”作家と万年筆展”という一風変わったテーマの展覧会が神奈川近代文学館で開かれている。現在は万年筆を使う人は少なくなってしまったが、かっては、筆記具の王様だった。ぼくらの世代では、高校や大学の入学祝いに、必ずといっていいくらい万年筆をもらったものだ。それが、時代を経るに従い、ボールペンにとって代わられ、さらには、ワープロソフトに主役の座を奪われてしまった。
作家たちも同様な傾向を辿ったようで、万年筆愛好家は激減している。しかし、現在でも愛用している作家も結構いることが、この展覧会の第二部で知ることができた。伊集院静はモンブラン・マイスターシュデユック149を使っている。達筆な原稿と共に展示されている。字の上手な人は万年筆を使いたくなるのでないだろうか(笑)。モンブラン党が多く、それぞれ型は違うけれど、北方謙三、浅田次郎もそうである、。一方、角田光代は、”万年筆博士謹製手作り万年筆”を使っている。オーダーメイドの万年筆があるのを初めて知った。出久根達郎はパーカーだが、毛筆で原稿を書く時もあるらしい。じっくり考えながら、ひとつひとつ言葉を紡ぐにはいいかもしれない。
さて、万年筆全盛時代の作家たちは、どんなものを愛用していたのか。第一部で、著名な作家たちの実際使用していた万年筆とそれを使って書いた原稿がセットで展示されている。漱石は”オノト”で知られる、英国製のデ・ラ・ルー社製の万年筆で、ペン軸のみが残され、展示されている。吉川英治は”新水滸伝”の原稿と共に、ドイツ製のペリカン。吉屋信子は女性らしい意匠の万年筆、米国製シェーファー・レディー。
以下、万年筆製造元ごとに作家を並べてみる。
モンブラン:江戸川乱歩、大仏次郎、立原正秋、井上靖、開高健、早乙女貢
ペリカン:井伏鱒二、掘田善衛、井上ひさし、
パーカー:渋澤龍彦
シェーファー:中里恒子
ウォーターマン(米国):向田邦子
国産手作り万年筆:池波正太郎
と、いった具合で、モンブラン、ペリカンの愛好者が多い。ちなみにぼくはパイロットで時計はセイコー、ビールは麒麟一番搾りです(汗)。
作家の万年筆に対する愛情は尋常ではない。二人の作家の言葉を最後に載せよう。
そりやあ万年筆というのは、男が外へ出て持っている場合、それは男の武器だからねえ。刀のようなものだからねえ(池波正太郎、男の作法より)
こんなに長年月いっしょに同棲すると、かわいくてならない。かわいいというよりは手の指の一本になってしまっている (開高健、生物としての静物より)