昨日の続きです。
「ラヴ・ミー・テンダー」の原曲が『大自然の凱歌』の主題歌「オーラ・リー」で、そもそもはアメリカ南北戦争のはじまった年、1861年に、ジョー・R・プールトンによって作曲された北軍の軍歌の一つだということなのだが、うっとりするような、甘く、やさしく、せつない、抒情的なメロディーで、映画のクレジットタイトルが終わり、ドラマがはじまって、酒場女のフランシス・ファーマーが、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品の美神(ヒロイン)、マレーネ・ディートリッヒを想起させずにはおかない投げやりな、ふてくされた、「男なんて、なにさ」といった身振り風情もなまめかしく、やわらかでセクシーなハスキー・ヴォイスで「オーラ・リー」を歌うときには、ほとんど絶好調という感じなのである。ほとんど絶好調、と書いたのは、まだ、そのあと、呆気にとられてしまうほど豪放で、めちゃくちゃな、男も女も円盤投げよろしくお盆を投げて大暴れする痛快無比の酒場の乱闘シーンがつづいて一つのクライマックスに達するからなのだが、じつはそこにたどりつくまでが、わずか二十分ほどとはいえ、すでに心おどるシーンの連続であり、冒頭の雪に埋れた大森林で木材を切り出すシーンなど、巨木が切り倒され、木材が木場に集積され、川一面に張った氷が発破で散らされ、木材が流されて製材工場に送られるという純粋に記録映画的な映像のつらなりにしかすぎないにもかかわらず、そのダイナミックな迫力に思わず息を呑んでしまう。雪崩(ながれ)のように丸太が次々に急な傾斜を滑って川に突っ込み、波しぶきを上げるたびに、そのあらあらしい攻撃的な画面に圧倒される。無数の木材がまるで銃声におどろいて次々にはばたき、飛び立つ鳥たちの群舞する光景のようだ。伐採、集材、運材のシーンの演出にはB班のリチャード・ロッスンの名前がクレジットされているが、ここは明らかに『ハタリ!』(1962)の猛獣狩りのシーンを予告する豪快なハワード・ホークス・タッチなのである。
もう何度か前半のホークス篇を見たが、何度見ても、心がさわぐ。男のやさしさにほだされ、その野望に翻弄されて裏切られる女の悲しさがあの印象的な額やあごにしみついたようなフランシス・ファーマーの悲劇的な美しさを見るだけでも、胸をうたれる。二本の指を立てて、ちょっと上目づかいに挨拶するという、そのマレーネ・ディートリッヒ的なしぐさは『脱出』のローレン・バコールにも受け継がれていくのだが、実際、ハワード・ホークスはジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の映画でマレーネ・ディートリッヒが演じたヒロイン、とくに『モロッコ』(1930)のアミー・ジョリーと『上海特急』(1932)のシャンハイ・リリーが大好きで、彼の映画のヒロインのモデルにしたということである。男に対して無礼で横柄で生意気にふるまうことがそのまま女らしさ━━「ディートリッヒのABC」(福住治夫訳、フィルムアート社)によれば「男性がひきこまれていくかけがえのない磁場」━━になるという、マレーネ・ディートリッヒぶりを最も見事に体現したホークス的ヒロインの白眉とも言える典型をそこに見出すことの歓びだけでも、この映画は永遠にわが心の一本になることだろう。
以上が山田宏一さんが『大自然の凱歌』のために書いた文章です。
これ以上あらすじを私がここで書いたところで、しょうがないと思うので(というか、場が白けてしまうのが火を見るよりも明らかなので)『大自然の凱歌』についての紹介文は山田宏一さんの文章をそのままお借りして終わろうと思います。ちなみに山田宏一さんはビデオで何回も見たと書かれていますが、現在ではなんとアマゾンでDVDが7円(!)で売られています。(配送料は別。)私は現在59歳ですが、大学時代にはホークスどころか、ヒッチコックの映画さえ実際には見ることができず、本を読んで想像するしかなかったのです。現在がいかに恵まれているか、おそらく今の若い方々には想像もつかないのではないでしょうか。
そして今回、渋谷のシネマヴェーラで行われた「ハワード・ホークス監督特集Ⅱ」(4.20━5.21)のおかげで、私は新たに未見だったホークス作品を8本見ることができました。そしてハワード・ホークスもアルフレッド・ニューマンの作曲とタッグを組むことが多かったことを知りました。(ちなみにこの『大自然の凱歌』も音楽はアルフレッド・ニューマンです。)渋谷のシネマヴェーラは全国のシネマテーク的小劇場とも連携していて、その数は全部で25館もあります。東京近郊に住んでいらっしゃらない方もお近くの小劇場で近い将来ホークスの映画を見ることができるかもしれません。その時が来たら「のがさず手に取れ!(Come and get it)」です。(ちなみに『大自然の凱歌』の原題が「Come and get it」です。)
→サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
→FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135)
「ラヴ・ミー・テンダー」の原曲が『大自然の凱歌』の主題歌「オーラ・リー」で、そもそもはアメリカ南北戦争のはじまった年、1861年に、ジョー・R・プールトンによって作曲された北軍の軍歌の一つだということなのだが、うっとりするような、甘く、やさしく、せつない、抒情的なメロディーで、映画のクレジットタイトルが終わり、ドラマがはじまって、酒場女のフランシス・ファーマーが、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品の美神(ヒロイン)、マレーネ・ディートリッヒを想起させずにはおかない投げやりな、ふてくされた、「男なんて、なにさ」といった身振り風情もなまめかしく、やわらかでセクシーなハスキー・ヴォイスで「オーラ・リー」を歌うときには、ほとんど絶好調という感じなのである。ほとんど絶好調、と書いたのは、まだ、そのあと、呆気にとられてしまうほど豪放で、めちゃくちゃな、男も女も円盤投げよろしくお盆を投げて大暴れする痛快無比の酒場の乱闘シーンがつづいて一つのクライマックスに達するからなのだが、じつはそこにたどりつくまでが、わずか二十分ほどとはいえ、すでに心おどるシーンの連続であり、冒頭の雪に埋れた大森林で木材を切り出すシーンなど、巨木が切り倒され、木材が木場に集積され、川一面に張った氷が発破で散らされ、木材が流されて製材工場に送られるという純粋に記録映画的な映像のつらなりにしかすぎないにもかかわらず、そのダイナミックな迫力に思わず息を呑んでしまう。雪崩(ながれ)のように丸太が次々に急な傾斜を滑って川に突っ込み、波しぶきを上げるたびに、そのあらあらしい攻撃的な画面に圧倒される。無数の木材がまるで銃声におどろいて次々にはばたき、飛び立つ鳥たちの群舞する光景のようだ。伐採、集材、運材のシーンの演出にはB班のリチャード・ロッスンの名前がクレジットされているが、ここは明らかに『ハタリ!』(1962)の猛獣狩りのシーンを予告する豪快なハワード・ホークス・タッチなのである。
もう何度か前半のホークス篇を見たが、何度見ても、心がさわぐ。男のやさしさにほだされ、その野望に翻弄されて裏切られる女の悲しさがあの印象的な額やあごにしみついたようなフランシス・ファーマーの悲劇的な美しさを見るだけでも、胸をうたれる。二本の指を立てて、ちょっと上目づかいに挨拶するという、そのマレーネ・ディートリッヒ的なしぐさは『脱出』のローレン・バコールにも受け継がれていくのだが、実際、ハワード・ホークスはジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の映画でマレーネ・ディートリッヒが演じたヒロイン、とくに『モロッコ』(1930)のアミー・ジョリーと『上海特急』(1932)のシャンハイ・リリーが大好きで、彼の映画のヒロインのモデルにしたということである。男に対して無礼で横柄で生意気にふるまうことがそのまま女らしさ━━「ディートリッヒのABC」(福住治夫訳、フィルムアート社)によれば「男性がひきこまれていくかけがえのない磁場」━━になるという、マレーネ・ディートリッヒぶりを最も見事に体現したホークス的ヒロインの白眉とも言える典型をそこに見出すことの歓びだけでも、この映画は永遠にわが心の一本になることだろう。
以上が山田宏一さんが『大自然の凱歌』のために書いた文章です。
これ以上あらすじを私がここで書いたところで、しょうがないと思うので(というか、場が白けてしまうのが火を見るよりも明らかなので)『大自然の凱歌』についての紹介文は山田宏一さんの文章をそのままお借りして終わろうと思います。ちなみに山田宏一さんはビデオで何回も見たと書かれていますが、現在ではなんとアマゾンでDVDが7円(!)で売られています。(配送料は別。)私は現在59歳ですが、大学時代にはホークスどころか、ヒッチコックの映画さえ実際には見ることができず、本を読んで想像するしかなかったのです。現在がいかに恵まれているか、おそらく今の若い方々には想像もつかないのではないでしょうか。
そして今回、渋谷のシネマヴェーラで行われた「ハワード・ホークス監督特集Ⅱ」(4.20━5.21)のおかげで、私は新たに未見だったホークス作品を8本見ることができました。そしてハワード・ホークスもアルフレッド・ニューマンの作曲とタッグを組むことが多かったことを知りました。(ちなみにこの『大自然の凱歌』も音楽はアルフレッド・ニューマンです。)渋谷のシネマヴェーラは全国のシネマテーク的小劇場とも連携していて、その数は全部で25館もあります。東京近郊に住んでいらっしゃらない方もお近くの小劇場で近い将来ホークスの映画を見ることができるかもしれません。その時が来たら「のがさず手に取れ!(Come and get it)」です。(ちなみに『大自然の凱歌』の原題が「Come and get it」です。)
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