上山の西山の南端が虚空蔵山である。標高350m円錐形の山で、頂上に立てば上山盆地を一望にできる。このこの山の頂上には、高舘城という山城が置かれ、最上義光の出城の役割を担った。ここから遠望すれば、敵の軍勢も手に取るように見える。現在の上山城は、最上が改易になった後である。
昭和17年5月6日、斎藤茂吉は弟の高橋四郎兵衛と一緒にこの山に登り、眼下に盆地を見下ろし、2首の歌を詠んでいる。
眼下は平たくなりて丘が見ゆ丘の上には畑がありて 茂吉
畑というのは、今見える住宅地であろう。その時は麦を植えた畑で、5月の太陽に麦は青さを増していた。そして、麦畑をはさんで菜の花の黄色が盆地を彩っていた。
昨日の雨で、山の緑は雨に洗われていた。山道は木々の緑に覆われ、身体がすっぽりと山の気に包まれるようだ。木漏れ日が降る地点に来ると、気持ちが急に晴れやかになる。人間の身体は、日光を浴びることで元気づく。歩きながら、日光のありがたさをかみしめる。
東川の渓谷とほく入りてゆく川の石原白く見えつつ 茂吉
75年以上も前、斎藤茂吉がこの山にいて、同じ光景のなかに身を置いていたことに不思議な縁を感じる。東川は、宮川ともいう須川の上流である。山中にも渓流が流れている。木漏れ日の地点からほどなく、渓流のせせらぎが聞こえてくる。山鳥の甲高い泣声が混じる。春ゼミの鳴き声はないが、目にやさしい緑、山中に響く様々な音。同行する人たちの話声。五感はたっぷりと、自然に癒される。