永井荷風の『断腸亭日乗』を開き正月の項を拾い読みする。昭和16年元旦(実はこの年の3月に私は生まれている)の項に
「正月一日風なく晴れてあたたかなり。炭もガスも乏しければ湯婆子を抱き寝床の中に一日をおくりぬ。昼は昨夜金兵衛より貰ひたる餅を焼き夕は麺麭と林檎とに飢をしのぐ。(中略)去年の秋ごろより軍人政府の専横一層甚しく世の中遂に一変せし」
と書いている。この年荷風は63歳、4畳半の女中部屋で自炊生活という気儘な生活であった。軍人政府の専横のなかでも、自分ひとり自由に暮らすことを喜びとしている。
「湯婆子」であるが、湯婆を中国読みで「タンポ」、湯たんぽを漢字でこのように表記した。私も夜は湯たんぽを愛用している。電気毛布や旅館の暖房などでは、どうも熱過ぎて安眠できない。ずっと石油ストーブを使っていたが、室内の空気が汚れるので、5年ほど前からエアコンの暖房にしている。低い温度設定でも、十分な暖房は取れる。灯油を外から運びあげる必要もない。よるの湯たんぽは、ほどよい暖かさで安心して眠れる。
昨年、札幌の友人宅に泊めてもらったが、全室に暖房をめぐらしていた。-10℃以下が日常の札幌では、この設備は欠かすことのできないものであろうが、暖房費が月にいくら掛かるか気になるところであった。