森山海岸の「賽の河原」を後にして、艫作に着く。ここから再び海岸のほうにクルマを走らせてやってきたのが「不老ふ死温泉」。ちょうど訪れる入浴客で混雑しているようで、係員が出て駐車車両の整理に追われている。
この「不老ふ死温泉」、もちろん普通の大浴場もあるのだがやはりメインは海岸べりの露天風呂である。辺りに海岸が広がり、潮干狩りや釣り客の姿もちらほら見える岩場。その中に忽然として「混浴」「女湯」という二つの露天風呂。
男性は「混浴」に自動的に向かうことになる。実に開けっぴろげな空間で、脱いだものもその辺の駕籠に入れて、ひょうたん形の浴槽へと身を沈める。「黄金崎」という名前にふさわしく、黄金色をした湯である。鉄分か何かがよほど濃いのかな。浴槽周りの岩も茶褐色を帯びている。それにしても、「混浴」と言い条、浴槽をぐるりと見渡すと私のようなオッサン臭い連中ばかりである。何もそういう人と顔を合わせ続けることもなく、浴槽のへりにつかまる格好で海岸のほうを見やる。
今日は実に波も穏やかであるが、満潮時で波の高い時期などはこの浴槽も潮をかぶることがあるそうである。それだけ近いのである。カモメが間近に飛ぶのを眺めることもできる。
適度な温度の湯、潮風を受けるシチュエーション。しばし時を忘れて長風呂になる。さすがにこの湯に「不老不死」の効能があるわけではないが、長時間運転してきたので、この入浴は格好の休息時間となった。
艫作から深浦の町並みにさしかかる。この深浦も古くからの港町で、津軽西海岸の中心地として太宰治の『津軽』にも登場するし、何よりも北前船の寄港地でもあった。太宰治の文学館は割愛するとして、北前船に関する展示のある「風待ち館」に立ち寄る。
単に商品だけではなく、土地土地の習俗や文化までも諸国間に伝播する役割をも果たした北前船。ちょうど天然の入江のある深浦にも文化をもたらしている。「風待ち館」では古くに伝わった伊万里焼や、特大サイズの仏壇などがその代表として紹介されていた。北前船ゆかりの地となるとのぞいてみようという嗜好性が私にはある。
漁港である深浦の町並みを過ぎ、再び荒涼とした海岸線にでる。そんな海に対峙しているのが五能線は驫木駅。小さな木造の駅舎に「驫木駅」という看板。馬三つなどという漢字は、駅名に使用されているものとしては最も画数が多いのではないだろうか。
ホーム1本のがらんとした駅舎。建物は辛うじて雨露をしのぐという程度で、時刻表、運賃表が掲げられている以外、何もない。元々はポスターなどを掲示していたと思われる板も旅人たちの落書きで一杯である。
こういう駅があるとなると不思議と下車したり、私のようにクルマで移動していても立ち寄ってみるというのが人間の面白いところ。今は私のほかには誰もいないが、夕暮れ時に、ホームの古びたベンチに腰掛けて、西の方日本海に沈む夕日を眺めるのも贅沢な時間だろうなと想像する。それが男と女の二人連れならなおさらだ。実際にそうしたのだろう、そんな二人の想い出を書いた落書きもある。今頃どうしているのかな・・・。
浸食により独特の形勝をなす千畳敷にも立ち寄る。五能線の車窓としても広がるスポットであるので知名度も高いところ。大陸から流れ着いたペットボトルなど見つけて写真を撮る。日本海の海辺に行くと、必ず大陸から流れ着いたこの手のものがないかを探す習性がある。たいていはペットボトルか空き缶というものだが。改めて、この向こうには大陸があることを意識する。このあたりの人にとっては存外普通のことなのだろうが。
長かった五能線沿線のドライブ。深浦町から鯵ヶ沢町に入る。昨日借りたレンタカー、この鯵ヶ沢で返却となる。駅レンタカーの取扱駅の関係からこの鯵ヶ沢がゴール地点。
五能線の次の列車まで時間があるので、海の駅「わんど」の中にある「鯵ヶ沢相撲館」に行く。鯵ヶ沢は昔から相撲の盛んなところで、郷土のスターといえばご存知舞の海(元小結)である。この舞の海を中心として相撲に関する紹介をしたのがこの相撲館。館内にはミニチュアながら土俵もこしらえられている。
この鯵ヶ沢もそうだが、先ほど通ってきた深浦町などは、現役関取を見ても安美錦、安壮富士の兄弟、海鵬、将司と「一つの市町村」で見れば最多の人数を誇る。また外国人力士が目立つ昨今の大相撲であるが、日本人の出身地別で見ると、関取に名を連ねているのは青森県勢が最多である。それだけ相撲の盛んな土地ということだろう。
より熱心なファンの方ならいろんな見方をされると思うが、個人的には青森県出身の力士は「粘りが身上」という気がする。古くに初代(2代目も)若乃花、そして先代の貴ノ花、隆の里、旭富士という横綱・大関もそうだが、貴ノ浪もフトコロの深さで土俵際粘るし、先ほど出た安美錦や海鵬はワザ師、そしてその元祖の舞の海、あ、高見盛も津軽出身だな・・・。プロ野球選手にも「人国記」があるように、力士にも出身地による性格や相撲の違いがあるような気がする。
ビデオでは舞の海対小錦、曙などの取り組みが流されている。今にして思えばよくあんな体格のハンデ差の中を戦ったものだ。体格だけでいえば舞の海って、オレよりもやせているぞ・・・!?
しばし鯵ヶ沢の町を歩いた後、次の五能線に乗る。そう、この列車は「リゾートしらかみ」5号。先ほど「リゾートしらかみが軒並み満席だったので」クルマで移動したということを書いたが、さすがに最終便の5号、それも海の眺めが終わった便ともなるとようやく何とか指定席を確保することができた。やってきたのは3月のダイヤ改正で登場したばかりの「くまげら」編成。最後尾のハイデッキの展望ラウンジから流れ行く景色を眺める。
五所川原着。この列車は弘前まで行くが、今日はこの五所川原で泊まる。弘前まで行ってもホテルが軒並み満室なもので・・・・(続く)。