20年ほど前のことになるが、佐賀に住む大学の先輩が、友人である人間国宝作家のつくった茶碗やお皿で毎日、食事をしているとうれしそうに語っていた。ずいぶん贅沢なこととうらやましく思ったものだ。ひるがえって自分のことを考えると、身の回りには人間国宝の方の作品はないし、作品展だって、そう多くは観ていない。それが、今回、日本伝統工芸展60回記念として、陶芸・染織・漆芸・金工・木竹工・人形などの工芸家、104名による”人間国宝展”が開催されているという。是非、観に行かねばと思っていた。
それでも、大倉コレクション展、黒田辰秋展と、ここたてつづけに工芸品展を観ている。残すところあと一日という日に入ったので、大変な人出。もっと早く行っとけばとちょっと後悔する。観客も多いけど、出品数も半端じゃない、150点もある。全部が人間国宝作というわけではなく、比較のために、国宝や重文の古美術の名品も並列して展示されているセクションもある。もう、2月23日に閉幕してしまったが、何とか記録に残しておこうと書き始めている。
さすが、人間国宝と、感心する作品ばかりだが、その中のいくつかを紹介することで、感想文にかえたいと思う。図録を買っていないので、写真のないものもある。
第一章 「古典への畏敬と挑戦」
加藤卓男 三彩花器”爽容” 玄関口に重文の奈良三彩壺と並べられていた作品。緑、褐、白の三彩が古くて新しい。(写真なし)
増田三男 金彩銀壺 「山背」
隅谷正峯 太刀 銘 傘笠正峯作之。国宝の刀/金象嵌銘 城和泉守所持 正宗磨上本阿(花押)に並んで、たくさんの太刀があったが、一番、切れ味が良さそうだったノデ(笑)。
上野為二 縮緬地友禅訪問着「歓喜」 鶏が着物から飛び出してきそうな。
磯井如真 蒟醤龍鳳凰文八角香盆 凸版印刷にヒントを得たという点彫り。龍と鳳凰の文様。
芹沢介 小川紙漉村文着物 民芸、沖縄の紅型から学ぶ。
第二章 「現代を生きる工芸を目指して」
今泉今右衛門 色絵吹重ね草花文鉢
松田権六 赤とんぼ蒔絵箱
平田郷陽 抱擁 平田の娘さんとお孫さんがモデル。幸せそうなお母さん。
市橋とし子 桐塑紙貼「風の音」 若い娘さんの浴衣姿の人形
江里佐代子 截金彩色飾筥「花風有韻」
第三章 「広がる伝統の可能性」
鹿児島壽蔵 志賀島幻想箕立事
黒田辰秋 朱漆捩紐文火鉢 そごう美術館で黒田辰秋展をみたばかり。捩紐の大胆な文様の火鉢。
徳田八十吉(三代)耀彩壺「恒河」
佐々木象堂 蠟型鋳銅置物「三禽」
松井康成 練上嘯裂茜手大壺「深山紅」 嘯裂とは表面の亀裂のこと。紅色やピンク色がにじみ出る。
生野祥雲齋 竹華器「怒濤」 これが一番のお気に入りかもしれない。どこからみてもうつくしい。照明の影までうつくしい。写真に撮りたかった。
”特集陳列 人間国宝の現在”が1Fで。ここは撮影可能。
すばらしい工芸作品の数々に堪能した。作家の名前も覚えたので、今後、工芸品展をみる楽しみが増えた。