プロ野球独立リーグ観戦紀行の続き。
金沢駅から「まちバス」に揺られてやってきたのは、金沢で注目を集めているスポット、「金沢21世紀美術館」。外側が全面ガラス張りの、明るい感じの美術館である。
美術館といえばどうも「敷居が高い」ようなイメージがあり、また現代アートとなると「何が言いたいのかようわからん」という分野である。それでも、この開放感あふれる建物と、市民参画型の美術館を目指したところから市民だけではなく観光客にも人気のスポットとなったという。
この時は「未完の横尾忠則~君のものは僕のもの、僕のものは僕のもの」という企画展(何だか、のび太に対するジャイアンの論法やな)が行われていた。ポスターやデザインなどで横尾作品を見たことはあったように思うが、こうして美術館で開かれている展覧会を見るのは初めて。
見物客はどちらかといえば若い層や女性のグループが多い。まあ、横尾忠則のファンというよりは、おしゃれな街・金沢めぐりのコースの一つとしてここを訪れているような感じである。
作品は1960年代のものから最新のものまでありとあらゆるジャンルのものが揃っており、この人の幅の広さというのをうかがうことができる。横尾の頭文字「Y」から「Y字路」をテーマとしたいくつかの作品群や、夢の中の想像の世界を奔放に描いた作品など。また、多くの著名人を肖像画風に描いた「奇縁まんだら」や、19世紀のフランスの画家、アンリ・ルソーの作品のパロディである「ルソー」シリーズ、世界各国の滝の写真や絵葉書を室内一面に貼り付けた「滝のインスタレーション」など、見るものをうならせたり、時には笑わせたりする。
独特の作風を写真に収めることはできなかったが、図録を買い求めて「横尾ワールド」への入門編とする。
さらにもう一つの企画展が「愛についての100の物語」とある。こちらはさまざまなオブジェを並べたり、映像や効果音を駆使したりという現代アートの作品が並んでいたが、先の横尾忠則と比べても「だからどうなんや」と言いたくなるものが多い。最近では現代アートの世界の解説書も出ているようだが、そういうのを読んでいない私にとってはやはりモヤっとしたものを感じることになった。
その中で、若い人たちは子ども連れにも人気だったのが、館内の中央部に位置している「スイミング・プール」。
こういう世界が演出されている。まずはプールの上から底をのぞき込んだところ。
続いてが、プールの底から上を見上げたところ。エルレッヒというアーチストのこの作品は、要は強化ガラスに水を張り、あたかも水上と水中の世界を創りだしたかのような出来上がりになっている。こうするとプールの上と下でお互いをのぞいて見たり、友達同士だと手を振り合ったりしている。作品の意図するところが人と人との出会いというが、なるほどと思う。
作品の世界への理解度はともかくとして、建築物としてのコンセプトは面白かった。「21世紀」の名前にも負けてはいないだろう。よく、こういう「ハコモノ」には批判が起こりがちであるが、その建築物が意図したところの役割をきちんと果たし、新たな街の一面を見せてくれるということが確証できるのなら、文化事業として大いにやればいいと思うのだが、どうだろうか。
さて、2時間あまりの鑑賞の後、金沢市民球場方面へ向かうバスの時間までまだ時間があるので、香林坊まで歩く。ちょうど総選挙前日の最後の選挙活動日、大通りには複数の立候補者の選挙カーが走り回り、大声で候補への指示を呼びかけていた。
しかしそこから数百m歩くと、その喧騒もどこかに去ってしまう。やって来たのは、長町の武家屋敷通り。屋敷群というよりは用水路に面した外塀の風情が楽しみである。21世紀の美術館と、江戸時代の屋敷群の対象の妙に感心する。いや、金沢の風情はよろしいな。
その一角にある野村家跡に昔の面影を残すというので訪ねてみる。武家屋敷というと豪華な、広い造りをイメージするが、金沢の市街地には大きな武家屋敷はほとんど残されていない。「加賀百万石」とはいうものの明治大正となれば武家制度の解体と、窮乏に苦しんだ結果土地は分割(売却)され、往時の風情を伝えるのが門と土塀くらいということになった。この野村家跡も、京の町屋風情の母屋、庭などが目に付く。
そろそろバスの時間も近づいてきたので、武家屋敷を後にしてまた喧騒の香林坊に戻る。その夜はナイター観戦で、夜の北陸一の繁華街の風情を楽しむことはできないが、こちらは季節を変えてもまた訪ねてみた街である。
この夜の試合は18時開始、21時10分に終了。ヒーローインタビューや選手の「お見送り」の後、臨時のバスで市街地に戻り、金沢駅に着いたのが22時。駅から3分の「マンテンホテル」に泊まり、半露天の大風呂で一日の疲れを落としたのだった・・・。(続く)