ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

事件の詳細

2009年01月23日 | ひとりごと
21日の夜に、息子Tから聞いたまんまの話を載せたままになっていたので、その後CNNの報道から分かったことを追加します。


『中国の女性留学生を刺殺、同胞の大学院生逮捕 バージニア州』

バージニア州にあるバージニア工科大当局者は22日、中国から留学中の女性大学院生(22)が21日夜、大学内のレストランで中国の男子大学院生(25)にナイフで襲われ、死亡したと述べた。

地元署は容疑者を逮捕した。犯行の動機は不明。目撃者によると、知り合いともされる2人が言い争っていたなどの事実はなかったという。いきなりナイフで襲い掛かった可能性がある。

同大では2007年4月16日、韓国出身の男子学生が銃を乱射、計32人を殺害し、自らも自殺する惨事があった。今回の刺殺事件はそれ以降、キャンパス上で起きた初の殺人となった。


あの惨劇の前日、わたしは50才になった誕生日を祝ってもらっていました。
友人や旦那の両親、それから姉一家もお祝いにやって来てくれた中、息子Tだけが居ないのが少し寂しかったわたしでした。
その日は大雨警報が発令されていて、あちこちで洪水が発生し始めていたにもかかわらず、大勢に祝ってもらった幸せをしみじみと感謝しました。
町で1番美味しい(とわたし達は思っている)日本レストランから、おまけ付きのお寿司を取り寄せ、友人の歌手に歌をリクエストし、いろいろとパーティのアレンジをしてくれた旦那にも感謝しました。
歌手のスポウドはイギリス人。とても大変そうだけど、ずっとミュージシャンで通しているシンガーソングライターです。
その日は、丁度できたてホヤホヤの、雨の日にぴったりの、そしてとても温かな詩を歌ってくれました。今もそれはわたしのテーマソングです。

そんな、とても印象に残る幸せな1日を終え、翌日キッチンで朝ご飯の片付けをしていると、
「まうみ、ちょっと、TVつけて!」という、旦那姉のとても緊張した声が受話器の向こうから聞こえてきました。
何事かと思ってTVを急いでつけると……とんでもない事件の報道が目に耳に飛び込んできました。
画面には、見慣れた校舎や寮が映っていました。それになぜだか、4月中旬だというのに雪が降っていました。
それを見て、あれ?これは何ヶ月か前の映像じゃないの?なんて思ったりしました。
でも、それは昔の映像なんかじゃなくて、2007年4月16日その日の、とても信じられない事件を報道する映像でした。
慌ててTに電話しました。
「もしもし、あんた、今どこ?」
「え、寮の部屋」
「大丈夫?」
「うん。けど、警備か警察か分からんけど、えらい勢いで寮に戻されて、それからいきなり部屋から出るなって言われてるから、トイレにも行けへん」
「何が起こったか知ってんの?」
「知ってる。東洋人の学生が銃で何人か殺したらしい。エンジニア科の教室で」
「あんた、そこにはおらんかったんやろ?」
「今朝のクラスはそこと違た」
そこまで聞いて、ようやく胸の動悸が少しおさまりました。
「あれ?なんか窓の近くでライフル構えてる人居るわ」
「なに言うてんの!あんた、部屋のどこで居るん?窓から離れなさい!どこでもええから死角になるとこで居なさい!」
Tの部屋は寮の1階で、初めの事件があった寮の隣りなのでした。
その時はまだ、犯人の学生がどこで何をしているのかさっぱり分からず、画面からは乾いた銃声がパンパンと聞こえたりしていました。
完全にパニック状態になったわたしに代わり、旦那が冷静な声でTにいろいろと話しかけていました。

犯人が韓国人学生だということが分かり、名前がTのルームメイトと同じだったこともあり、一瞬声も出ないほど驚きましたが、
Tは、同じ東洋人学生として、こんな事件を引き起こした後の、周りの目が気になると心配し始めていました。
わたしは、「そんなことを心配する必要なんか無いよ。あんたが居るのはどこやと思てんの、アメリカやで」と断言しながら、心細くなっているTの気持ちを思うと胸が苦しくなりました。
事件の詳細が報道されるのとほぼ同時に、『この件がもとで、民族的差別や非難が発生しないよう、大学、学生は全力を尽くして対処する』という声明が出されました。
その声明を受けて、大学がある町の住人総出の支援が始まりました。
この国は若いけれども、大人が大人である、という気がしてなりません。間違いも犯すけれど、そういう時も大人が大人であると、物事がおかしな方向に進んでいかないような気がします。まあ、一部の政治や軍に属している大人には当てはまりませんが……。

日本の新聞社はこぞって日本人学生を探し出し、Tにも取材の申し込みが殺到し、何社かの記事には載りました。
わたし達には「ほぅ」とか「まあ別に」とか、およそ大学生とは思えないようなことしか返してこないのに、しっかりと意見を述べているのを読んで、こんなに外面がええのやったら心配ないか、などと思ったりもしました。

事件後の、まだ傷跡がくっきりと残り、被害者の家族や友人達が抱き合い、慰霊の石が丸く置かれたキャンパスの重く悲しい空気を思い出しました。

どんな事があっても、どんな思いでいても、人が人の命を絶ってはいけない。
実際に、何回か、絶ちかけてしまったわたしからの、心の底の底からのお願いです。

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録音でも生でも

2009年01月23日 | 音楽とわたし


【ワシントン=鵜飼啓】オバマ米大統領の就任式に集まった約200万人が耳にしたチェロ奏者ヨーヨー・マさんらによる演奏が実は録音だった、と米紙ニューヨーク・タイムズが23日、報じた。
マさんらは現場で演奏したが、会場のスピーカーには録音分が流された。

就任式典の上下両院共同委員会の報道官が同紙に対し認めた。当日の気温は零下で楽器の調律がうまくいかず、ひびが入ったり、弦が壊れたりする可能性があったという。
録音は式典2日前に収録したもので、バイオリン奏者のパールマンさんは「最後の手段だった。かんぺきが求められる式典で、間違いがあってはならなかった」と語った。


あの日、ヨーヨー・マ氏の奏でる最初の音色が流れた時、どうしてこんな零下の外気温のもとであんな豊かな響きが奏でられるんだろうと、とても驚きながら聞いていました。
よほど性能のいいスピーカーを完璧な場所に取り付けているのだとしても、それなら風などの雑音もきっと紛れ込み易いのにと、不思議にも思いました。
そしてなによりも音程の問題を、彼らはいったいどのようにして解決しているのか、クラリネット吹きのわたしとしては更に興味深いものがありました。

弦楽器も管楽器も、演奏場所の空気の質、温度、流れにとても敏感です。
そしてその楽器ごとに性格や適応性も違うので、オーケストラやブラスバンドのように人数が多いのならともかく、
彼らのように、たった4人の、しかもそれぞれが全く違う音色を持った楽器を演奏するとなると、かなり条件の整った空間でないと、とてもじゃないけど良い演奏にはなりません。たとえ彼らが世界的に優れた演奏者であってもです。

だから、パールマン氏のおっしゃった『最後の手段』という言葉には、心から賛成します。
あの時流れた音色と演奏は、たとえそれが数日前に行われた録音によるものであったとしても、
あの、世界にとっても特別な日を祝うものとして、多くの人々の胸に深くしみ通った素晴らしいものであったと思います。
そして、一部の者ではあるけれど、楽器を演奏する人間なら誰しも、彼らの選択は全く間違っていなかったと断言すると思います。

お願いだから、北京オリンピックの、少女の心を踏みにじるような結果になった口パクや、タレントなどの口パクなどと同じように考えないで欲しいです。
コメント (6)
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