まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

ピエロに涙は禁物さ

2008-10-27 | フランス、ベルギー映画
 「ピエロの赤い鼻」
 「殺意の夏」や「クリクリのいた夏」などの名匠ジャン・ベッケル監督作品。
 教師のジャックは、毎週日曜日にピエロになって人々を笑わせている。その道化ぶりを嫌う彼の息子に、ジャックがピエロになる理由をジャックの旧友アンドレが話して聞かせる。それは、ナチスドイツ占領下で起きた悲しくも美しい出来事だった...
 戦争の悲劇を、ほのぼのしたユーモアで包んで描いた佳作でした。冒頭のセバスチャン・ジャプリゾの『笑いこそ最強の武器である』という言葉が、とても重く深く心に沁みる内容です。
 笑いって、ほんと偉大ですよね。絶体絶命、死の淵に落とされたジャックたち4人にとって、まさに希望の光となって彼らを救う笑いが、とても感動的でした。笑い、といっても、最近の日本のバラエティ番組のお笑いタレントのような、他人をバカにしたり虐めたりして、弱いものを嘲笑する卑劣で下等な類ではなく、他人の悲しみや苦しみを一時でも忘れさせ拭ってあげようとする、優しさと思いやりに満ちた笑い。それは、人一倍痛みと悲しみを知り、人一倍強くないとできないのかもしれない、と映画を観ながら思いました。ピエロが、どこか悲しげに見える理由が、何となく分かった気がします。
 泣け!さあ泣け!的お涙ちょうだいよりも、生きる希望を与える優しくて温かな笑いのほうが、私は好きだし感動できます。人を悲しませて泣かせるのは簡単だけど、幸せに笑ってもらうのは難しい...
 
 ジャックとアンドレが、おっさんなのにイタズラっ子みたいなキャラなのが、愉快で笑えます。駅爆破も、レジスタンスというよりイタズラみたいだし。そのイタズラが、とんでもない悲劇を招くんだけど。捕まって穴倉に落とされて、明日は死刑!の身の上になるジャックたちの姿も、喜劇調なのが出色です。クスっと笑わされつつ、彼らを絶望から救う元ピエロのドイツ兵と、彼らのせいで重症を負いながらも爆破は自分がやったと嘘の自供をする駅員のお爺さんに、涙も誘われます。二人に、命よりも大事なもの、人間が失ってはいけないものを教えられます。
 ジャック役は、「奇人たちの晩餐会」や「クリクリのいた夏」の名優、故ジャック・ヴィルレ。チビ・デブ・ハゲ、フツーなら三重苦なのに、見事にコメディ俳優としての武器にしてしまっていたヴィルレおぢさん。今回は、奇人やクリクリほど大ボケじゃなく、珍しく常識人な役。でも、やっぱ笑えます。
 
 アンドレ役のアンドレ・デュソリエも、おちゃめで心温まる好演。巻き添えでジャックとアンドレと一緒に穴に落とされる男ふたりを、ティエリー・レルミットとブノワ・マジメルが演じてます。レルミット氏とヴィルレおぢさんといえば、「奇人たちの晩餐会」コンビじゃん!二人の掛け合いが、やっぱ笑えます。ブノワは、まだ少年っぽさが残ってた頃?ベテランおっさん男優3人に囲まれた彼は、さすがに若い、ていうか、幼い。でかい子供みたい。レルミット氏にはすぐキレて喧嘩腰だけど、ヴィルレおじさんには優しく従順な、怒りん坊で甘えん坊な男の子ブノワが、可愛くて笑えます。
 あと、駅員のお爺さんの奥さん役、名女優の故シュザンヌ・フロンも印象的です。いちばん可哀想なのは、あの奥さんかも...
 ラストに流れる陽気な歌が、明るい希望と夢に満ちていて感動的です。つまんないことでウジウジせず、生きていれば希望がある!と信じてみよう、と勇気づけられました。
 
 
 
 
コメント (6)
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