのかは、今でははっきりしないが、代表作といわれる『アウトサイダー』は読んでいないので、『殺人百科』か何かの「殺人もの」だったと思う。
 彼はアカデミズムには属していなかったが、性的殺人の研究者といってよいだろうから、「切り裂きジャック」はまさに彼の得意分野といえるだろう。「リッパロロジスト」(切り裂き学者?)という彼の造語もむべなるかな、である。

 そしてこの本も彼の面目躍如たるものがある。
 「リッパロロジスト」の同志である共著者(ロビン・オーデル)がジャックによる5件の事件の概略と、これまでに現われた事件に関する論議、主として真犯人の推理を整理した後に、コリン・ウィルソンによる自説が展開されている。
 事件の概略、これまでの諸説については仁賀克雄氏の本と重複するところが多い。「リッパロロジスト」の通説的見解なのだろう。

 コリン・ウィルソンの自説は、読者を陪審員に見立て、証拠に基づく説示の形で示されるのだが、実際には彼の考える「犯人像」の提示にとどまっていて、これまで俎上に上ってきた特定の容疑者の誰かに対する有罪か無罪かの評決を求めるものではない。

 彼の真骨頂は、誰が真犯人かの推理ではなく、あのような凄惨な事件を起こした犯人の心理分析にある。
 彼は、あの事件を起こした犯人の主たる動機は性的サディズム(倒錯的性衝動)にあるとする。(これまでよく言われてきた)梅毒をうつした売春婦への復讐、宗教的信念に基づく売春婦への制裁などといった動機は(あったとしても)二次的なものにとどまるという。
 そして、この事件の犯人が性交それ自体を行っていないことから、犯行の原因を「切り裂き狂気」にあると断定する(391頁)。

 コリン・ウィルソンは、「切り裂きジャック」の人物像として、「性的暴力は欲求不満から生じている。・・・性的変質者の大部分は抑圧された内気な男で」あると分析する(391~2頁)。犯人は「世間でいういわゆる『つまらない男』であり、精神的に未成熟で自己憐憫が強く破壊的衝動に動かされやす」い人物である(404頁)。
 このような分析に基づいて、これまで真犯人として名前の挙がった十数人について、この人物像から外れる人物を除外していく。
 とくに、当時の警察の捜査幹部がメモワールに残した3人の有力容疑者、M・J・ドルイット(オックスフォード出身だが、仕事に恵まれなかった法廷弁護士)、ポーランド系ユダヤ人のコズミンスキー、ロシア人医師オストログに検討を加える。
 これまで最有力とされているドルイット(最後の事件から1か月後にテムズ河で自殺している)については、かなりの字数を割いて否定的な見解を述べているが、ぼくにはあまり説得的には思えなかった(とくに403頁冒頭の推論など)。

 いずれにせよ、このような犯人は、捕まるか、死ぬか、逃げることができない状態で病院等に監禁される以外は、犯行を繰り返すだろうから、「切り裂きジャック」事件の犯人は、5件目の事件以降なりを潜め、捕まらなかった以上は、死んだか、監禁されたのだろうと推測する。

 この本の原書は1987年に刊行されたが、その後も「切り裂きジャック」ものはいくつか出版されているようである。この文庫本には、シャリー・ハリソン構成『切り裂きジャックの日記』(同朋舎)とB・ベイリー『切り裂きジャックの真相』(原書房)の広告の切り抜きが挟んであった。後者には、コリン・ウィルソン推薦という宣伝文句があり、FBIのプロファイリングの手法で犯人を解明とある。両書とも買わなかったので、手元にない。
 前にも書いたが、2014年9月8日の毎日新聞夕刊には、コズミンスキー犯人説が紹介されている。
 ラッセル・エドワードという14年に渡ってこの事件を調査してきた「リッパロロジスト」が、入手した被害者のショールに付着していた犯人の体液をDNA鑑定した結果、コズミンスキー(記事ではコスミンスキと表記してある)の子孫のものと一致したので、真犯人は彼だと主張しているという。
 100年以上前の体液痕からDNAを抽出することは可能かも知れないが、それが真犯人のものであることの証明は不可能だろうし、犯人と疑われている人物の子孫のDNAはいったいどうやって採取したのかも疑問である。
 おそらくエドワード本の出版後も、議論は収束していないのではないかと思われる。


 2020年9月9日 記

 ※ もう「切り裂きジャック」は打ち止めにしようと思っていたのだが、本棚からB・ローンズの『下宿人』(ハヤカワ・ミステリ)を見つけてしまった。


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