常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

海辺のカフカ

2018年01月03日 | 読書


昨日から『海辺のカフカ』と『細雪』の併読。小賢しい二つの小説のテンポの調和など、必要がなかったことが分かった。最初のうちこそ、そのテンポの違いを楽しんでいたが、『細雪』を50ページほど読み、妙子の恋がはっきりと形を取り始めるころ、『海辺のカフカ』から目が離せなくなった。一度読んだはずなのに、この小説のなかに、少年田村カフカと、小学校で原因不明の記憶喪失して猫と話ができるナカタさんのテンポの違う二つの物語が並行して進められる構造であることすら忘れしまっている。ナカタさんの話は、実にゆったりと、字も読めないし書けない、人との交わりない日常が描かれていく。二つの物語は、そのテンポを変えながらしかも、突然の激しい物語の進展をおりまぜながら語れれていく。

カフカ少年が住むことになった香川県高松市の甲村記念図書館。造り酒屋で素封家である甲村家が私費で作った図書館だ。現在の管理者は佐伯さん。ここの御曹司と結婚したが、学生運動の巻き添えをくって早死した。そのショックで行方を晦ましていたが、数十年後の戻ってきて、この図書館の管理人になっている。ピアノの勉強をし、19歳のとき作詞作曲して歌ったのが、空前のヒット曲になった。その曲名こそが「海辺のカフカ」だ。

あなたが世界の縁にいるとき
私は死んだ火口にいて
ドアのかげに立っているのは
文字をなくした言葉。

(中略)

溺れた少女の指は
入口の石を探し求める。
蒼い衣の裾をあげて
海辺のカフカを見る。

少年カフカと頭の悪くなったナカタさんは、知らない四国の地で収斂していく。「入口の石」がこの小説のキーワードになっている。読んでから4年ほどしか経ていないのに、ところどころの印象的な出来事のほかは、その内容はほとんど忘れいる。初めて読むときのテンポと感動で再読の楽しさに浸る。



コメント (2)
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