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ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その4

2020-08-24 08:58:00 | ノンジャンル
 また一昨日の続きです。

(中略)彼女はその年月の二倍分も年をとっている。金髪はスカーフの下に半分おおわれているが、麦わらのようにつやがない。曲線を描いていた体は真っすぐになり、いまや口元にもひたいにも目の端にもしわが刻まれ、肌には染みや見慣れないホクロができている。
 それでもボリスはその場にひざまずく。彼女は以前にも増して美しい。(中略)

第七章 ミューズ 矯正収容された女 使者
 幾度、彼との再会を思い描いたことだろう?(中略)
 ポチマから戻ったあとのわたしは、遠慮なく、罪悪感もなく、彼の幸運の分け前を要求した━━服、本、食べ物、子どもたちの学用品、新しいベッドを買うお金などを。
 ボリスは執筆に関するあらゆる業務━━契約、講演会、翻訳作品への支払い関連を、わたしに一任した。(中略)

 その夏、わたしは彼のもっと近くにいたいと、イスマルコヴォ湖の向こう側、彼の家から歩いて三十分のところに家を借りた。(中略)

 夏が終わるまでに、学校へ戻るため子どもたちはモスクワに帰らなければならないので、そのときにはわたしまで帰ってしまうのではないかとボーリャは心配した。(中略)

 子どもたちは帰り、わたしは秋の終わりまでそのガラスの家に住んだ。(中略)
 その冬は、わたしが闇のなかですごした日々とはあまりにもかけ離れていた。友人たちがやってきたし、『ドクトル・ジバゴ』の朗読会が再開された。(中略)

 小説はほとんど完成していた。(中略)

 わたしの目に涙があふれてきた。「彼が死んだ?」
「終わった。わたしの小説は完成した」
 わたしはその原稿を編集し、タイプし直し、革表紙で装丁するように手配した。そして、モスクワへ行って印刷業者から三部受け取り、その箱を持ってまた列車に乗った。膝にのせたボーリャの言葉の重みを感じながら。(中略)
「わたしたち、見張られている気がするの」わたしはボーリャに言った。
「そうだね」彼はあっさりそう言った。(中略)

西 1957年2月~秋
第八章 応募者 運び屋 
(中略)
 その夜、わたしはもはやイリーナではなかった。ナンシーだった。(中略)

わたしはタイピストに応募して、別の仕事をもらった。(中略)その夜、何かがわたしのなかで解き放たれた。それまで自分にあることも知らなかった秘密の力が。自分が運び屋の仕事に適任であることに気づいたのだった。(中略)
 勤務時間後の仕事のほうが、覚えるのに手こずった。
 初めてその仕事にかかる日、どんなふうに訓練を受けるのかと尋ねると、リフレクティング・プールに面した標示のない臨時オフィスの住所が書いてある一枚の紙を渡された。そのオフィスで、わたしは毎日、退勤後にテディ・ヘルムズ幹部職員と会うことになっていた。(中略)そして、わたしは練習に励んだ。(中略)わたしが小さく巻いた紙片を空っぽの口紅容器からテディの上着のポケットに滑りこませてみせると、きみはもう本物のテストを受けられる準備が整ったようだと彼は言った。
「本当に?」
「確かめる方法はひとつだ」

(中略)
 テディは〈マーティンの店〉に入るとき、わたしの手を取った。(中略)(そこでイリーナはテディをタイプ課のみんなに紹介して回った。)

第九章 タイピストたち
 (中略)
スプートニク打ち上げの知らせがソ連部に伝わったのは、世界初の人工衛星が宇宙に到達し、96分ごとに地球のまわりを一周しながら、地上950キロほどのところを飛んでいると、ソ連の国営通信社タスが発表するより早かった。(中略)
十月がすぎた。(中略)
 十一月は、衝撃音とともに、というよりも爆発音とともにやってきた。ソ連がスプートニク2号を打ち上げたのだ。今度はライカという名前の犬を乗せて。(中略)
 CIA内のピリピリした雰囲気は増していき、わたしたちは男たちの定時後の会議のために残業を求められた。(中略)
 彼らには人工衛星があったが、わたしたちには彼らの本があった。当時、わたしたちは本が武器になりうると(中略)信じていた。(中略)
 というわけで、観測気球、偽の表紙、出版社、文芸誌が利用され、さまざまな本が秘かにソ連に運びこまれた。
 そのあと、ジバゴが登場する。(中略)

東 1956年
第十章 代理人
(中略)
 セルジオはまだそのようなヒット小説を見つけてはいなかったが、前の週に自分の机で目にしたニュース速報に、期待できそうな一文があった。「ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』の出版迫る。日記形式などで書かれた同小説は、半世紀あまりの長い時間を描き、第二次世界大戦で幕を閉じる」と。(中略)

(また明日へ続きます……)
(中略)

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