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ハワード・ホークス監督『永遠(とわ)の戦場』&『今日限りの命』その3

2019-11-06 07:31:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

『今日限りの命』についても━━。

(……)ホークスがフォークナーを使いたかったのも、[若いころカナダのイギリス空軍に入隊して飛行機操縦の訓練を受け、イギリス人の英語の発音にも馴れ親しんだ]フォークナーならイギリス人の話し方を納得のいくように書けると思っていたからだ。フォークナーは“言われるまま”この仕事にあたり、言葉の音を切り詰めた。音が一つ一つとぎれるようなイギリス風会話で台本全部を書いてのけた。この台本のほとんどはアメリカ人の役者によって演じられたのである。『今日限りの命』が1933年に封切られた時、この息もつかせない会話は多くの批評家たちを面白がらせた。

 と述べている。だが、この冷静な解説からも、メロドラマをハードボイルド・タッチで描こうとしたハワード・ホークス監督の意図が読み取れる。「イギリス風会話」を駆使する「アメリカ人の役者」はニューヨークのアクターズ・スタジオの前身であるシアター・ギルド出身の新鋭、フランチョット・トーンをはじめ(といっても主役ではないのだが、すばらしい存在感だ)、その親友役のロバート・ヤング、そしてフランチョット・トーンの妹になるヒロインのジョーン・クロフォードである。因みに(中略)映画のなかでは、ジョーン・クロフォードの最初の夫になるのはロバート・ヤングで、最後は「アメリカから来た青年」、ゲーリー・クーパーと結ばれる。
 ヒロインをめぐって三人の男が愛と友情を証明するために競い合う。水雷艇に乗り組んで敵艦を撃沈すべく荒浪を切って進み、プロペラ機に乗りこんで敵の陣地を爆撃する男たちの特攻作戦は、『ハタリ!』(1962)の猛獣狩りを想起させる。西部の無法の殺し屋軍団を相手にたたかう『リオ・ブラボー』の捨て身の友情集団をも想起させるが、よりシリアスで悲劇的だ。そのぶんだけホークス的な男の友情が恥ずかしいくらいセンチメンタルに(と言っていいくらいに)あからさまに表現される。
 盲目になったロバート・ヤングは愛する妻のジョーン・クロフォードの足手まといにならないために━━いや、妻がほかの男(ゲーリー・クーパー)を愛していることを知っているために━━彼女への愛をあきらめようとする。彼女を愛したことはないと親友の、そして妻の兄の、フランチョット・トーンに打ち明けるシーンがある。もちろん、フランチョット・トーンはロバート・ヤングが妹をずっと愛しつづけてきたことを知っている。フランチョット・トーンとともに、私たちもまた、こらえきれずに涙をぬぐう感動的なシーンだ。このあと、親友同士は魚雷艇で死に向かって進む。フランチョット・トーンの肩にやさしく手をかけた盲目のロバート・ヤングの顔には悔いのない笑みが浮かぶ。魚雷艇のふたりは体当たりして敵艦を撃沈させたあと吹き飛ぶ。
 ジョーン・クロフォードは、エイドリアン(ガルボのデザイナーとしても知られている)がデザインした派手な衣装を次々に着て登場するのだが、じつは従軍看護婦になって軍服を着る姿が最もよく似合う。怒り肩のジョーン・クロフォードのたくましい骨格を強調しつつ、ハワード・ホークスはヒロインをも男の友情集団のひとりとして描いているかのようである。
「センチメンタルになりすぎた失敗作」とホークス監督は『今日限りの命』を自ら素気なく断罪するのだが、最もメロドラマ的シーンに、ホークスはただまともに涙を流すことを意図的に避けているにちがいない。ヒロインが本当に「泣く」ところはたとえばこんなふうに━━映画的に━━表現される。外はどしゃ降りの雨で、窓ガラスをはげしく雨が打ち、しずくが流れるようにしたたり落ちる。その雨のかげが窓ぎわに立つヒロインの頬に映り、まるで彼女が涙を流しているような印象を与えるのである。のちに、ダグラス・サーク監督の『いつも明日がある』(1955)やリチャード・ブルックス監督の『冷血』(1967)にも踏襲されることになる巧まざる名場面である。

 以上が山田宏一さんの文章です。私は今から10年前に『永遠の戦場』の評を書き、「暗い場面ばかり」の一言で切って捨てていましたが、今回映画を観直してみて、いかに「ホークス映画」を理解できていなかったのかがよく分かりました。『今日限りの命』も素晴らしかったのですが、『永遠の戦場』は、暗闇の中でヒロインの目だけが涙で光るところを撮ったグレッグ・トーランドの撮影や、迫力ある戦闘シーン(敵の撃つ大砲によって起こる爆風と土煙と敵のマシンガンが狙い撃つ中を突撃していくシーンや、それでも前進、前進を続け、敵のトーチカに手榴弾を投げ込んで敵を皆殺しにするシーンなど)があったことも記しておきたいと思います。
『永遠の戦場』は文句無しに傑作だと思います。どこかで上映する機会がありましたら、映画ファンの方なら見逃すことなく、絶対に観ることをお勧めします!!

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto